表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

319/714

第三百十八話『一難去って、また』

「……さて皆、週明けにもかかわらず朝早くから集まってくれて感謝する。それでは今日も、私たちが作り上げてきたものを継承するべく邁進していってほしいのだが、その前に」


 今日も今日とて、クローネさんは厳格な様子を崩さずに話を進める。そんな感じで、いつも通りの作業が始まるのかと、あたし以外の誰もがそう思っていた。


「……ネリン女史の提案によって、私たちは去年までの懇親会に使った資材を再利用させていただけることになった。これらを使って、さらにいいものを作れるよう模索を続けてほしい」


――だからこそ、アイテムボックスから無数の素材をばらばらと取り出していくクローネさんの姿は、きっととんでもなく奇妙に見えただろう。その姿を、あたしは遠目から納得とともに見守っていた。


 クレンの手引きによって順調に……むしろギルド側から感謝されるくらいの勢いで進んだ倉庫探索は、あたしたちの予想していたよりもはるかに多くの成果を上げた。資材は単純に二倍くらいになったし、中には今後の意匠に役立ちそうなものも多くあった。全部が全部使えるってわけじゃないし選定にはかなりの時間がかかったけれど、その時間を考慮しても得るものの方が多かったと断言できるだろう。


 いちかばちかで聞いてみたって感じの提案だけど、とりあえずいい方向に向かってくれそうで何よりね……突然の資材追加で制作側のモチベーションも上がってるみたいだし、一番の窮地は脱したとみても何ら問題はないでしょうね。まあ、それでも予算はギリギリなんだけど……


「ネリン女史、ここにいたか。制作班の者たちも今回の資材供給に目を輝かせていたよ。さすがの着眼点だな」


「ええ、そうみたいですね。あの様子なら、もっといいものを作ってくれそうですし」


 正確には原案を出してくれたのはクレンなのだが、『そこは自分の案にしておいた方がいろいろとスムーズに事が進みますので』と言って、自らは手引き役に徹してしまっている。この前顔を合わせた時もあたしのチームで動いていることを言わなかったし、多分誰にも許可取らずにこのチームに在籍してるんだろうなあということは簡単に予想がついた。


 それで仕事が進まないとか、案件に遅れが出るとかなら問題行動もいいところなんだけどね……見た感じそんな様子もなかったし、つくづくクレンという人間はハイスペックなんだなあと思い知らされるばかりだ。


「……ネリン女史、どこかすぐれないところでもあるのか?ぼーっとしているようだが……」


「いえ、そんなことは全然。……少し、考え事をしていただけですよ」


「そうだったか。考えるべきことはまだまだ多いからな。つくづく気が抜けない」


 心配そうにこちらをのぞき込んでくるクローネさんに対して慌てて両手を振ると、とっさに出たごまかしに同調して考え込むような姿勢を取る。とても生真面目なクローネさんらしいなと思う行動だが、まだまだ課題が多いというのもまた事実だ。


「出店してくれる店に関しては、早々に勧誘が終わっているから問題はない。目玉となる主制作も、あれだけのパーツがあれば問題ないだろう。……となると、大きな問題は二つだ」


「二つ?」


 あたしの中にある問題としては、どの副展示を削るかというところだ。二日間あるから実質的に土地は二倍ある物だとしても、去年までの展示を再現しようとするのならばあと二日いる……つまり、どれだけ楽観的に考えても半分くらいは展示を削らなければならないのだ。どの展示にも意味があった以上、どこを削るのかというのは由々しき問題だった。


「ああ、それもそうだな。すべての展示が連動して一つの作品だった去年までの形をいかに再現するかというのは、私たちにとって一つの大きな課題だともいえる。……だが、それよりもさらに大きな問題があるんだ。……少なくとも、私にとってはね」


「クローネさんにとっては……ですか?」


 その含みのある言い方に、あたしは何らかの意図を感じずにはいられない。しかしその何たるかを掴み切れないあたしを見て、クローネさんは苦笑を浮かべて見せた。


「君が気づかないとは意外だな。……ある意味、君が一番身近な問題だともいえるのに」


「身近な問題……もしかして」


 そのヒントで、あたしの中で色々な情報が一つに繋がる。それは確かにあたしが身近……というか発端で、その上このチームとは一番合わないこの大会の要素。土地が四分の一になったことよりも、もっととんでもない問題があった。


 思い出されるのは、プレゼン会の時のあたしの発言。あの時、あたしは――


「『二日間にわたって、何らかのつながりを持たせる』。……それをどうやって作り上げようかということを、私はずっと考えている。……答えは、出ていないがね」


 この人の意向と真逆の提案を、堂々としていたんだ。

大きな挑戦を乗り越えたネリンたちですが、それでもまだまだ順風満帆とはいきません!それぞれの悪戦苦闘は続いていきますので、どうぞ応援していただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ