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第二百六十二話『俺たちの結論』

「……勝っ、た?」


「……どうかしらね。同率なんて想定もされてないでしょうし、もしかしたら決選投票だってあり得るかも」


 俺とネリンをはじめとして、会場が妙なざわめきに包まれている。ベレさんたちも顔を見合わせて、この状況の取り扱いに難儀しているようだった。


 そもそも接戦になる事さえもが予想外だったわけだもんな……。俺たちをはじめとして、会場にいる誰もがこの状況に戸惑っているだろう。こっちから何かしらのアクションを起こせればいいが、ベレさんたちの態度が見えていない以上下手に動くのも逆効果になりかねないのが辛いところだ。


「一票を争う大接戦だしな……その差で他の案を没にするのももったいねえくらいだ」


「そうよね……いずれ採用されたりするのもあるだろうけど、今回に懸けてる人だっていただろうし」


 投票の原則が多数決なのは言わずもがなだが、過半数どころかトップすら四分の一の票を確保できていないこの状況は正直言って異質だ。どうにかこの状況を上手い事収拾できる方法があれば、上位にいたみんなの意見を拾い上げられるような方策があればいいのだが――


「……ちょっと待てよ?」


 俺の中に一つの閃きがあって、他の人のプレゼンを俺はざっと思い出す。俺の予想が正しければ、この状況を打開する方法はあるはずだ。なぜなら、トップである俺たちの提案には――


「……具体案が、ない」


 どういうコンセプトでやるかという方向性を示しこそしたが、その枠組みの中でどんなものを作るかというのは俺たちの二人とも定義していない。それがある意味俺たちの提案の欠点ともいえるが、そのファジーさが今回ばかりはいい方向に傾くかもしれない。


 もっとも、そうなるためにはネリンの協力も取り付けなくてはいけないのだが――


「……何か良い策があるって顔してるわね、ヒロト」


「……つくづく、お前の観察眼には舌を巻かされるよ……」


 いつの間にか視線を向けていたのか、ネリンが楽しそうな表情でこちらを見つめている。その目ざとさにため息を吐きつつ、俺の提案をネリンに小声で伝えると――


「……確かに、それは面白いかも」


「だろ?……俺たちで、この会場を丸く収めてやろうぜ」


 ニヤリと笑うその姿を見て、俺は第一段階の成功を確信する。そして小さく頷きを交換すると、まだ混乱が続く会場の中で俺たち二人はすらりと手を上げて――


「「……一つ、提案をしてもよろしいでしょうか」」


 トップである俺たちの発言に、会場が水を打ったように静かになる。ベレさんも俺たちに視線を向けると、


「……いいでしょう。聞かせてください」


 厳かな頷きとともに、俺たちに発言の許可が下りる。それに一まず安堵しつつ、俺はゆっくりと深呼吸を一つ。十分に今の考えを整理して、会場全体を見回した。


「……今回の投票は、非常に接戦でした。その中で俺とネリンさんがありがたくも一位をいただいたわけですが、俺たちの提案には共通点があります」


「というのも、私たちの提案にはどちらも具体例が存在しません。新しい枠組みを作るという話をしたは良いのですが、それがどのような形になるかというのは準備できませんでした。その点に関しては、他の提案者さんたちの方が具体的で優秀だと言えます」


 俺が一歩引いたのを見て、ネリンが完璧な引継を行う。おおよそアドリブとは思えない完ぺきな繋ぎに感服しつつ、俺はまた一歩前に進み出た。


「今回の投票はラスト十票まで六人がトップを争う状況でした。そのどれもが価値ある提案であり、そして個性的な提案です。……俺個人の感想ですが、それが一票の差で不採用となってお蔵入りになるのはとてももったいない。……なので、ここで提案です」


 そこで一拍おき、ネリンに前に出るように促す。こういう提言をするならば、俺よりもこの街になじみのあるネリンにやらせた方が抵抗感も少ないだろう。それで主導者の名誉がネリンに行くんだとしても、この案を考え付けただけで俺は満足だからな。


 ネリンも俺のそんな考えを察したのか、軽く息を吐きながら進み出る。俺たちの提案を、会場全体が固唾を飲んで見守っていた。その中で、ネリンは堂々と背筋を伸ばすと――


「私たち二人の案を合併し、『チームごとに一日目と二日目、地続きでありながらも違う展示を行うこと』をレギュレーションとし、そのチームの基礎案は私たちを除いた上位四人の案をベースとする。……こうすれば、投票者の方々のほとんどの意見を取り込んだ多様性のある懇親会づくりが進むと思うのです」


 ネリンの宣言に、会場が一瞬だけ静かになる。聞いてみればまるで欲張りセットのような取り込み方だし、理解が追いつくのに少し時間がかかっているらしい。ただ、その案が含む真意が皆に伝播していくと――


「「「「おおおおおおおおおおおっ‼」」」


 間違いなく今日一番の歓声が、会場の中に響き渡る。それがどういう意思を示すものなのかは、今更確認しなくたって明らかだった。

長かった定例会ももうすぐクライマックスです!これから四人はどんな形で懇親会に関わっていくのか、楽しみにしていただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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