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第三百二十話『出店交渉の心得』

「……ここからは、場作りが俺たちの仕事ですか」


「そうなるな。先行きが不透明な中でメンバーの士気を保てるのはあやつしかおらん。ワシらがとやかく言っても逆効果になりかねん以上、あやつらの仕事が終わるより先にワシらはワシらの仕事を終わらせておくのが得策じゃろう」


 チームごとに顔合わせをしているメンバーたちの輪の中に戻るオウェルさんを見つめながら、俺とジーランさんは改めて自分たちの役割を再確認する。オウェルさんが自分のカリスマを目いっぱい活かせるように、俺たちが縁の下の力持ちにならなければいけなかった。


「アレはもともと現場向きの人材だ。不思議なことに、あやつの言葉には人を動かすだけの熱量がある。……適材適所と、そういうことだな」


「そうですね。……俺も、そこについては異論ありませんよ」


 俺たちもまた展示について意見を出すことがあるだろうが、それはもう少し先の話だ。俺たちがまずやるべきことは、その展示をレイアウトするための大前提。すなわち――


「出店者の確保。……ある意味、ワシらが一番苦戦してもおかしくない課題じゃな」


「これだって本来なら適任はオウェルさんですからね……その余裕が全くないから、俺たちで何とかするしかないんだけど」


 懇親会の準備は当然技術も必要とされるが、意外にも対人での課題が多い。そういう意味ではオウェルさんは最強クラスと言ってもいいくらいの適性を持っているのだが、オウェルさんレベルでないと太刀打ちできないような問題をオウェルさん自ら持ってきたのが俺たちの誤算―—というか、とことん理想を追い求めるオウェルさんの姿勢を侮っていた結果だ。何か閃いたような感じだったからまさかとは思ったが、そのまさかを地で行ってくるのは予想できなかった。


「現在出店が確約されているのは去年までのスタイルを貫くチームだけだろう。そう考えると、出店者の確保は早く動き出す必要がある。何なら今動きだしても早いと言えるかは怪しいところだ」


「そうですね。俺たちの発表を見に来てもらうってところでも、どれだけ屋台とか出店が充実してるかってのは重要なポイントでしょうし」


 展示のクオリティで勝つのがチームごとの勝利につながることは言うまでもないが、いかに足を運んでもらうかというのも重要な要素なのもまた見過ごせない事実だ。何かしらの名物ショップの出店があればそれ目当てで来てくれる人もいるだろうし、そうすればここの展示も目に入る。新しい事をやるからこそ、展示以外の来客理由というのはできるだけ充実しなくてはならなかった。


「去年までがいくつの出店を引き受けていたかは分からないが、これほどの土地があれば三十店は出せるだろう。食品から服飾、その他諸々をこの中で取りそろえることがワシらの目標だな」


「取り揃える……ですか。それよりも一つのジャンルに特化したほうがいいと思うのは、俺の考えが甘いんですかね?」


 今回のルールにおいて、『同じ人に二日に渡って来場してもらう』というのは大きな意味を持つ。二日かかって巡りたい要素―—例えば大量の料理店を一か所に集めれば、食べ歩き的な意味合いもかねて二日間の来場も見込めるのではないか――そんな俺の提案に、ジーランさんは小さく首を横に振った。


「それが出来るのはある種の理想ではあるが、難しいというほかないだろうな。……同じ場所にたくさんの同業者がいることを、出店側は好まないだろう」


「……あ、なるほど」


 経営者視点は盲点だった。B級グルメとかの文化を知っているからそれらが一堂に会することも自然に感じられるが、その文化がないとなると簡単にはいかないのだろう。競合他社が多いことは、普通は店にとっての利益にならないしな……。


「どんな客層にも足を運んでもらえるように、出来る限りいろいろな店へと声をかけるのがここからのワシらの主な仕事になるだろう。……体力仕事になるな」


「そうですね。足で稼がなきゃいけない役割ですから」


 街と街とのアクセスはテレポート屋があるから意外と便利なのだが、街の中はというと意外とアクセスが悪いのがこの街の現状だ。いろいろな店を回ろうと思うと、ざっと冒険するくらいは歩数がかかりそうだな……。この世界に来てずいぶんと歩き慣れてはいるし、それくらいでへばることは無いと思うが。


「……ジーランさんは、大丈夫ですか?」


「当然だ、ワシとて若いころは冒険者として鍛えた身だからな。町を歩き回る程度で体力を使い果たしたりはせんわ」


 俺の問いかけに、ジーランさんは不敵に笑って見せる。そう言われてよく見てみると、確かに今でもすらっとした無駄のない体形だし、今でも鍛えているかのようなスタイルだった。


「それなら安心ですね。……それじゃ、さっそく出発しましょうか」


「そうだな。いくつか心当たりはあるから、まずはそこから回るとしよう」


 少しずつ賑やかになってきたメンバーたちの輪を離れ、俺たちは街中へと繰り出していく。俺とジーランさんの新しいチャレンジが、今静かに幕を開けた。

次回からは出店を巡ったヒロトたちの奮闘が描かれます!生粋の商売人相手にヒロトたちはどこまで渡り合えるのか、楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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