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第二百六十一話『最後の一票』

「……ネリン、普段はどれくらいの差で案が決まってたかとかって分かるか?」


「あたしも詳しい数字は知らないけど……普段は出来レースって思われるくらいに票が偏ってたらしいわね。だからこそ、こんなにもボルテージが上がってるんだと思うし」


 ライブ会場さながらの盛り上がりを見せる会場を、ネリンはそんな風に分析して見せる。圧倒的って言うなら過半数は票を取っていたんだろうし、最後の方なんてほぼ消化試合みたいなもんだったんだろうな……俺たちの限界ギリギリを詰め込んだ提案でやっとここまでの接戦になるのだから、前任パーティの出す案がどれだけすごかったのかをひしひしと実感させられているが、とりあえずそれは置いておくとして。


「……六十一票目、オウェルさん」


「……っし、まだいける……‼」


 ベレさんに名前を呼ばれた人が派手にガッツポーズを作り、会場がまたもどよめく。今の人が八票目を得たことで、上位争いはさらに分からなくなった形だ。この接戦はベレさんたちも予想していなかったのか、少しずつ票を開ける手がゆっくりになっているようにも思える。


「このまま票がばらけてくれればいうことは無いんだけどね……追われる身としては気が気じゃないわよ」


「後一票の差が縮まないというのも中々に厳しいものだぞ。早く追いついてくれと願わずにはいられない」


 トップ二人がひきつった笑みを交換する横で、回されてきた紙をベレさんがゆっくりと開封する。そして、そこから少し間を置くと――


「六十二票目、ヒロトさん」


「っしゃああ!」


 俺に十票目が入り、これで俺もネリンに一票差と迫る形になった。ネリンへの得票があり得る以上まだ確定ではないが、それでも少しは気が楽になったと言うものだ。


 それでも、このプレゼンに参加したうちの六人がまだトップを争っている構図というのは中々に油断ならない。矛盾があったりしてしまった人はほぼ得票を得られていないとしても、それ以外がおいていかれることなく接戦を演じるというのは熱い展開だと言えるだろう。……まあ、当事者側だと背筋に冷たい汗が走るような状況ではあるのだが。


 緊張を禁じえなかった俺だが、その後も基本的な構図は変わらないままで投票が進んでいく。三票が開封され、それらは俺、ネリン、アリシアに一票ずつ割り振られた。


「ここにきて伸び悩んでいるな……あとは祈るしかないのがもどかしいところだ」


「なまじ逆転もあり得るのが緊張感をそそるなあ……観衆側なら盛り上がれたが、争っている側となるといくらボクでもマイペースとはいかないみたいだ」


 投票の終わりが近づくにつれ、俺たちの間にそわそわとした空気が漂い始める。ここから五票連続で得られれば六位にまで勝利の可能性がある大接戦のなか、六十六票目となる紙がゆっくりと開封された。


「……六十六票目、ヒロトさん」


「……っし、追いついたぞネリン!」


 俺の名前が呼ばれた瞬間、会場が一気にどよめく。ここでトップが二人になり、同時に五位と六位の単独一位が消滅した。何の因果か、単独優勝は俺たちパーティにしかありえない状況が生まれた、ということだ。


「作り話みたいな展開ね……接戦になる事は予想済みだったけど、まさかここまで行くなんて」


「この場にいる誰もが予想していなかったことだろうね。ボク達への期待値は前任より高くなかっただろうから、その反動で高い評価を受けたのかもしれないな」


 ついに追いつかれたネリンが苦笑を浮かべ、アリシアは冷静に現状を分析する。そういう意味では俺たちに有利な雰囲気だったのはあるだろうが、それでも俺たち四人が争う形になっているのは事実だった。


「……六十七票目、アリシアさん」


 アリシアの名前が呼ばれたことで、俺たちの中の誰かが勝利することが確定する。俺とネリンが十二票、アリシアとミズネが十票。ここから三連続で名前を呼ばれるようなことがあればそいつが勝者だし、何なら三人同率一位だってあり得る状況だ。


 そんな状況のなか、ベレさんの手元にまた一枚紙が渡される。それがゆっくりと開かれるのを、俺たちは固唾を飲んで見守っていた。そんな緊張感の中、ベレさんはゆっくりと息を吸い込んで――


「六十八票目、ミズネさん」


「……よし、私もまだ負けていないな……!」


 小さなガッツポーズと同時、会場がまたもざわめく。残すところあと二票というところで、一位の可能性は四人全員に残されていた。


「…………六十九票目、クローネさん」


「……一足先に脱落、か。最終票だけは、観客として見守らせてもらおう」


 しかし、その後の票が俺たち以外の人に入ったことでアリシアの一位が消滅する。本人は椅子にもたれかかって伸びをしていたが、その表情には悔しさが確かににじんでいた。


「……さて、次が最終票……」


「ここまでくるともはやドラマね……誰が勝ってもおかしくないし、文句なんて出るはずもないわ」


 後一票を巡って、この会場は異様ともいえる盛り上がりを見せている。この上での勝者なら、確かにケチが付くことはなさそうだ。


 だから、心配するべきは最後の一票の行方だ。プレゼンの一位をかけた最後の一票がベレさんの手に渡るのを、会場全体が緊張しながら見守っている。


「……では、これが最後の一票となります。七十票目―—」


 ベレさんも何か感じ入るところがあるのか、そこで一呼吸を入れる。その後に続く言葉を誰もが待ち焦がれる中、その口がゆっくりと開かれて――


「―—オウェルさん。これにより、最多得票はネリンさんとヒロトさんになります」


 勝負の終わりを告げる声が、静かな会場に響いた。

ついに投票が決着し、定例会はクライマックスへと向かっていきます!投票を受けて懇親会はどう動いていくのか、楽しみにお待ちいただければ幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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