第二百六十七話『今一度の宣言』
「いやあ、思ったよりもはるかに有意義な時間だった!これから忙しくなるが、全部終わらせたらまた五人で何か食うとしようぜ!」
「そうね。……今度は、あたしたちが料理をふるまってあげるわよ」
「そいつは楽しみだ!……それじゃ、そのためにも懇親会を最高のものにしなくちゃな!」
そんな風に結ぶと、ベレさんは扉を押し開けて颯爽と俺たちの家を後にする。夜はもうすっかり深くなっていたが、ドアから見る限りまだ人通りは減っていないようだった。
「嵐のような人だったな……。周りを巻き込んで話を進めていくのがうまいというか」
「アレはある種の才能だよね……ボクたちが真似しようとしたってああはならないよ」
必ずどこかで嫌味になる部分が出てしまう、とアリシアは苦笑して見せる。ベレさんの人徳があるからこそ、ダル絡みにも見られかねない突発的な食事会に悪印象を抱くことがないのだというのは皆が理解しているところだった。
「ベレさんが居なかったら定例会はとっくに空中分解してるもの。それを繋ぎとめてるってだけで、指導者としての才能は飛び抜けてるって言ってもいいくらいよ」
「……俺たち、そんな人たちに頼ってもらったってことだもんな。そりゃ気合も入るってもんだ」
力になりたいと思わせることがどれだけすごい事なのかを、俺はなんとなくわかっているつもりだ。それはいわゆるリーダーシップとかカリスマとかいうやつで、ついでに言うと日本で俺が目にしたことが見たことのない類のものだった。
学級委員長や担任といった肩書が従わせるのではなく、その人だから従いたい、一緒の目標に向かいたいと思わせる力。ベレさんが持ち合わせているそれを、きっと一般的にはカリスマと呼ぶのだろう。
「ベレさんがいる限り、この街が無法地帯になることは無いだろうからな……そういう意味ではこの街の楔のような人でもあるのか」
「そう言われると、確かにしっくりくる表現ね……私たち含め割と自由な冒険者たちがここは多いイメージだし、それをベレさんが取りまとめてるというか、やりすぎないように目を届かせてる感じは確かにあるかも」
考えれば考えるほど、俺たちの中でのベレさんがどんどん超人化していくのだから不思議な話だ。『王都に行かないのが不思議なくらい』と評していたギルド職員さんもいたものだが、今となればそれに俺も大きな頷きを返すことが出来るだろう。いくらトップレベルの冒険者が集う王都でも、ベレさんみたいな人がうじゃうじゃいるとは思えない……というか、思いたくないからな。
……とまあ、そんな所感はさておき。
「それだけ取りまとめるのが得意なベレさんが回してきた仕事が、まさか各チームのリーダー役だなんてな……」
「公平を期すなら納得の話さ。ベレさんが総合的なトップとなりつつ、ボクたちが支部長的な位置取りをしてアドバイスやルールの周知に努める。すごく無駄のない人選だと思うよ」
「そうだな……長老は適材適所がうまいお方だが、ベレさんからも同じようなものを感じる」
エイスさんと重ね合わせるというのは、ミズネにとって相当な高評価の証だろう。ここまでくるとベレさんにマイナスの評価を下さざるを得ない部分はいったいどこにあるのか、俺としてはとても気になるところだ。……もっとも、しばらく探しても出てきそうにない気がするが。
「しっかし、その提案を真っ先に再戦の機会だって捉えるのがミズネだったとはね。あたしもぼんやりそう思ってはいたけど、それ以上に食い気味で少し笑っちゃった」
「そうだね。誰かは言い出すだろうなと思っていたけど、あれほど早くミズネが言語化するとは予想外だったよ」
「ヒロトとネリンに僅差で負けてから、悔しさは確かにあってな……。接戦過ぎること、他の参加者もいたということもあって、どこかで四人だけの戦いができないかと望んでいたんだ。その矢先にあの提案が来たら、乗らないわけにもいかないだろう?」
苦笑しながらの問いかけに、俺たちはうんうんと頷く。なんだかんだで俺たち全員負けず嫌いなので、その点に関してはもはや疑問の余地もなかった。
「ベレさんがいる時にもいったが、こういうチャンスが回ってくることが私は嬉しくてうれしくて仕方がないんだ。……だから、改めて宣言させてもらうぞ」
その言葉に、俺たちは示し合わせたかのようにごくりと喉を鳴らす。なんて言われるかは大体わかり切ってはいたが、それでも緊張せざるを得ないくらいに引き締まった空気が俺たちの間に流れた。それに目を細めながら、ミズネはゆっくりと目を細めると――
「……次は私が勝つ。……皆も、本気でかかってきてくれ」
――あまりにストレートな宣戦布告を、俺たちに投げかけてきたのだった。
焼き直しのようにはなってしまいましたが、四人の場でもう一度宣戦布告というか、ライバル宣言をして見せることに四人の関係性が見え隠れしているのではないかなと思います!これかラドンナ展開になっていくのか、次回以降も楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!