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第二百六十八話『第二ラウンドへ』

「当然、あたしだって本気で行くわよ。自分が作り上げたルールの上で負けるのも悔しいし」


「ボクも本気以外考えていないとも。せっかく自分のテーマで戦うチャンスが転がり込んできたわけだしね」


 即答と言ってもいいくらいの二人の宣言に、ミズネの表情が安堵にゆるむ。そして、最後に残されたれに対して三人の視線が集まってきた。……もっとも、出遅れてしまっただけで俺の答えももう決まっちゃいるが。


「俺ももちろん本気で行くぞ。お前たちが本気で来るってのに俺だけ手を抜くなんてナンセンスにほどがあるだろ?」


「そう来ると思っていたよ。だからこそ、私も安心して宣言できるのだからな」


 四人のライバル宣言が出そろい、俺たちの戦いは第二ラウンドに突入することが確定した。……と言っても、そのことに対して落胆する奴はいないし、何ならみんな内心では喜んでいるくらいだろう。こいつらと真剣勝負するのは、その中身が何であれ楽しいからな。懇親会をいいものにしたいという気持ちは変わらないわけだし、協力することもあるだろう。


「それじゃ、明日からは別々の場所で別々のことをするってわけね。……面白くなってきたわ」


「そうだな。言ってしまえば、ここからが本番なわけだし」


 今までのが前座だったという訳ではないにせよ、第二ラウンドの幕開けという意味ではまたゼロからのスタートと言っていいだろう。今までの踏襲ではなくここから始まる新しい懇親会づくり――俺とネリンはほかの人の案に乗る形でのスタートにはなるが、それはそれで面白いだろう。


「ベストを尽くして勝負することが、懇親会にとってもいい影響をもたらす――やっとわかり易い展開になってきたね」


 そういうのは嫌いじゃないよ、とアリシアが締めくくって見せる。その言葉に、俺たちの間から笑みがこぼれた。


「それじゃ、今日のところは一まず解散にしましょうか。すっかり夜も遅くなっちゃったし」


「そうだな。新しい第一歩で遅刻してはたまらない」


「そうだな。俺は明日の朝飯の仕込みしてくるから、皆は先に休んでてくれ」


 朝食は俺とネリン、時々アリシアとミズネのコンビが持ち回りになってやっており、明日は俺が朝食当番だ。早起きして作るのもありっちゃアリだが、それはそれとして考えておきたいこともあった。


「そう?それじゃ、お言葉に甘えるわね」


 ネリンがそう言って居間を後にすると、ネリンとアリシアも俺に一声かけてその後を追っていった。さっきまでにぎやかだった場所がそれだけで静かになり、心なしか部屋の電気も暗くなったように感じる。それを少し寂しくも思うが、考え事をするのにはぴったりの環境だ。


「……さて、明日の飯はどうするかな、っと……」


 冷蔵庫を覗きながら、明日の献立をぼんやりと考える。明日も朝早くからの仕事になるだろうし、ある程度量も考えた方がいいだろう。少しぐらい肉を使ってもいいかもしれない。


 そんなことを思いながら鶏肉を取り出し、いくつかの調味料を合わせてボウルの中でしっかりと揉み込む。普段なら無心でやる工程だが、考え事をするための時間としてはこれ以上ぴったりなものもないだろう。


「……誰かの案をベースにしつつ、アイツらに勝つ、か……」


 自分で言っておいてなんだが、かなりの無理難題を突き付けられていると思う。俺とネリンに必要なのは、発案者と折り合いをつける力だ。あの人たちの創りたいものを尊重しつつ、アイツらを凌駕するようなものを作り上げなければならない。三人寄れば文殊の知恵なんて言葉があるが、アリシアとミズネに関しては一人でも文殊の知恵と言っていいだろう。それくらいの知識量で采配を振って来るのだから、その仕上がりは相当なものになるはずだ。


「テーマへの熱量で競ってもしょうがない。なら、俺のやるべきことは……」


 味付けにムラができないように揉み込みながら、俺はぼんやりと考える。俺とネリンはチームのリーダーでこそあれ、アイデアを主導する側ではない。それをするのは発案者であるべきで、そこが入れ替わってはいけないというのが俺の持論だ。俺の役目はあくまで補佐、発案者の中にあるイメージを引き出すお手伝いになるはず。それで、アイツらに勝つには――


 考えが行き詰まっていくにつれて、仕込みをする俺の手の動きが速くなっていくのを感じる。気が付けば、普段よりも長く、それに強めに揉み込んでしまっていた。あとは焼くだけである程度形にはなるだろうが、普段よりも後入れの調味料は少なめでもいいかもしれない。


「……ま、後は現場を見て考えるしかないか……」


 そもそも俺をどれだけ受け入れてくれるかも謎だからな。不確定要素が多いのもあるし、そのあたりはやってみないと何とも言えないだろう。


 そこで俺は思考をいちど打ち切って、寝るために自分の部屋へと歩いていく。その道中、三人の部屋の小窓から光が覗いているのが見えて――


「……負けらんねえな、俺も」


 この勝負、皆が皆本気だ。……だからこそ、来る明日が楽しみで仕方なかった。

ということで、次回からまた新しい、そして負けられない勝負が始まっていきます!四人の勝負が懇親会に何をもたらしていくのか、楽しみにしていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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