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第三百十二話『不確かなこと、確かな事実』

「……一ヶ月越しに続報とか、かなり間が空いたわね。急いでたみたいだし、情報が来次第すぐにこっちに持ってきたんでしょ?」


 ネリンを始めパーティメンバーも驚きを隠しきれないのか、確認と言いたげな質問を投げかける。それにクレンさんは大きく頷くと、手を顔の前で組んだ。


「あのキメラは間違いなく異常個体であることから、王都にあるギルド本部へと報告義務があったんです。普段なら事案に対する査問や検討は一週間程度で終わるのですが、それに関してはかなりの時間がかかったようで……。その答えが届いたのが、ちょうど昨日の夜くらいだったのですよ」


「普段の四倍の時間を要していたのか……それは確かに穏やかじゃないね」


「そうだな……それだけ前例がない話だったのか、それとも他の理由が何かしらあったのか」


 なんにせよ、一つの案件に賭ける時間の長さではないことは事実だ。俺たちが辛くも勝利したあのキメラにそれだけの要素があったとは思わなかったし、まさかそれが今になって繋がって来ることなんてなおさら予想外だった。


 次から次へといろいろな案件が舞い込んでくることは刺激的ではあるが、何にせよ今は懇親会のことを全てつつがなく済ませるのが最優先だ。その点では、急を要する事態にならないだけ少しはマシなのかもしれないな。


「届いた書面によりますと、あのキメラの存在を本部は『放っておいていい情報ではない』と評価していました。これだけならばギルド全体にそのような通達を出せばいいだけの話なのですが、『前例がなく、手掛かりもつかみにくい』例だったことでギルド内で扱い方に関して随分と意見の食い違いが起きていたらしく。冒険者の中でも特に実力がある者たちを集めている本部ですらそうなっているということが、この案件の異常さを示す一番の証拠になっていますね」


「経験が長いからこそ、自分なりのやり方というものもあるだろうからな……。得体の知れない事と遭遇した時に最初に頼るべきは自分の勘であるからこそ、意見が食い違うのは当然と言えば当然だろう」


 頭を抱えるクレンさんに対して、ミズネは本部を擁護する構えだ。その口ぶりからすると、ミズネも過去にどこかの協議会かなんかにいた経験があるのだろうか……?


「そう言うものなのですかね……私は協議というものにあまり慣れていないもので、そのあたりはよくわからないのです」


 一対一の会話ならば慣れっこなのですがね、とクレンさんは苦笑する。クレンさんはとにかく万能というイメージがあった分、こんな一面があったとは予想外だった。協議に疎い分を対個人での交渉スキルで補っている以上、それが弱点になる日は来ない気もするが。というか、場数さえ踏めば適応してきそうなのがクレンさんの底知れないところなんだよな……。


「協議というのは時として前代未聞のことを取り扱わなければいけない時もある。その時に頼るのは、長い時間を生きてきて育まれた勘であるべきだからな。……長老が突拍子もない事をたびたび言い出すものだから、そのたびに私たちはその勘に頼らざるを得なかったんだ……」


「……やけに解像度が高いと思ったら、エルフの里にいたころの話だったのね……」


 何かを思い出したかのようにこめかみを抑え始めたミズネを見て、ネリンが小さくため息を吐く。規律にはしっかりとしている割に自由なエイスさんのことだし、かなり振り回されてきたんだろうな……


「そんなわけで、キメラへの対応を巡って議論は平行線をたどっていたわけです。決定的な情報がなく、報告されている例と近似するものもない。ですが議論の中で、一つだけ確かな情報があったんだとか」


「一つだけ……?」


「ええ。それだけは揺らがない事実で、それこそがあなたたちを呼び出した理由に当たるものです。私も始めてみた時は目を疑いましたが、考えてみればそれは疑いようもない真実でした」


「そこまで断言するのなら、本当に明確なものなのだろうね。……それがボクたちに関連するというのは、いささか見当が付かないが」


「あたしも同感ね。キメラに関連することなんだから、あたしたちは関係ないでしょうに」


 アリシアとネリンが立て続けに疑問を呈するが、それでもクレンさんの視線は揺らがない。それだけ納得できるものが送られてきたのだろうが、俺も二人と同じくそれが何かは皆目見当もついていなかった。


「いささか逆説的なものではあるのですが、根拠としては十分なものです。……私たち五人がそのキメラを討伐したという事実だけは、決して揺らぐことなくそこにあるでしょう?」


「確かに、それはそうだけど……」


「……まさか、そういうことなのか?」


 まるでなぞかけのようなクレンさんの言葉に、ネリンとミズネが対照的な反応を示す。目をきょろきょろと動かしながら何かを呟いているその様子を見るに、何か思い当たることがミズネにあるのだろう。それをクレンさんも察したのか、大きくゆっくりと頷くと――


「……おそらく、ミズネさんの考えている通りです。……私とあなた方四人の実力をテストしたいというのが、ギルド本部からの通達の内容でした」


「……その言葉、久しぶりに聞いたな……」


 唐突に出てきた懐かしい言葉に、俺は思わず目を瞑る。まさか学力を試されるわけではないだろうが、避けては通れない何かが俺たちを待ち受けているということはどうやら事実の様だった。

四人を待ち受けているらしいテストとは何なのか、その詳細は次回明かされる予定です!平和ながらいろいろと積み重なっていく四人の日常を、どうか楽しんでいただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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