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第三百二十六話『双方の折り合い』

「あらいらっしゃい。なんだかんだ四人そろったじゃない」


 お互いに驚きの表情で見つめ合っている俺たちをよそに、店主は何食わぬ顔で俺たちを出迎える。店主としてはそれが普通の反応なのだが、この場ではその反応が一番異質なようにも思えた。


「ネリン、聞いてくれ。これには――」


「どうせ何かしらの事情があるんでしょ?最初から三人が結託してあたしを締め出すつもりなら、あそこであんな表情しないはずだもの」


 変に疑ったりはしないわよ、とネリンはミズネの釈明を遮る。それは俺たちへの信頼の証であると同時に、俺たちがどれだけ隠し事が下手かということをひしひしと伝えていた。まあ、明らかにあの時の俺たちはおかしかったからな……。


「それはそれとして不思議ではあったらしいけどねえ。『なんで三人とも同じ日に出てくのかしら……?』って、しきりに首をひねってたわよ」


「ちょ、それは言わない約束じゃない!」


 あくまですました表情をしていたネリンだったが、店主の一言でその様子が崩れる。本当に悪意はなかったにせよ、ネリンにはこの現象が奇妙なものに見えていたようだった。


 というか、俺たちからしても奇妙な一致だったもんな……理由がある程度出せた今なら納得はできるが、それでもここまできれいに一致するもんかという妙な感慨の方が先に来るのだから、その輪の中にいないネリンからしたらもっと不思議な現象に見えていたことだろう。


「単刀直入に言うと、懇親会についてのことだったんだよ。ネリンのところは、出店してくれる店の見通しがある程度たっているだろう?」


「……まあ、そうね。クローネさんが根回ししてくれてるって」


「生憎俺たちにはそのパイプが無くてな。それなら目玉となる店をどうにかうちの区画に誘致したいってことで、たまたま偶然俺たちの意図が一致したんだ」


「あー……。それは、確かにこうもなるってものね。大方ミズネかアリシアがそのことを見抜いて、『それなら一緒に行こう』って提案した感じでしょ?」


 その予測から俺の名前がナチュラルに抜けている事には抗議したいところだが、現実問題一番気づくのが遅かったのは俺だから何とも言えない。ネリンの中の俺たちは、中々に解像度が高いようだった。


「……まあ、そういうところだね。まさか、そこでネリンが食事をしているだなんて思いもしなかったけど」


 ボクとしてはそっちの方が予想外だよ、とアリシアは苦笑する。それに対してネリンは残っていた焼き肉の一部をほおばると、それをよく噛んでからこう続けた。


「……どうせ一人で食べるなら、一番おいしいところに行きたいと思って。皆外食するってなれば、少しだけだけど贅沢もできるしね」


「それでこの店、か。確かに賢明な選択だな」


「そう言ってもらえるのは最高に光栄なことだねえ。自分から名を売るつもりはあまりないが、『また来たい』って思ってもらえるのは料理人にとって一番の誉れだよ」


 俺たちの話を聞いていた店主が、ネリンの評価に嬉しそうに胸を張る。それに続いて、俺たちに向かって真剣な視線を飛ばしてきた。


「……アンタたち三人が来てくれたのは、懇親会絡みのことだったっけか。あの華やかな祭りに出展させようと思ってくれるなんて、あたしの腕も一人前になったものだねえ」


「一人前どころか、この街でトップクラスと言っても何も過言ではないでしょう。ですから、是非とも出店を――」


 俺とアリシアよりもワンテンポ早く、ミズネが店主を勧誘する。先を越された俺たちが即座に続こうとしたところで、店主の腕がすっと伸ばされた。


「だけど、その話は受けられない。……言っただろう?アタシは名を売るつもりはないのさ。アタシを見つけ出してくれた客が、もう一回ここに来てくれるくらいが一番いいんだよ」


 どこかに腰を落ち着けるのは性に合わないさ、と店主は軽く笑って見せる。それは確かに納得の理屈で、俺たちが真正面から覆すことはできないものだ。……だけど、俺にはそれがすごく勿体ないものに思えた。


 たとえ俺の区画に来るわけではなくても、この屋台があるだけで懇親会全体の評判は良くなるだろう。それほどの才能を持った人が埋もれたままなんて、勿体ない気がしてならないのだ。


 かと言って、店主の望みに添わない形で出店を実現させても意味がない。懇親会をできるだけ盛り上げつつ、店主の信条にも外れない手段は、何かないものか……


 そんなことを考えて視線をあちこちに配っていると、店主がいる屋台が嫌でも目に飛び込んでくる。移動ができるように車輪が付けられてはいるものの、店名も何もないそれは、近くまで行かないと探していたそれと確認できないほどに存在感が薄かった。それならば――


「……あの。ひとつ、提案したいんですけど」


「聞くだけ聞いてみようじゃないか。言っておくけど、あたしの考えは変わらないけどね」


「ええ、それで構いません。あなたは何も変えなくていい。ただその屋台を使って、謎の『巡回する覆面屋台』として、懇親会が行われているこの町全体を巡っていただければいいんですから」


――誰のアドバンテージにもならないその提案は、本来ならばするだけ無駄なものだ。……だが、俺は確かな手ごたえを感じていた。


「……へえ、面白い事を言うじゃないか」


――目の前にいる店主の瞳に、何か熱いものが宿ったのを、この目で見られたからだ。

ヒロトの提案の真意とは、そして店主はその首を縦に振るのか!ますますいろんなものを巻き込んでいく懇親会の行方をぜひ楽しんでいただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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