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第二百九十八話『定めた土俵の中で』

――今のカガネの街に根付いている多様性を、懇親会の中で表現する。私の立てたテーマは『共存』という言葉がそこかしこで重要となってくるわけだが、その道中でチームは一つの課題に突き当たっていた。というのも――


「……ストーリー性をどう持ち込むか、その答えは未だ見えてこないな……」


 アリシアがプレゼンを勝ち抜いたことによって課せられた、『二日間の間に繋がりを持たせる』という要素。それ自体は素晴らしいアイデアなのだが、この街特有の『雑然とした共存』を描くにあたって、その制約はかなりの重しとなって私たちにのしかかってきていた。


 時間軸をずらすことによって表現するという手もあったが、それはアリシアの打ち出したものと被りかねない。そもそもの方向性がヒロトたちと少し重なりつつあるという話も聞いているし、そうなると私たちに求められるのは独自性、もっと言えば私たちが一番だと言える要素だ。それがない限り、優勝は夢のまた夢だと言えそうだった。


「根本的なところでありながら、今回の制作を決定づけるものであるのが厄介ですよね……だからこそ、俺たちも慎重にいかなくちゃいけない」


 そう言って首をひねるのは、この街で服飾店を営んでいるという若い男性、ジェイだ。冒険者の街でそう言った需要があるとはあまり思えなかったのだが、『冒険者だからこその服飾需要というものはある』という答えが返ってきたのが印象的だった。


「この部分が決まらない限り私たちは制作に移れないからな……それ以外の部分は順調に進みそうだが、そこだけがネックとなる部分だ」


 いろいろなジャンルの店を営む人やそこで働く人がメンバーとなったこともあって、作業の効率は全チーム随一と言っていいほどだろう。だからこそ悩む時間も多く取れるわけだが、それにしたってここでいつまでもぐずぐずしているのも考え物だった。


「かと言って繋がりを適当にしても制作のクオリティは下がる……さて、どうしたものか」


「日常に密着する以上、派手なつながりを作るわけにはいきませんからね……妥協は許されませんが、そのテーマに即することが大前提なのが難しいところですね」


 そこを軸にした私の責任ではあるのだが、このルールを想定して動けというのもまた酷な話だ。私たちが全力で戦った先の着地点がここなのだから、少しばかりの窮地は甘んじて受け入れるべきなのだろうな。


「他のチームの様子も小耳にはさんではいるが、状況は横一線と言えるだろうな。アリシアに関してはマイペースとしか言いようがないが」


 他の二チームが提案者との折り合いやメンバー同士の摩擦に四苦八苦しているのに対し、アリシアはあくまで自分のペースを保っているという印象だ。それがどう出てくるか、私にはまだ何とも言い難い状況だが――


「まあ、気にしてもしょうがないってやつですね……あくまでクオリティの高さで俺たちは勝利するべきなんですから」


「そうだな。それ以外にできることもない」


 テーマは決まらないままだが、今日が終われば二日間のインターバルがある。その日に何をするかは決めていないが、気分転換をすれば何かしら閃くこともあるだろう。それに賭けるしかないという現状が、私たちの厳しさを示しているような気がしないでもないが。


「それにしても、今年の懇親会は波乱含みになりそうですね……。どこまで受け入れられるやら」


「そればかりは私も予想できないな。それぞれの個性が強すぎることもあるし、そもそもこのシステムに来場者がどれだけ適応してくれるかも読めないのだから」


 異世界の知識を持つヒロトだからこそ出せた案だというところもあるが、それがもたらす影響は不明瞭だ。それが観光客の足を遠のけさせるのか、それとも新しい客層を導き出すのか。……こればかりは、エイス様の知識を以てしても予想するのは厳しいだろう。


「……ただ、何かしらの波乱は起こる。それだけは確かで、それが一番の鍵なのだろう」


 問題はその波をいかに乗りこなすかだ。それが出来たチームから制作は完成していくだろうし、それが出来なければずぶずぶと沈んだまま本番を迎えることになるだろう。どんなものを作るにせよ、相応のリスクが伴うのがこの戦いのキーポイントだ。


「……そこまで分かっていても、いまいちこの波に乗り切れていないところが私たちの現在地を表している気もするがな」


 ヒロトとネリンのルールが併用された今、このルールは誰の独壇場でもない。故にそれぞれのアプローチで動いていくほかになく、そうなるとテーマを狭く設定した私たちにそのツケが回って来るのだ。テーマの狭さは、そのままとれる案の多様性に影響してしまうからな。その点はネリンにも言えることだが、最近の様子を見るに心配する必要はないだろう。


「まだ始まったばかりですから。手探りでも、最終的に答えを見つけ出せばいいんですよ」


「……ああ。お前の言う通りだな」


 よほど思いつめた表情をしてしまっていたのか、ジェイが私の顔をのぞき込んでそう激励してくれる。その心遣いがありがたくて、少し肩の力が抜けた気がした。


「皆の力を借りて、最高のものを作る。……それさえブレなければ、私たちはたどり着けるさ」


 他の三人も、きっと私たちと同じ結論にたどり着いてくるだろう。そうなったときに、果たして誰が勝利するかは誰にも分からない。……だが、それでいいと思った。そうなれたのは、きっとこの街で過ごした一ヶ月が大きく関係しているのだろう。


 私たちのチームの足取りは遅く、制作にいつ移れるかも不透明だ。……だが、進むべき道を見定めた私に不安はなかった。……それぞれの結論がぶつかり合う日が、楽しみだな。


「……そこで、決着と行こうじゃないか」


 一時は負けたが、最終的な勝利はきっとつかみ取って見せる。その決意を新たにして、私は頬を緩めた。


 

それぞれの決意を新たにしながら、懇親会は一週目を終えていきます!ここから週末の一幕を挟んで二週目に突入していきますので、それぞれの尽力の形を楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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