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第二百五十三話『ネリンの理想』

「…………いや、すっげえな今の……」


「並みの冒険者じゃあんなにうまくはいかないでしょうね……。あれこそが、ベレさんがあの席に座ってる理由なのよ」


 ざわめきは残りながらも落ち着きを取り戻した定例会の中で、ネリンはそんな風に今の一幕を総括して見せる。豪快さの中に秘められた威圧感は、この場の空気を完全に正常なものへと戻していた。


「こんなことがある中で争いするとかどんだけだよ……去年までもベレさんはいたんだろ?」


「去年までは傍観の姿勢が居間より強かったからね……今までの伝統がなくなって新しいものを作ろうとしている今、力づくで案を押しつぶされるようなことは許されない。……ま、そんなところでしょ」


 去年まではなんだかんだですんなり案が決まってたからね、とネリンは締めくくった。良くも悪くも定番が居なくなった今回の懇親会、やはり皆気合に満ち溢れているようだ。


 ベレさんの行動が楔となったのか、そこからはヤジも飛ぶことなく粛々とプレゼンが進んでいく。みんながみんな個性を前面に押し出した案作りをしていて、似通った案というのが少ないのが印象的だった。


 だが、その中でも争いがなかったわけではない。例えば、ある一人のプレゼンが終わった後で――


「素人質問で申し訳ない。そのオブジェですが、建築費用はどの程度とお考えで?」


 質疑応答の時間になるや否や、一人の男性がすっと挙手する。そうして繰り出された質問に、提案者は途端にしどろもどろになった。


「そう……ですね。私の試算では、今までの懇親会運営費より高くなることは無いかと思われるのですが――」


「ですが、そのために安全対策を怠っているでしょう。懇親会はお客様に向けてのものでもあるのです、作り上げた後の維持に力が入れられていないならば意味がない。……貴方の案は、いま一度考え直した方がいいものなのではないですか?」


「ぐぐぐぐぐ……‼アドバイス、痛み入ります……‼」


 必死に感謝の言葉を述べてこそいたが、その言葉は思いっきり震えている。ベレさんもこれは正当な指摘であると判断したのか、その質問を止めるようなことはしなかった。正面から叩き潰される形になったその案は、きっと通らなくなってしまっただろう。


 アリシアが伝えてくれた、『もっとも簡単に提案の不具合を周知させる方法』があながち間違ってもいないことが明らかになり、俺は内心震え上がらずにはいられない。というのも、俺の提案には中々に大きな欠陥がある。それを指摘された時の返答は考え付いていたが、出来るなら突かれたくないというのが正直なところだった。


「改めてだけど、恐ろしい場所だな……」


「もはや戦場ね……予想はしてたけど、それ以上の熱量でこのプレゼンに懸けてきてるみたい


 そんなやり取りの傍らで、先ほど得意げに人の案を論破して見せた男性の案がまた別の人に論破されている。弱肉強食と表すのもまた少し違う気はするが、少しでも隙を見せてしまった提案者から沈んでいくその様は戦場というネリンのたとえが非常によく似合っていた。


「……以上を持ちまして、定例会構成員からの提案は以上になります。ここからは、今年の懇親会を中心となって支えるパーティからのご提案です。……それでは、どうぞ」


「はい、ではあたしから行かせていただきます。こちらの資料を、一人一部お取りいただければと」


 ベレさんの言葉に応えて、ネリンがすっと立ち上がる。首尾よくアイテムボックスから取り出されたそれは、俺も初めて目にするものだった。


「皆さんもご存じの通り、懇親会は二日にわたって開催されるものです。ですが、その二日間で違う方が来場されることを今までの懇親会は想定されてきました。……だからこそ、そこをまず疑う可能性があると感じました。宿屋の娘として、懇親会が宿泊業にもたらす利益の少なさというのが少し気がかりだったのです」


「そうだな……」


「言われてみれば、確かに……」


 ネリンの提言に、周囲から同意の声が漏れてくる。プレゼンの掴みは上々のようだ。この場でも物おじしないあたり、ネリンの勝負強さは真正のものに思えた。


「この街は宿も多く、多くの観光客を受け入れる基盤が整えられている――なら、二日いてくださるお客様を少しでも増やせばいいのではないかというのが、今回の私の案のベースになります」


 その言葉に、周囲の人たちが頷きを返す。周りの人たちを巻き込んで、会場はすっかりネリンのペースだ。


「では、二日この街に滞在していただけるような懇親会をどうやって作るか……そこに関して、私は一つの案を考え付きました。資料の裏面をご覧ください」


 そう言われるがままに、俺たちは資料を裏返す。すると、そこにでかでかとある文字が書かれていた。それは――


「『二日間で完成する一つの作品を、皆さんとともに作り上げたい』。……それが、あたしの考えついた懇親会の良い在り方です」


 大きな大きな目標をぶち上げて見せたネリンに対して、会場が大きなどよめきを上げた。

次回、ネリンの提案は参加者に対してどう映るのか!定例会の行方ともどもお楽しみにしていただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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