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第二百五十八話『限界への賞賛』

「……はい。どうぞ、お願いします」


 予想されていたものとは違う、リスペクトからくる疑問。つまり、それに対する回答は用意できていない確率の方が高い。そんな緊張感とともにそう返すと、男性は軽く一礼してから話を続けた。


「ありがとうございます。チーム分け……と言いますか、意見の同じものが集まり、団体を作って一つの制作をするということですがそのチーム分けの基準、あるいはそれ等の公平性を保つ方法などに案はあるでしょうか。いい案ですが、団体ごとが競る構図にならなければ興ざめすることにもつながりかねないと思いまして」


 その指摘は至極まっとうなものだった。確かにそれはかなり難しい論題だったし、一歩間違えれば確かにそのパターンに陥っていたと思う。……だけど、それに対しての対策はないでもなかった。


「そうですね……先ほど区画ごとに展示を区切るという話をしたと思うのですが、それを準備するにあたって担当する区画を本拠地としてもらえればいいかと思います。そこで話し合ったりすれば、情報の公平性にはつながるでしょうし」


 どこの区画にも大きめの飲食店や集会所のようなものはあるし、その点についての問題は解決できるだろう。そして、力量の公平性の問題だが――


「ここからは一つの案なのですが、四チームとは別に中立の集団を作り、その人たちが適宜助言を入れていくという形はどうでしょうか。この定例会の場で毎回現状報告をしていただいて、その進行度に応じて技術力のある中立の方の協力を仰いだり、その方々に新しい演出案を考えていただいたり。あくまでその方たちにはそれぞれの集団の方針を尊重していただきますので、チームごとのコンセプトが似通ることもないかと」


 その立場に誰を置くかはまた議論の余地があると思うが、それでも公平性は上がるだろう。問題は、それがどこまで質問者にとって納得のいく回答になっているか、だが……


「そうですね……状況に応じてヘルプに入るチームが居れば、確かに作業の進行度や規模に差が出ることも少ないでしょう。その意見は非常に的を射ていると思います。差し出がましい真似をして申し訳ない」


「いえいえ、それに関してはこっちも説明不足でしたから。説明の機会をいただけてむしろありがたいぐらいですよ」


 有意義な質問にできたんじゃないかという手ごたえはある。あとは皆の判断を仰ぐだけ、俺のプレゼンがどれだけの人の心を動かせたかを見るだけだ。


「それでは、これですべてのプレゼンが終了となります。皆さん、ありがとうございました」


 その言葉に合わせ、もう一度深く一礼して席に着く。すると、その肩をツンツンとつつかれた。


「とんでもない作戦かましてくるじゃない……策士ね、アンタ」


「一本取られた、とはこのことだろうね。皆にお気に入りの案を聞くのには度肝を抜かれたよ」


「そんなんじゃねえって……俺の案は抽象的が過ぎるから、お前らの案の力を借りて具体性を上げただけの話だよ」


 両サイドからネリンとアリシアがにやにやと笑いながら俺のプレゼンをねぎらってくれる。俺も必死に釈明しては見るが、そこにミズネも笑いながら続いた。


「いやあ、中々見たことのない演説だった。相手の力を利用する武術なら色々と知識があるが、まさかそのようなことをプレゼンにおいて行ってくるとは予想外だ」


「ミズネまでそんなこと言うのかよ⁉」


 評価してくれるのは嬉しいが、作戦に関してはうまく行き過ぎた印象が第一に来てしまうのだ。それをここまでほめそやされるとなんだかくすぐったいというか、もうちょっと引かれるものだと思っていたから予想外だった。


「別に怒ってもいいんだからな……?俺も俺のやり方が正道じゃないのは分かってるし」


「怒る……?なんでそんなことする必要があるの?」


 俺の言葉に、ネリンは心底不思議そうに首をかしげる。俺からしたらその反応自体が予想外なのだが、さらに驚くべきことにほかの二人もうんうんと頷いていた。


「発表順とかも含めて作戦練ったアンタがあたしたちより一枚上手だったってことなのに、そこを否定するつもりはないわよ。そこも含めてプレゼンってのは戦いなんだから」


「そうだぞヒロト。お前はやれるだけのことを全力でやった。そこに私たちの批判が介在することは無いさ」


「……そういうもんなのか……?」


 そう言われてもやもやが完全に晴れるわけではないが、少なくとも悪印象は抱かれていないようで一安心だ。それすら覚悟での作戦ではあったが、そうなるのはやっぱり寂しいからな。


「……まあ、そこら辺の是非も含めてこの先の投票で決まっていくだろうさ。……感想戦の続きは、その後にするとしよう」


 そんなアリシアの言葉につられて顔を上げると、ベレさんが投票用紙らしきものをこちらに回しているのが見える。……熱狂を伴ったプレゼン合戦の決着が、すぐ近くまで迫っているようだった。

プレゼンを突破するのは果たして誰なのか!定例会も終盤に突入してさらに盛り上がっていきますので、ここから先もお楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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