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第三百七話『冒険者のやるべきこと』

「お、いたいた。今は……周囲の警戒も薄いか?」


「そうだな。大方食事が終わったころなのだろう。ちょうど昼下がりと言った時間帯だからな」


 その後ろ姿を見つめて、俺とミズネは小声で情報を共有する。それに気づくこともないまま、討伐対象の大きな尻尾がゆらりと揺れた。


 今俺たちが狙っているのは『リクーバ』と呼ばれる魔物で、簡単に言うと平原で活動できるビーバーのようなものだ。普段はそこまで人間に害をなすことは無いのだが、大きな群れができるととんでもない規模の建築を本家ビーバーよろしく作り上げることがあり、それが交通網に影響を及ぼすらしい。凶暴性が低くとも魔物は魔物、討伐するにはそこそこ骨が折れるということで三か月に一度くらいのペースで依頼がギルドに来るという話だった。


 俺たちもクエスト中に何回か小さな隠れ家のようなものを作り上げているのを見たことがあるが、討伐対象とするのははじめてだ。草と時々落ちている枝だけでよくもまあ器用に建築をしてみせるものだと感心さえしていた節があるが、そういう感情はとりあえず置いておかなければ。


「俺たちに害をなす可能性があるなら、数は減らさなきゃいけない……だもんな」


「そういうことだ。共存するためには、時として厳しくならない時もある」


 意識を集中させて、岩を削りだしたようなナイフを何本か作り上げる。これもミズネから学んだ技術だが、やればやるほどミズネの魔力操作の丁寧さに驚くばかりだ。イメージ通りの形を作り上げるってのは、想像の五倍くらい難しい事だったからな……。


「……よし、行くか。俺たちが突っ込むから、二人は後ろから援護射撃を頼む」


「了解。くれぐれも油断するんじゃないわよ?」


 振り向いて後衛の二人に作戦開始を告げると、その手に小さな炎を揺らめかせてネリンは笑う。堂々としたその態度に俺も苦笑を返して、目の前の獲物を見据えた。


「……タイミングを合わせて仕掛けるぞ。2……1……ここだ!」


 ミズネの合図に合わせて俺も岩のナイフを放つと、それよりもはやい速度で打ち出された氷の槍がリクーバの群れを大きくかき乱す。突如訪れた破壊から逃げ惑うその体を、遅れてやってきた岩のナイフが何本か貫いていた。


「よし、奇襲は成功……‼」


「作戦はここからだ、気を抜くなよ!」


 リクーバたちが混乱しているのに乗じて、俺とミズネはそれぞれの武器を手に群れへと駆けだしていく。この一ヶ月でかなりなじんできた愛剣の感触は、俺を少しだけ落ち着かせてくれた。


 この一か月の中で磨いてきたのは、なにも魔術を扱うすべだけではない。近接戦闘もしっかりと訓練を付けてもらっていたし、それを通じて与えられた武器を扱う力もずいぶんと身についたと思う。クレンさんから紹介され、ミズネと出会ったあの鍛冶屋で作ってもらった特製の長剣は、手に持ってもその重さを感じないほどに軽やかだった。


 それに振り回されていては話にならないのも事実だが、その時期はもう抜け出している。体のひねりと体重移動を使って、出来る限りの速度を確保。直撃すれば小型の魔物には致命傷となる一撃を、俺は目の前にうずくまっているリクーバへと放って――


「う、おおおおっ⁉」


 それが狙い通りに着弾しようとしたその直前、一つの黒い影が剣との間に割り込んでくる。今の俺ができる最速の一撃を叩きこんだつもりだったが、ガキッという音を立てながらそれは跳ね返されてしまった。


「くっそ、いったい何が――!」


「大方この群れの長だろう、気を抜けばやられるぞ!」


 ふと横を見れば、ミズネの一撃は大きめのリクーバに受け止められている。とっさに目の前へと視線を戻すと、そこにいたのは体中に傷跡を背負ったリクーバの姿だった。


 傷跡と言ってもさっきの俺たちの奇襲で受けたものではなく、もっと古い戦いでできたものだろうということが容易に分かる。きっとこいつは、長い間あの群れを死守してきた存在なのだ。


「でも、こっちも依頼されて来てるんだよ……!」


 後ろへと跳んで一度距離を取り、構えを立て直しながら岩のナイフを作り上げる。俺の近接戦闘は大体ミズネからの受け売りでできているが、それでも十分戦えてしまうほどに完成度の高いスタイルだった。


「……行くぞ!」


 その言葉の意味を理解したのかは定かではないが、リクーバもすっと姿勢を落とす。決して大きくはないはずのリクーバが、この時ばかりは大きく見えた。だが、俺だってひるんでばかりではいられないのだ。


「う……おおおっ‼」


 リクーバの攻撃が始まるよりも早く、俺は剣を構えてその体へと叩きつける。だが、それはさっきと同じように受け止められた。……おそらく、長になる歴戦のリクーバともなるとその爪は大きく発達しているのだろう。それを好き勝手に振り回されては、こっちの踏み込む隙は見つけられそうにないからな。


「そうなっちゃ、こっちとしても困るからな……!」


 リクーバの側にも群れを背負うものとしての責任があり、だからこそこうして強くなってきたのだろう。それは立派なことだと思うし、そんな群れを狙うことに対して一抹の罪悪感がないかと言われたら嘘になる。……だが、俺だって冒険者の端くれなのだ。守るべきものが脅かされる可能性があるのなら、それを徹底的につぶすのが俺の……俺たちのやるべきことだ。


 だから、俺は一瞬歯を食いしばって――


「……襲い掛かれッ‼」


 俺がそう叫んだ瞬間、ふよふよと周囲を漂っていた岩のナイフが一斉にリクーバへと突き立てられた。

この一ヶ月で、ヒロトも色々なことを学んでいます。それがふんだんに発揮されるかと思いますので、ここからも楽しみにしていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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