第三百十四話『俺たちの捉え方』
「うすうすそうなのではないかと思っていたが――まさか本当にそうだとは。本部は随分とあのキメラを重く見ているのだな」
「そうですね。一ヶ月もかけたうえで、撃破パーティである私たちの力量を試そうとする――あのキメラに何があるのかは分かりませんが、何かしら思うことがあるのは確かでしょう」
やはりかと言った感じで額を抑えるミズネに、クレンさんも同調する。かなり厄介な相手であったことは間違いないが、その背景には何かただならぬものが隠れているのかもしれない。
「そうなって来ると、あの魔法を使ったのは失敗だったな……どんな強者の命でも凍り付かせられる一撃ではあるが、素材が残せなかったことがここまで痛手になるとは」
「それがあれば少しはあっちに情報が行ったはずだもんね……ま、ああしないと勝てない相手だったってのは事実だけど」
「お互いに傷を共有し合い、それぞれを補うように連携し合う魔物。そうなれば、一度に両方に致命打を与えることが一番有効だからね。昔のボクたちは今の展開を知らないし、それを悔やんでも仕方ないことではあるね」
「そうだな……。アレ以外で勝とうと思うともっと手間のかかることになってただろうし」
この一ヶ月で色々な冒険を経てきたが、相手を無条件で撃破するあの魔法が使われたのはキメラ戦だけだ。さっきのカッスルタイガー戦が二度目の機会になるかと思われたが、それもまた別の方法で突破していたからな。言い換えれば、ミズネの全力を引き出したのはあのキメラだけということだ。
「冒険者歴が長く、実力も上位クラスのエルフに全力を出させたということだけで、よく考えたらとんでもない魔物だったのかもな」
「それは一理ありますね。どう撃破したのかというところもかいつまんでギルドに説明させていただきましたから、そこまで加味してテストをしようという判断に思い至ったのかもしれません」
「ギルド本部とは縁なく生きてきた身だからな……駆け出しの街と言われるところで大魔法を使うのはやはりまずかっただろうか」
そう言ってミズネは少し表情を曇らせるが、そこを気にする必要はないだろう。ミズネがあそこで仕留めていなければ、今でもあのキメラは討伐されていない可能性すらあるからな。
「感謝こそすれミズネが責められることは無いでしょ。本部が動く前に対処してくれてたんだから、案外大歓迎を受けたりするんじゃない?」
「そうか?それならばありがたいし、求められれば情報提供もできるのだが……」
「本部の冒険者の中にはそこに所属していることにプライドを持っていらっしゃる方もいますからね……そのような人を代表として出してくるとは思えませんが、何事もなく済むことをこちらとしては願うばかりです」
巻き込んだのは私ですからね、とクレンさんはどことなく申し訳なさそうに笑う。巻き込んだも何もない話ではあると思うのだが、そこは組織の代表としての責任感というものなのだろうか。俺たちは冒険者としてあの仕事を受けて来ただけだからな……。
「ま、とりあえず王都に行かなきゃいけないってところだけが確かなのよね。……それで、出発はいつになりそうなの?」
「懇親会についての事情は理解していただけましたから、それが終わるまでは待っていただけるとのことです。懇親会が再来週の休日二日を使って行われますから、それが終わったらすぐ出発という形になるでしょうか」
「かなりの弾丸スケジュールになるね……それほどに急ぎたい案件ってことか」
打ち上げとかをしている暇はどうやらなさそうだ、とアリシアはため息を一つ。そこまで息つく間もなく召集されるとなると、ミズネが行ってた息抜きもかなり先の話になってしまいそうだな……。
「王都にはいずれ行きたいとは思っていたけど……まさか、デビューがこんな形になるとはな」
「ギルドからの招集とはいえ、常に監視が付くわけでもないだろう。私も知識がないわけではないし、観光案内ぐらいはしてやれるぞ?」
「そうね。せっかくの機会だし、王都旅行としゃれこみましょ。ギルドの招集なんてついででいいわ」
苦笑している俺を見て、二人がそんなことを言ってくれる。図鑑とにらめっこしながら街を回るよりも経験豊富なガイド同伴の方がいいのはカガネでも分かっている事なので、その提案は純粋にありがたかった。
「そう聞くと悪い話ではないね。ギルドから招集されたって事情もあるし、もしかしたらそれ相応の好待遇も期待できる」
「相変わらずアンタはそういうところ良く思いつくわよね……。ま、それくらいされていい立場ではありそうだけど」
旅行ついでという話になるやいなや、辟易していたような様子のアリシアが息を吹き返す。それにネリンはため息をついたが、多分それくらいの心意気で乗り込んでいくのがいいのだろう。
「あくまでテスト、だもんな。そんなに気負わなくてもいいか」
「そうだな。それよりも、今は懇親会のことを考えるのが先だろう」
「あと二週間しか準備期間はないんだものね……。まだまだ試作段階だし、ここから先何があるか分からないんだから」
「そう聞くと、何か背中を叩かれているような気分になるねえ。『これが終わったら王都に行ける』と考えれば、モチベーションも途切れずにいられるだろうけど」
いきなりの話ではあったものの、とりあえず俺たちのスタンスは固まった。どんなテストが待ち受けているかは分かるはずもないが、まあなるようになるだろう。そんな風に腹をくくった俺たちを、クレンさんは驚いたような目で見つめていたが――
「……冒険者というのは、見ないうちにあっという間に成長してしまうのですね」
心から満足そうに、そんな言葉をこぼしたのだった。
一ヶ月という時間ではありながら、四人の成長は大きなものだと思います。それをここから描き出していければと思いますので、楽しんでいただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!