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第二百五十六話『やれるだけのことを』

「共存というものを描くのは難しいということは理解しております。……ですが、それには確実なメリットもある。ご指摘したい場所かと思いますので、そこにも言及させていただきます」


 どよめきが収まらない中で、ミズネが即座に次の一手を打つ。戸惑いの声はすぐさま新たな要素への興味へと変わり、その視線がミズネへと集中した。


「私がこの街にきて思ったことなのですが、この街の技術はどれもトップクラスに高いです。今まで渡り歩いてきた街の中でも上位に入るくらい……それこそ、王都のそれにだって負けてはいないくらいには、独自の技術が展開されていると言ってもいいでしょう」


「そうなのか……?」


「確かに自信はあったけど、経験の長いエルフに言われると説得力があるねえ……」


 手放しの称賛に、会場がにわかに色めき立つ。少し浮かれた雰囲気になりかけた会場に、「ですが」という言葉でミズネは釘を刺した。


「それでも、まだ伸びしろがたくさんあるのは事実です。例えば……分野という垣根を超えた連携という点では、他の街に比べて少ないのかな、と」


 分野という垣根を越えて……というと、コラボ的な要素が少ないということだろうか。そう言われてみれば、確かに店と店の共同開発とかの商品を見た記憶はないな……そこに目を付けるとは、流石長年の経験がなせる業だというべきか。


「懇親会とは冒険者と街が一体になって作り上げるもの――ですが、それを支える技術職の方々の交流の場とすることもできます。その場として、色々な文化が混じりあう制作を行っていければな、と」


「なるほど……」


「確かに、それは考えもしてなかった案かもしれねえな……」


 懐疑的だった人たちが、ミズネの経験と知識に基づく提案に惹かれてだんだんとその評価を上げつつある。冒険者として長いこと街を巡り、知識を身に着けてきたミズネだからこそ、一見荒唐無稽に思えるその提案に説得力が付与されていた。間違いなく、これはミズネにしかできない提案だ。


「懇親会をその場限りのものとせず、その先の技術交流の舞台とする――新参者の提案ではありますが、ご一考いただければと思います」


 軽く一礼して発表を締めくくると、大きな拍手がミズネに送られる。当然、ミズネに向かって質問してくる人はいなかった。


「ふう……少しは、経験が長いものの意地を見せられただろうか」


「少しどころじゃねえよ……自分で選んでおきながらトリの緊張感が半端じゃねえ」


 警戒しなければと言いながら、結局誰も質問を浴びることは無かった。直前の対策しかなかったミズネにしたってこのクオリティとなると、俺はもっと高いものを見せなければこの案を通すことはできないだろう。


 もっとも、俺のプレゼンの仕方は搦め手と言ってもいいくらいには特殊なのだが――


「……今更焦っても仕方がない、だよな」


 じたばたしたらプレゼンがよくなるならいくらだってじたばたしたいところだが、そうじゃないからもう頑張るしかない。ここまでいろんな人のサポートを受けてきたわけだが、ここからは俺一人の舞台なのだから。


「そうよ。……あたしたちに負けないよう、思いっきりかましてきちゃいなさい」


「ボクたちはやれるだけのことをやった。……ここからは、君がこの場を引き付ける番だ」


「ああ。……そこで見ててくれ」


 びっくりしてくれるだろうか。そう来たかと目を見張ってくれるだろうか。……もしそうなったなら、俺の作戦は間違ってなかったということだ。


「さて、これが最後のプレゼンとなります。……それでは、どうぞ」


 ベレさんの合図に合わせて、ゆっくりと立ち上がる。他の人たちはここでもう資料の配布を始めていたが、俺が資料を取り出すのはもう少し後だ。まずその前に、やるべきことがある。


「改めまして、花谷大翔と言います。先ほどプレゼンしたミズネと同じく、この街にきてまだ一ヶ月が経つくらいの新参者ですが、どうぞよろしくお願いします」


 そう言って一礼すると、会場の面々も小さくお辞儀を返してくれる。とりあえず、ミズネの発表の余韻からは抜け出すことが出来ただろうか。……それじゃあ、ここからが本番だ。


「ここまでいろいろな発表がありました。革新的なものから今までのスタイルを守ったものまで、どれも素晴らしい提案だったと思います。……それこそ、一つだけを採用しなくてはならないのが心苦しいくらいに」


 そう話すと、パラパラと頷きが返って来る。これは間違いなく俺の本心なのだが、この場にいる人たちも少なからず同じことを思ってくれていて安心した。……これなら、俺の作戦もある程度成立するだろう。


「それを踏まえたうえで、皆さんに一つ質問をば。単純な質問ですので、皆さんの思った通りに答えていただければと思います」


 そう切り出すと、会場がにわかにざわめきだす。いったい何を聞かれるのだろうと戸惑っているのだろうが、そんなに気負う必要はないのだ。俺が聞きたいのは、たった一つの簡単な事なのだから。


「……皆さん、どの案が一番のお気に入りでしたか?」

次回、果たしてヒロトのプレゼンは会場に響くのか!ヒロトの策の正体も含めて楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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