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第二百九十話『それぞれのスタートダッシュ』

「ただいまー。今日は俺が最後みたいだな」


 あれからオウェルさんたちと案を詰めていたこともあって、家に着くころにはお昼時も終わろうとしていた。正直昼飯を食べ損ねてしまいそうな感じではあったが、居間でくつろいでいる三人を見る限り作るのを待ってくれていたようだ。その心遣いがありがたかった。


「おかえり。ずいぶん話し込んでたみたいね」


「そうだな、かなり具体案も見えて来たって感じだ。……そっちは、どうだ?」


 昨日の外食でリフレッシュはできていたみたいだが、それと懇親会の問題というのはやっぱり別の問題だ。少しでも状況が好転していればいいが――


「……まあ、昨日とさして変わらずって感じね。……昨日と違って、突破口は見えて来たけど」


 苦笑を浮かべるネリンの表情は、昨日と違ってかなり穏やかだ。まだ順調という訳にはいかないのだろうが、思いつめたような表情が和らいだだけで俺としては一安心だった。


 よく見てみればネリンもまだ帰りたてのようで、外着のままくつろぐその額には少し汗が浮かんでいる。どういうことが起きてるかは俺には分からないが、ネリンが精力的に動いているなら悪化するということもないだろう。


「私も心配していたが、どうやら動き方が見えてきたようで何よりだ。本調子でないネリンに勝っても違和感が残ってしまうからな」


「心配かけてごめんね。……でも、あたしはもう大丈夫よ」


 ようやく見えた突破口がよほど効いているのか、ネリンの返答にはめらめらとした闘志が燃えている。少し出遅れる形にはなってしまったが、こうなったネリンの追い込み力が高いのはこの場にいる誰もが実感している事だった。


「どうやらみんな軌道に乗り始めたみたいで何よりだよ。自分のペースでやった方がいいとはいえ、ライバルがペース崩しているのを見るのはボクとしても忍びないからね」


 張り合いがなくなってしまう、とアリシアは笑って見せる。普段言葉には出さないが、アリシアも勝負ごとに関しては公平を望むタイプだからな。フェアリーカード初見の時、俺たちが気を使ってることも見抜かれてたし。それで少し不満気なアリシアを見て、唯一最初から本気で臨んでいたネリンが「そらみたことか」と言いたげな笑みを浮かべていたのが印象的だった。


「こっから巻き返してやるから安心して。こっちだって人が揃ってないわけじゃないし、ちょっとかみ合わせを直しさえすればぐるぐる回りだすから」


「それなら安心だな。私のところも実現に向けて取り掛かりだしているし、ここからが本格始動という感じか」


「そうだな。どっちかと言えばここまでは準備期間というか、チームで動くことへの慣らしというか」


 出遅れたという事実こそあれ、それが生み出す差は本当に微々たるものだろう。こっちも議論が進んではいるが、何一つとして形にはなっていないわけで。そういう意味では、ここまでの成果は横一線と呼ぶのがよさそうだった。


「油断すれば誰しもが足をすくわれかねないからね。その引き締めはしっかりしていかないと」


「アリシアとミズネはそこら辺の意思統一が簡単なのがいいよな……。俺がいくら気を付けてても気の回らないところはあるし」


 そこはチームの編成上の違いともいえるのだろうが、そこはトップが多い事の欠点ともいえる。今はネリンがその割を食っている感じだが、いつ俺たちに降りかかるかも分かったもんじゃないからな。


「予算をどう使うかも決まってないし……どうしたもんやら」


「ある意味で一番自由度が高いのはヒロトたちだからな。そう聞くと長所にも見えるが、自由過ぎるのもまた難題ということだ」


 ミズネの考察はまさにその通りで、俺たちは自由度の高さに悩まされているともいえる。全員の意見を拾えるってところは理想的ではあるのだが、それ故にどう実現するかって問題と一番真面目に向き合わないといけないのも俺たちだった。コンセプトがコンセプトだからメンバーの主張もかなり強いし、そこら辺とどう向き合っていくかも争点になっていくだろう。


「まったく新しい懇親会を作らなきゃだからな……。どれだけ受け入れてくれるか次第だよ」


「ま、そこはあたしたち皆そうだと思うわよ。受け入れられるかどうかは本番にならないと分からないし」


「そうだな。私たちにできることは、自分たちの全力を賭して最高のものを作り上げることだけだよ」


 俺の懸念に、ミズネとネリンはどっしりとした構えを取っている。そこは流石の経験というべきか、あるいは懇親会を長く見てきたものとしての価値観というべきか。なんにせよ。俺がしてきていない経験が二人のスタンスを下支えしているようだった。


「こう見ると、それぞれのチームに別方向の強みがあるんだな……」


「そうだね。だからこれは、ボクたちのコンセプトのぶつかり合いともいえるのかもしれない」


 だからこそここまで面白いのかな、というアリシアの総括に、俺たちは唸りを上げる。そのまとめが、今回の懇親会の本質をついているように思えた。


「それじゃあ、ボクは料理を作って来るよ。ネリンほどのものは作れないけど、努力した分くつろいで待っていてくれ」


 そういうと、軽やかな足取りでアリシアはキッチンへと向かっていく。そのご機嫌な足取りは、ここから先の勝負への高鳴りを示しているようだった。

方向性の違う四人がどんな展示を作り上げるか、その完成を楽しみにしていただければと思います!ヒロト視点中心ではありますが、合間合間に三人それぞれの視点も挟んでいきますのでそちらも楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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