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第三百二十五話『考えは似るもの』

「……しっかし、考えることってのは似てくるもんだね」


 夜の街を歩きながら、アリシアはしみじみとこぼす。俺たちが向かっているのは、どうしても出店してほしいある一つの店―—夜の街の片隅に現れる、絶品肉料理の屋台だった。


「一度食べたら忘れられない味だからな。店名もないなら店主の名前も聞いていないから、どういう名義で出せばいいのかだけが懸念点だが」


「そんなの、目玉料理が出てくれることに比べれば些細なことだもんな。考えてみれば、俺たちが同じ結論にたどり着くのは必然だったのかもしれねえ」


 準備のさなかでの羽休めだったということもあって、俺たちの中に残された印象は鮮烈なものだったからな。一緒に行ったという思いで補正も相まって、その優先度は自然と高くなったのだろう。そう考えると、俺たちはますます似た者同士になっているのかもしれないな。


「とはいえ、出店権を譲る気はないからね。……君たちに負ける気も、当然さらさらない」


「当たり前のことだな。……勝負となれば、私たちは手を抜かない」


 それが俺たちの礼儀で、暗黙の了解みたいなものだ。四人が全力を尽くしたうえで誰が勝つか、その過程を俺たちはきっと楽しんでいるのだろう。アドバイスを送りあうときもあるが、それは勝負全体のレベルを上げるためでもあったりするのだ。


「ここまで大した差が付きそうにないからな……どこかで大きなアドバンテージはやっぱりほしいんだよ」


「それぞれのチームと制作陣に大きな差がないからこそだな。細かいところ――というか、制作以外のところに勝ち筋を見出すのは悪い戦略じゃないだろうさ」


 やれることはすべてやるべきだからな、とミズネは軽やかに笑う。一番動向がつかめていないのがミズネのチームなわけだが、それでも何かとんでもないものが動いているのは容易に想像できた。


「なんだかんだミズネも負けず嫌いだからねえ。何なら一番まであるんじゃないかい?」


「それは皆に言えることさ。勝負ごとになると中々終わらないからな」


「カードゲームでも何でも、『あと一回』から五回くらいやったりするからな……」


 誰かが止めるべき場面なのだろうが、俺含めた全員がそれをやりうるからもうどうしようもない。最終的には時間に追われて、決着つかずで終わる事なんかも俺たちの間ではザラだった。


「そういう意味では、この勝負は良いな。もう一回もなければ延長戦もない」


「プレゼンでは流れてしまった明確な決着も、もう一回綺麗につける機会を得たわけだからね。……そりゃ、なんとしてでも勝ちたいってもんさ」


「そうだろうな。……俺も、絶対に負けたくねえし」


 みんなで行こうという提案も、抜け駆けを防ぐ意味合いの方が大きいのだろう。どこまでも用意周到だが、決して誰かを締め出そうとする形にしないのもまた俺たちらしいと言えた。


「だからこそ、ネリンには申し訳ないと思うわけだけど――」


「まあ、あの子には必要のない……というか、心配しなくてもいい部分だからね。日付が被ってしまったことに関してはあとで謝ればいい話さ」


 二人組に分かれて行動するのはちょくちょくあるのだが、三対一という構図はあまりない……というか、今日がほぼ初めてかもしれない。それゆえに締め出してしまっているような感じになるのが少し気まずくはあるが、そこらへんも含めて説明すれば分かってくれるだろう。


「……さて、そろそろだな。ここらへんで今日も店を開いているはずだが――」


「……ああ、あっちで湯気が上がっているよ。おそらくあれだろうが、やはりお客さんが入っているようだ」


「ま、あれくらい美味しい店だもんな……。俺ら以外の固定客がいたって何の不思議もないだろ」


 もし仮にそうなら、俺たちの話はその人がご飯を存分に楽しんでからだろう。その時間に俺たちが割り込むのはぶしつけすぎるし、そんなことをして店主の心証が悪くなるのもよくないからな。


 だから俺たちは遠巻きで屋台を眺め、お客さんが居なくなるのを待とうと考えていたのだが――


「……ほんと、妙なのよね……」


「……ん?」


「……あれ?」


「……いや、まさかな」


 その声は、妙に聞き覚えがある者だった。純粋に何かを不思議がっているようなその声は、俺たちにとってあまりに身に覚えのあるもので、思わず三人で顔を見合わせてしまう。


「……人違いだったら、あまりに迷惑だぞ?」


「それでも行くしかないだろ。いかないでネリンだった時の方が話がこじれる」


 ゆっくりと近づきながら、俺たちは小声で意見を交換する。そんな俺たちに気づくことなく、客はおいしそうに肉料理をほおばっていた。


「……おいしいもの食べに行くとは、確かに言ってたけど……」


「まさか、こんな偶然の一致があるわけ――」


 そんなことを言ってはいるが、俺たちの間には確信にも等しい何かがある。だからこそ、俺たちは無意識に息を殺してしまっていた。


 俺たちにとって、直近で食べた一番おいしい外食の記憶というのはこの店の肉料理で一致している。だからこそ俺たちが出店交渉先として一番に選んだのであり、そして――


「……あれ、何で三人ともここにいるの⁉」


――急に外食の予定に変わったネリンが、一番に選ぶ店でもあったのだった。

ということで、あっけなく合流を果たした四人はどんなやり取りを交わすのか!楽しみにしていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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