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第三百五話『主力、躍動』

 ちょっと不格好な形にはなってしまったが、俺の仮説を検証するにはこれが一番最適だ。カッスルタイガーの皮膚が衝撃を受けた瞬間に魔力的な反応を起こして相手の攻撃を迎撃しているのなら、ゆっくりと落ちてくる面積の大きな攻撃だったら確かにダメージを通せるはずだ。アイツの防御力が高いのは、強い衝撃を受けたその瞬間だけのはずだからな。


「合っててくれ、俺の仮説―—‼」


 岩の形成が完全に完了したのを確認して、俺はゆっくりとその岩を落とし始める。カッスルタイガーは目の前のミズネのことを警戒しているのもあって、俺が仕掛けた攻撃には気づいていないようだ。


 それに気づいたミズネがこちらに視線を投げるが、俺は軽く頷くだけにとどめる。気づかれないからこそこの検証はできるのであり、視認されてしまえば一蹴りでよけられてしまうだろう。それをしないためにも、ミズネが圧をかけていてくれることは重要なのだ。そのおかげで、勝ち筋が見える――


「いっ……けえええええ!」


 俺の声に反応してカッスルタイガーはようやく気付いたようだが、その瞬間にはさすがにもう遅い。ゆっくりと落ちてきた大質量は、重たい音を立てながら魔物の背中に衝突した。


「ガ……ロオオッ⁉」


「……っし、効いてる!」


 背中に加わった衝撃は予想外のものだったのか、崩れた体勢を立て直すのに手間取っている様子だ。それを見たミズネもヤツの攻略法に気が付いたようで、空中に大きな氷の塊を作り上げていた。


「……お手柄だ、ヒロト‼」


 平原に突如天井が出来たかと思うほどに大きな氷の塊は、そのままでいればミズネも巻き込まれてしまうほどの規模だ。自分のリスクを度外視したその行動に俺の背中を冷や汗が伝うが、それと同時にアリシアが地を蹴った。


「……雷光よ!」


 一蹴りで体を宙に投げ出し、もう一蹴りで地を這うように急加速する。紫電をまとったその足が、アリシアを一蹴りでミズネのもとまで届かせていた。


「……想定通りだ。ありがとう、アリシア」


「やっぱりボクの救援前提だったか……。確かに魔術に専念した君は強いけれど、機動力をボクに任せきりにするのは危険かもしれないよ?」


 アリシアに抱きかかえられ、ミズネが俺たちのもとに帰還する。ミズネは柔らかな笑みを浮かべていたが、その救出劇の立役者であるアリシアは少し苦い表情をしていた。


 魔術の操作に専念したミズネをアリシアが抱えて動くのは俺たちの新戦術と言ってもいいくらいに定番の動きだが、アリシアはその戦術をとることを渋りがちな傾向がある。自分にかかる負担がどうこうとかではなく、『魔術の操作が難しくなるから巻き込みかねないのが嫌だ』ということだそうだ。それを聞いてもなお、ミズネは平気な顔で作戦にそれを組み込むのだが。


「実践においてこそ魔術は成長するものだからな。訓練だけでなく、実践で磨くほうが大事なことだってあるってことさ」


 ちゃんと自衛できるだけの余裕はあるから安心してくれればいいさ、とミズネは軽く笑って見せる。冒険者として過ごすうちに一緒に戦う機会も増えてきたが、それでもミズネの底はまだまだ見えない。その実力の何割をいつも引き出しているかというのは、俺とネリン、そしてアリシアの間ではよく上がる話題の一つだった。


「……でも、大丈夫なの?いくら大きく作ったとはいえ、全力で走れば逃げられちゃうんじゃ――」


「ああ、それについては大丈夫だ」


 思い出したかのようなネリンの懸念に、ミズネはさらっと答えて見せる。ふと視線をカッスルタイガーに向けると、その足元は氷の楔に繋がれていた。


「ヒロトのおかげで、瞬間的な攻撃ならば破壊されることは無いと気付けたからな。アリシアに運ばれながら、足元を氷の楔で厳重に縛り付けておいた」


「……いや、さらっと言うほど簡単な事じゃないだろ……」


 まるで買い物ついでにごみを出してきたことを報告するような口調だが、俺たちがやろうとしてもとてもできることではないだろう。アリシアに乗せられての高速移動中にピンポイントでカッスルタイガーの足元を縛り付けるなど、どれだけ正確な操作精度があればできるようになるんだ……?


「もうそろそろ決着がつくはずだ。……ほら」


 軽く指さすと同時、氷の塊が完全にカッスルタイガーに直撃する。一瞬の防御で防げるほど甘くない大質量の暴力は、一見すると無敵にも思えたその巨躯を軽々と押しつぶした。


「……やっぱり、突破口が見つかればあっけないわね……」


「それが出来るだけの力量はあるからね。……うちの主力は、あまりにもぶっ飛んでいるよ」


 ここまでの苦戦が嘘のような一瞬の決着に、俺たちは思わず苦笑するほかない。……だが、これがパーティの力全てを結集しなければ勝てなかった戦いなのもまた事実。主力はミズネだが、かといってワンマンチームという訳ではないのだ。


「……さて、次の依頼に行こうか。休みの日は短いからな」


「「「了解‼」」」


――俺たちの方を見て微笑むミズネに、俺たちは全力で応える。一か月前と比べても、今の方がパーティとして完成し始めている。それは、俺たちの中でも共通の認識だった。

一ヶ月経った今のチームの形、皆様にも伝わっていると嬉しいです!もう少しだけクエストは続いていきますので、そちらも楽しんでいただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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