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第二百八十三話『遠慮なんて』

「いやー、満足満足。予想外のクオリティだったわね……」


「そうだな……ネリンの人脈には驚きしかねえよ」


 今のソファーにもたれかかりながら、俺たち四人は絶品料理の記憶をのんびりと振り返る。あの店が初見ではないネリンでも大満足の出来なのだから、初めてあのハンバーグを味わった俺らからすれば満足以外の感想が出てくるはずもなかった。


「ネリンのことだからまだまだおいしい料理屋は知っているんだろうな……次はどんな店が紹介されるかが今から楽しみだよ」


「そんなに期待はしないでよ?あたしだって最近はいろんな人と会えてないし、昔通りに今もやってるところの方が珍しいんだから」


 そういうのは移り変わっていくものなのよ、とネリンはどこか寂しそうにこぼす。それが実体験に基づくものなのかは、その表情から読み取ることはできなかった。


「たまにはこういう息抜きをするのも大切だということだな。明日からのチーム活動もあるし、英気を養うのも大切な行動だ」


「そうね……さて、どうすればうまい感じにまとめられるのかしら……」


 ミズネの一言に、俺たちはふと現実に引きずり戻されたかのような感覚に襲われる。すっかり週末気分だったが、まだ二日くらいは休みがないんだよな……。まあ、それほど辛いという訳でもないのだが、やはりチームの展望が見えきらないことへの不安というのはぬぐいきれなかった。


「策を練らなければ、だね……ボクのやりたいことを一番理解しているのは間違いなくボクなんだから。そこは、ネリンとヒロトとの一番の違いかもしれないな」


「それはそうだな……俺たちの場合、発案者とまとめ役が別なわけだし」


 そのどちらが有利かというのは何とも言い難いところだ。ミズネとアリシアのところは一人にかかる負担が大きくなるが、その代わりに分断が起こることも考えにくい。一方、こっちはトップに当たる人が二人いるわけだから負担は少なめになるが、俺たちの方針と発案者の方針がかみ合わなければ状況は一気に悪化しかねない。そのリスクまで考えると、発案者のところに俺たち二人を付ける選択をしたベレさんは賢明だったということだ。


「決まれば一気に進む私たちと、何事もゆっくりと話し合いを介するほかないヒロトたち――どちらが勝つかは、興味深い問題だな」


 ミズネはそう言って楽しそうに微笑んで見せる。やはり未知の事象に対して心が躍っているのか、懇親会を通じてミズネはいつも楽しそうで何よりだ。


「ボクたちからしたらリベンジマッチ、願ってもない機会だからね……仮に僕たちに不利な条件だったとしても文句なんて言いようもないし、有利だったら途轍もなく幸運ってことでベレさんに感謝するほかないさ」


 勝負は時の運ともいうし、とアリシアはいつも通りの口調で付け加えて見せる。今回も飄々としているアリシアだが、その内にはしっかり炎が宿っていることは言うまでもないだろう。


「こういう勝負ごとに対して真剣なとこ、昔から変わらないわよね。それ、あたしは良いと思うわ」


「それのせいで孤独だったのだから、何とも言えないけれどね。まあ、孤独よりも手加減の方が何倍も嫌いではあるのだけどさ」


「でしょうね。負け続けるアタシに対して手加減するアンタだったら、あたしはすぐに興味をなくしてたわよ」


「……なおのこと、手加減を覚えなくて幸いだったよ」


 からかうようなネリンの物言いに、アリシアは苦笑を一つ。普段から素直じゃない二人にしては、このやり取りは中々に直球と言えるものだった。


 この二人、言い争いはよくするけど喧嘩はめったにしない……というか、見たことがないんだよな……。いつもどこかにじゃれ合いのような雰囲気があって、見てるこっちからしても安心だ。ミズネも最近はそれを分かってきたのか、この二人の言い合いに割って入ることは少なくなってきていた。


「ま、そこらへんは皆本気だもんな。決着がついたとしても、どっちの方が良かったかなんて分かるもんじゃねえだろ」


「それもそうか。……そう言われると、少し肩の力が抜ける気がするな」


「そうね……あたしたちの誰が勝ったとしても、だからと言ってアイデアがダメだったことにはならないし」


「そうだな。……言い換えれば、遠慮なく勝ちに行けるということだ」


 ミズネの結論に、俺たちは面食らったような表情をする。誰が勝っても負けたものにケチが付かないということは、勝った時に悪影響が出るところはない、ということだ。まあつまり、俺たちが全力で争うことで傷つく人はいない、ということだから――


「……明日からの準備、俄然楽しみになってきたわね」


「奇遇だな。……俺もだ」


 そんなことを言い合うと、どこからか自然に笑みが生まれる。懇親会を巡って行われる俺たちの対決に、遠慮する部分なんて一つもない。……この笑みは、それを確認できたことに対しての安堵の笑みなのかもしれなかった。

ということで、次回からは決意も新たに四人がそれぞれの準備へと向かっていきます!遠慮のない四人はどうやって懇親会を立ち回っていくのか、楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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