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第二百七十四話『再確認できること』

「とりあえずは第一関門突破、だな……お前がいてくれて本当によかったよ」


「俺が出来たのはほんの橋渡しときっかけづくりくらいですよ。そこからは俺の出番なかったですし」


 最初の心証をよくするのに俺が一枚かんだのは否定できないだろうが、そこからの交渉が円滑に進んだのは間違いなくオウェルさんの功績だろう。途中からの俺はただ世間話してただけだったしな。


「それでも十分だよ。最近の懇親会に否定的だったジーランさんの心証をよくすることが出来たってだけで勝ちは大きいんだ。先年まで懇親会を担当してくれたパーティの唯一と言っていい負の遺産だからな」


「負の遺産……そこまで、あの人の離脱は大きかったんですね」


 工房に訪れる前は半信半疑で聞いていただろうが、今ならばそれも納得の話だろうと素直に頷ける。あれほどの技量を持つ人材の流出が痛くないわけがなかった。


「だからこそ、俺たちに必要な人だったんだよ。新しいものを作るにも伝統を知る人は必要だ。それを知ったとき、どこを取り入れるか、取り入れないかはまた別の問題だとしてもな」


「そう……ですね」


 この半日で分かったことだが、オウェルさんは俺が思っていたよりもよっぽど思慮深いというか、現実志向だ。新しいものを作るという信念がぶれることは無いが、その中でも必要なものはしっかり前提として頭の中にリストアップされているし、それに対しての対策もしっかリ考えつかれている。これなら、俺はその下支えと少しのアイデア出しだけで展示づくりは綺麗に回りそうだ。


「ま、これだけで慢心するのもまた時期尚早ってやつなんだけどな……。まだまだ道は長えよ」


「そのための俺ですから。長い道のりをどうやって速足で駆けていくかが、俺たちの焦点でしょ?」


 新しい道を作るのだから、その道のりが平坦なわけはない。無理に見える道に通り方を見出して、そこを可能な限り最速で駆け抜けていくことが俺たちに残された勝ち筋だと俺は見ている。そして、オウェルさんもその認識は共通しているようだった。


「それでも、今日はもう休まねえとな。休息はしっかりとらねえと終盤でへばっちまう」


「ですね。……他の人たちも、上手くやれてるかな……」


 どれだけ人が集まるかは俺たちの計画の成否にかかわるからな。難度が高い道を行く以上、志を同じくした仲間がひとりでも多く欲しいところだった。


「そこは期待するしかねえな。ほどほどの結果を全員が出してくれれば、それだけでかなり楽に事は進められると思うし」


 そこは明日確認するしかないけど、とオウェルさんはおどけて見せる。まあ、分からない明日のことは明日確認するのがいいか。分からないことに気をもんでも仕方ないからな。


「それじゃあ、今日はありがとうな。明日からもよろしく頼むぜ」


「こちらこそ。見てる目標は一緒ですから」


 盛り上がる懇親会を作るという最終目標を確認しつつ、俺たちはギルドの前で解散する。そこから自宅に向かって歩き出すと、街の賑わいがやけにいつもより多いように思えた。


 やっぱし懇親会が近づいてきたのもあってにぎやかにもなるのだろうか。大体の準備はもう終わって商店街などが営業を始める頃だろうが、それにまで賑わいは伝播しているのだろうか。


「……これくらい賑やかだと、思わず何か買っていきたくなるな……」


「おや、無駄遣いは感心しないぞ。節約には気を使わなければならないのだから」


「わひゃいっ⁉」


 ぼそりとつぶやくと、背後からそれを戒める声が聞こえてくる。あまりに予想外なところから聞こえてきたもんだから、俺は思わず飛び上がってしまった。


「……って、ミズネか……お前も今日の作業が終わったところか?」


「そんなところだな。とりあえず私の価値観を共有して、何が今後に必要になるかを議論してきた」


 中々に収穫のある集まりだったよ、とミズネは満足げだ。ミズネのチームもどうにかいい出発を切れたようで何よりだった。


「……やっぱり一筋縄ではいかないよなー……俺もうまくいった方だけど、お前たちとはベクトルが違うだろうし」


「ベクトル……?まあ、チームによって最初に採るべき動きは違うだろうからな」


 人材確保と価値観の共有。そのどちらもが大事なことは間違いないし、そこに優劣が付くことは無い。優劣が付くとすれば、そこからの展開だろう。


「……それじゃ、お互いに今日の結果報告でもするか?まだ機密に触れるようなこともしてないだろうし、そもそもそういうのはぼかしながら話せばいいし」


「そうだな。懇親会に対してどう向き合っていくかの姿勢づくりは大切だ」


 そんなわけで交渉が成立し、俺たちはのんびりと家路に向かって歩き出す。お互いの現状をぼかしながらも報告し、それにお互い苦笑を浮かべる。


 たとえライバルでも、その大前提として仲間であることに変わりはない。それを確認するには、その瞬間があれば十分だった。


次回、それぞれの一日目を振り返ることになるかと思われます!果たして各地でどのような取り組みが行われているのか、楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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