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第二十五話『共闘、再び』

「引っ張るって……お前、あいつに勝てる策があるのか⁉︎」


 突然俺の前に立って強気な笑みを見せてみせたネリンに、俺は戸惑い半分驚き半分でそう問いかける。いくらネリンに直剣の心得があるとはいえ、それを踏まえた上でももはやヘロヘロの俺を抱えた上でどうにかできるとは考えにくいのだがーー


「大丈夫!アンタとあたしならやれる!……あの時も、そうだったでしょ⁉︎」


「……っ!」


 そう言い返したネリンに、俺は思わず息を呑む。あの時……キヘイドリに追われていた時も、俺たちは凄まじく追い込まれていた。つい昨日のことなのに、それはまるで遠い記憶のように思えた。


「万策尽きたと思ってたあたしの手を、アンタは強引に引っ張った!それのおかげであたしは助かって、今こうやって冒険者としての第一歩を踏み出せてる!だから…だから、今度はあたしがアンタにそれをやるのよ!」


 剣を構え、ネリンは人形の一撃を受け止める構えだ。それを知ってか知らずか、人形は俺へと、そしてそのまん前に立つネリンへと突進してきて……


「せ……りゃああああっ!」


 ガキィン!と甲高い音が鳴って、木刀と直剣が衝突する。ネリンは少し後退りをしたものの、力負けしている様子は全くなかった。それを示すかのように、ネリンは足を一歩前へと踏み出すと、


「そ、ん、で……こおおおお!」


 剣を滑らせるようにして、ネリンは人形の横へとその体を滑らせるように抜ける。少しだけぎこちなさはあったが、それはクレンさんが見せた技術と同じものだった。ネリンは息つく間もなく振り向くと、俺の方へ戻ってきて即座にその背中を押してくる。


「おっ、ちょっ、転ぶ!もう少し力加減を……!」


「んなことするだけの余裕はないわよ!次の打ち合いで決めるからそこまで我慢しなさい!」


 突然押されてよろめいていた俺だが、ネリンの決着宣言を耳にしてどうにか転ぶまいと体勢を整える。どうにか転ばずに済んだことにホッと胸を撫で下ろしていると、ネリンがすぐさまこう告げてきた。


「次の打ち合いで、あたしが致命的な隙を作る。だから、そこに一撃を入れなさい。クレンが一人でやったことを、あたしとアンタでやるのよ」


 握力、少しは戻ってるでしょ?と締めくくると、ネリンはもう剣を構えようと準備を始めてしまった。その背中を見て、俺は咄嗟に声をかける。


「……なぁ、決めるのは俺じゃなきゃダメなのか?その役割、俺じゃなくたって……」


 いいだろ、と続けようとした時、ネリンが構えを解いてこちらを高速で振り向いた。


「アンタじゃなきゃダメに決まってるでしょ。何、アンタがあの機械に対して致命的な隙を作れるっての?」


「……いや、それは……」


「でしょ?だから、役割分担はこれで的確。異論はないわね?」


「……そう、だな」


 俺がおずおずと頷くと、「よろしい」と笑ってネリンは再び前を向いた。それに釣られて俺が構えを作ろうとすると、「……それに」と、こちらを見ないままネリンの声がまた飛んでくる。


「……キヘイドリの時は、アンタが道を開いてあたしが決めた。……そりゃあ、毎回あたしが決めるのだってそれはそれで気持ちいいし、光栄なことだけど」


 そこで、またネリンは言葉を切った。そうだ。あの時、キヘイドリに対しての決め手になったのはネリンの光魔法だった。『仲間の姿が確認できるから強気に出れる』ことを逆手に取って、目潰しをすることでその自信を一時的に潰すことを狙いとした作戦だったが、上手く行ってくれて本当によかった。……でも、それがどう今の状況に繋がるんだ……?


 俺は疑問を抱くも、なかなかその続きの言葉は飛んでこない。人形が構えを作り直して、俺たちをもう一度捕捉した頃に、ようやくネリンの方から声が聞こえた。


「……啖呵、切って見せたでしょ?アンタも冒険者なんだし、たまにはかっこいいとこ、あたしに見せてよ」


「……っっ!」


 また、息を呑むことになった。そのネリンの言葉に、心臓が強く脈を打つのがわかった。……心が、熱くなる。


「ぜ……りゃああああッ‼︎」


 ネリンと人形、互いの一撃がもう一度交錯し、先ほどよりも甲高く、激しい音が響き渡る。互いに一歩も引かない力比べ。ごまかしの効かないその争いを、制したのはーー


「……ヒロト!あとは任せたわよ‼︎」


 そう叫ぶと同時、人形は力負けして大きく後ろによろめく。剣を打ち上げられた形になったその体勢は、弱点であろう胸をあまりにも無防備にさらしている状態だ。それを見て、俺は剣を強く強く握り込んだ。まだ完全に力は入らないけれど、それでも今できる全力で。


ーー期待、されている。ネリンに、大きな期待を託されている。そんなこと、日本にいる頃はなかった。いつだって俺は隅っこにいて、やりたいことをやりたいようにやっていたから。それは心地よくて、変える必要がないくらいだった。


 でも今こうして強引に環境は変わり、どういうわけか俺は大きな期待を今ぶつけられている。自分でも、信じられないような出来事だけどーー


「…………任せとけぇぇぇぇぇ‼︎」


 今はそれが、あまりにも心地よかった。


 地面を夢中で蹴って、一歩一歩人形との距離を詰める。あまりに長く感じる短かな間合いを、期待を噛み締めながら潰していく。そして、ついにはその距離がゼロになってーー


「ど……らあああっ‼︎」


 その走りの勢いのまま、人形の胸に力強く直剣の先を突き込んだ。ビリビリと腕が痺れるような痛みの後、人形が地面を転がるように吹き飛ぶ。そのまま二、三回それはバウンドして、そして。


『……機体の甚大な損傷を確認。機能、停止します』


 ……そう、俺たちの勝利を告げる音声が響き渡った。

ーーというわけで、ヒロトとネリンの二度目の共闘、いかがだったでしょうか!

個人的には一回目の共闘との対比を意識したつもりですが、その辺りを意識して見ていただけるとよりこの戦いが楽しんでいただけるかと思います!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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