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第三百六話『経験がなせる技』

「これで六件目、と。大物を最初に片付けておいたのは正解だったな」


「そうね。他は少し増えてきた程度のものだし、いつも通りのクエストって感じ」


 討伐対象を一掃して、ミズネとネリンがそう言葉を交換する。太陽は高く昇っており、俺たちがクエストに出発してからそこそこの時間が経っていることを教えてくれた。


「ローテーションを組むくらいの余裕はあるしね。おかげで量の割には疲労が少なく済んでいるよ」


「それが俺たちの強みでもあるからな……全員が前衛も後衛もできるってのは中々ないだろ」


 こちらに歩み寄って来る二人を迎えながら、俺とアリシアはしみじみとこぼす。万能というには少し力不足な部分もあるかもしれないが、皆がいろんな役回りをできるというのはありがたかった。


 今回の戦闘で言えば、ネリンとミズネが前衛でバリバリ戦闘、俺とアリシアが後衛からの援護と言った形をとっている。と言っても、俺がやったのは相手の機動力を奪うくらいのことなんだけどな。後衛にいても前衛を張っていても、ミズネが戦線に及ぼす影響というのはめちゃくちゃに大きいものだ。


「それをうまく生かすのが役目……そう割り切れば、やるべきこともおのずと見えてくるってもんだ」


「私としては援護に回ってもいいのだがな。それはまたいずれ、だ」


「しばらくはミズネがエースの方がいいでしょうね……。まあ、いずれは追いつくけど」


 柔らかく笑うミズネの隣で、ネリンはぐっと拳を握りこむ。それは俺たち全員が思っている事でもあって、俺たちがうまくいっている一番の要因と言ってもいい考え方だった。


 最近は懇親会の準備もあっておろそかになりがちだが、俺たちは定期的にクレンのところの修練場を借りてミズネに指導を仰いでいる。長い経験に基づいたその指導は非常に的確で、俺たちのジャンプアップはミズネの指導なしにありえなかったと断言していいくらいだ。


「一ヶ月で俺が前線を張れるようになってるんだもんな……それを思えば、いずれは何でもできるようになりそうなもんだ」


「皆の努力あってのものさ。意欲のない者を教えることはできないからな」


「それにしたって、ミズネの理論は洗練されたものだったけどね。思わずボクも目から鱗だったよ」


 ミズネはあくまで謙遜する姿勢を崩さないが、その指導法はアリシアからしても未知のものだったらしい。魔術師としての力量ばかりに目が行きがちだが、冒険者としての経験値からくる指導力も未だに底が知れなかった。


「雑談もいいけど、これ以上のお話は移動しながらにしましょ。めぼしいものはないにしても、クエストはまだまだ残ってるんだからね。……ほら、ヒロト」


「……ん、援護は任せたぞ」


 完全に雑談モードに入ろうとしていた俺たちを、ネリンの一声が引き戻す。ネリンがこちらに歩み寄りながら手を伸ばしてきたので、軽く手を合わせて今度は俺が前線に出た。こんな感じのローテがあることによって、俺たちの疲労はいい感じに分散できているのだ。


「この景色にも慣れたか?先頭で見る景色というのはかなり広いだろう」


「そうだな。色々見えるし、警戒も中々解けねえよ」


 ミズネの意向もあって、俺が前線を張る機会は最近になって増えてきていた。誰かの後ろにつかないで見る景色はやけに広く思えて、もし何か異常があっても見逃してしまいそうなのが不安なところだ。


「そればかりは経験が解決してくれるのを待つしかないな。……そんなことを言っている間にも、ほら」


「ほらって言われても……あ」


 微笑みながらミズネが指さした方を見やると、小型の魔物がこちらを睨みつけていることに気づく。繁殖期に近いこともあってか、住処に近寄ることに対してかなり敏感なのだろうか。原因はともかく、これ以上近づいてしまっては戦闘は避けられないだろう。


「……討伐対象でもないし、少し迂回しよう。俺たちが踏み込んで来た側だからな」


「そうだな。こういうのを見落とさないことが、冒険者の経験がなせる技というやつさ」


 ミズネはなんでもない事のように言っているが、雑談しながら視界の端にいた魔物を見つけるなんてどう考えてもただ事ではない。幸いなことに俺の視力は両目ともに良好なのだが、ミズネの視野の広さは単純な眼の良さだけでは説明できないタイプのそれだった。なんというか、そこまでくるともはや勘とかも混じって来るんじゃないか……?


「ああ、それも否定できないな。魔物たちの習性や繁殖期、それに生息地なんかは大体頭に入っているから、それをもとに大体の推測はできるのさ」


 気になったことをぶつけてみると、やはり俺の思った通りの解答が返って来る。多くの経験からくるあまりに精度の高い勘や推測が、ミズネから漂う余裕の雰囲気を支えているようだった。


「さて、次のクエスト地点までもう少しだな。私も警戒しておくが、ヒロトも怠るなよ?」


「了解。これも経験、だもんな」


 釘を刺してくるミズネに苦笑を返すと、俺は周囲に目を凝らしながら平原を歩く。幸いなことにこちらへ害意を向けてくる魔物は見つからないまま、俺の視界にこの一ヶ月で見慣れたシルエットが入ってきた。

次回、ヒロトの一ヶ月の成果をご覧に入れられるかと思います!ミズネの指導の効果がどれほどのものなのか、楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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