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第二百七十九話『夜の街とこれから』

「……やっぱり、夜でもにぎわってるな……」


「冒険者の街だからね。夜に休んでちゃあ困る人たちも多いのよ」


 夜の街に繰り出すのは久しぶりだが、いつ見ても繁華街化のような賑わいなのには驚かされる。街灯が温かい光を放っているのもあって、『眠らない町』という俺の第一印象はどうやら正しかったようだ。


「母さんの店も人を雇って深夜営業をしているからね。夜じゃなきゃ狩れない魔物もいるし、それを狩ることを生業として生きている人も多いからこそできることだよ」


 実家でバイトしていたころを思い出してか、どこか懐かしそうにアリシアがそう語って見せる。そう言えば、俺たちのファーストコンタクトもその店だったもんな……まさか異世界にコンビニがあるなんて思わなかったし、見つけた時はめちゃくちゃ感動したっけ。


「結局は需要と供給、ということだな。エルフの里は皆早寝が原則だし」


「あ、それなんかイメージ通りかも。パーティの後半皆眠そうにしてたものね」


 ミズネから発されたエルフ豆知識に、ネリンが楽しそうに反応する。この中で一番エルフの里になじみが薄いアリシアが、そのやり取りを興味深そうに見ていた。


「……アリシアも今度行こうな」


「……ボクはそんなに行きたそうな顔をしていたのかい?まあ、先祖ゆかりの地だし興味がないわけじゃないが」


 本人的には無意識だったのか、俺の言葉にアリシアは珍しく動揺したような様子を見せる。それでも行きたいのは事実らしいので、そのあたりはまた予定を調整していかないとな。


「……それにしても人通りが多いな。懇親会に向けて浮足立っているのか?」


 冒険者が多いのはなんとなくわかるが、明らかにそうじゃない人も多いように思える。その違和感に首をかしげていると、ネリンが横から声をかけてきた。


「懇親会周りはレストランも新メニュー開発に力を入れる時期だからよ。限定メニューも多く出るし、それを目当てにして食べにくるお客さんも多いの。パパとママも、今頃は新メニューを開発しては試行錯誤してる時期だと思うわ」


「成程な……観光客向けの宣伝にもなるし、どの業界からしても書き入れ時ってことか」


 考えれば考えるほど、懇親会ってシステムがこの街のあらゆるジャンルにおいてプラスになる事だと実感させられるな……。まったく無駄がないあたり、流石キャンバリーの作り上げた行事だといったところか。


「そんなわけで、今時のレストランは行列もできかねないくらいだけど……あたしの紹介する屋台ならそんなことは無いはずよ。あんまり行きやすい場所にあるわけでもないし」


 その言葉の通り、ネリンの案内はどんどん街はずれへと向かっている。人通りも少し落ち着きつつあるし、相当な穴場スポットへと俺たちは案内されているようだった。


「そんなところにも街灯が行き届いているあたり、この街の整備の丁寧さを感じるな……ほかの街ではなかなかこうはいかないんだ」


「そのあたりは駆け出しの街ならでは、だね。他の街には足を運んだことは無いが、治安が悪い街があるってのはボクも聞いたことがあるよ」


 ミズネの指摘に、アリシアがうんうんと頷いて見せる。治安の悪い街……なんというか、冒険者にありがちな荒くれものって側面を始めて垣間見た気分だ。


「本当にこの街って環境整ってたんだな……都合がよすぎるくらいに」


「そのあたりを意識して設計された街だからね。他の街もそういうことは知ってるから、ちょこちょこほかの街からの支援もあったりするのよ」


 この街が下地になってるのは言わずもがなだしね、とネリンは付け加える。俺たちの前に懇親会を担当してた人もほかの街に拠点を移してるらしいし、ここを踏み台にして羽ばたいていく冒険者は数多いんだろうな……。


「さしずめ冒険者たちの学校ってとこか……」


「あ、その表現一番しっくりくるかも。この街にいれば冒険者の基本的な事は全て学べるもの」


 そこから羽ばたいていくも、ここを拠点にして生活していくも本人たちの選択次第。自由でありながら冒険者を育て上げる環境が出来ているというのは本当に舌を巻かされるばかりだ。


「ボクたちも、いずれそういうことを選択することがあるかもしれないわけだしね。他の街のギルドからお声がかからないとも限らないし」


「指名依頼というやつだな。……まあ、よほど結果を残さなければ中々来ることは無いらしいが」


 しれっと新しいシステムが出てきたことに俺は驚きを隠せないが、他の三人の感じを見るにそんなに珍しい事でもないらしい。俺たちのパーティにも、そんな未来があるかもしれないってことなんだな……。


「ま、そこらへんはまたおいおい考えていけばいいでしょ。それよりも、今は――」


 そう言って、ネリンはある方向を手で指し示す。それにつられるように、三人そろって視線を向けると――


「……ん、お客さんかい?こんなところまでよく来たね」


 鉄板をバックに肉をカットしているおばさんが、俺たちを意外そうな顔で見つめていた。

ヒロトたちの可能性はまだまだ無限に広がっていきます。この先にヒロトたちがどんな選択をしていくのか、楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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