第二百四十九話『渦巻く目論見』
「……その言い方だと、穏やかでない要素があるみたいだな」
ミズネも俺と同じ感想を抱いたのか、少し戸惑ったような視線を向けている。それに応えたのは、ネリンの隣に立つアリシアだった。
「残念なことに、ボクたちのプレゼンが穏やかじゃないのはお察しの通りだよ。……定例会の一部メンツからすれば、今回はまたとないチャンスなんだ」
「チャンス……?」
俺たちが新しく絡むようになったことと何か関係しているのだろうか。俺たちにとっては間違いなくチャンスなのだろうが、定例会のメンツにもそれが言えるとなると話が変わって来る。そんなわけもあって、俺はいまいち要領を得ずにいたのだが――
「……ヒロト。今まで懇親会が一つのパーティによって主催されてきたというのは知ってるよな?」
「……はい、それくらいは。その人たちが王都に移動したことによって、俺たちに役目が回ってきたとかなんとか」
「大体あってる。アイツらは前々から王都行きを画策してたから、予想された事態ではあったんだけどな。……それはつまり、今まで懇親会のテーマを決定してきた奴らが退いてきた、ということなんだ」
「……まあ、そうですね」
「……ああ、そういうことか」
そこまで聞いてミズネは何かを察したらしく、ポンと手を打っている。つまり、この時点で俺たちに降りかかる災難の内容は読める、というわけだ。もっとも、ミズネほど察しの良くない俺はまだ気づけていないわけだが――
「……いい?そのパーティがいた時から、この定例会の形は大きく変わってない。つまり、定例会メンバーのプレゼンは前からあったのよ。パーティの人たちの提案が良かったおかげでそれらは全て実現しなかったわけだけど」
「……?そう、だな」
しびれを切らしたらしきネリンが念を押すように条件を再整理してくるが、それでも俺には何が何やらと言った感じだ。それを見たネリンは少し驚いたように目を見開くと、一つ深く息を吐いた。
「なんだかんだ、アンタってほんとにお人よしよね……毎回毎回同じ人たちの案が通ってるってことは、『それ以外のメンツの案は毎回落選を続けてる』って言ってるのとおんなじなのよ」
「……あ」
そう言われて初めて気が付いた。定例会のメンバーにとってそのパーティは絶対王者だったわけで、それがようやくいなくなったわけだ。つまり、自分の案に自信がある人からしたら目の上のたん瘤が消えたような状況なわけで……
「そういう人たちは、あたしたちの案をひたすらにつぶしに来る……もっとも、正当な方法でね」
「正当な……って?」
喧嘩上等って言葉がまかり通りそうな雰囲気の中に正当も何もない気がするが、ネリンがいうには正当な手段というのは実在するらしい。それの正体について俺が再び考え込んでいると、横からつんと肩がつつかれた。
「ヒロト、案が潰れる要因ってのは単純だよ。その計画に矛盾やら欠陥やらが見つかればいいだけだ。仮にプレゼン中にそれを見つけ出したとして、一番簡単にそれを表面化させる方法はなんだと思う?」
「なんだと思う……って」
いきなりそんなことを聞かれても答えは『分からない』としか言いようがない。なんでそんなことを今聞くのかすらも、俺からしたらいまいち掴み切れていないわけなのだが――
「……そんなに難しく考えなくてもいいよ。答えは簡単、質問をしてやればいいだけなんだ。見つけ出した矛盾に対して納得のいく返答が出来なかった瞬間、その人の案が不安定なものって証明できるんだから」
「なるほどな……確かにそれは簡単で効果的だ」
そう言えば、俺たちのプレゼンの時間にも質疑応答の時間が含まれていた気がする。というか、かなり長いなと思いながらそれを見たような記憶すらあるのだが、まさか……
「定例会の人たち、俺たちの案をつぶそうとしてめっちゃ難癖付けてくるなんてことは無いよな……?」
「ない。…………と言いきれたら、どんなに気が楽だったろうね」
ゆるゆると首を振るアリシアの姿を見て、俺はようやく気が付いた。……さっきネリンが言っていた正当な手段というのは、俺たちのプレゼンに鋭い質問を投げ込むことなのだと。もっとも、それ自体は本当に正しい手段なわけなのだが……。
「今年は本気で来るだろうね。何てったって押しも押されもせぬ王者が居なくなったんだ。……この機会を逃す手なんてないだろう?」
そう言って苦笑するアリシアをよそに、俺は内心戦慄していた。俺が思っていた以上に、このプレゼンはいろいろな思惑が渦巻いている。……そうなると、異端な俺のアイデアが一番の突っ込み対象になるのは必至だった。つまり、一番早く俺の案が落とされる可能性も少なくないわけだ。
――俺が思う理想の懇親会への道は、想像よりはるかに険しいようだった。
不穏な雰囲気も漂ってきた定例会ですが、果たして四人は無事にプレゼンを終えることが出来るのか!この先の展開も予測しつつ、楽しみにしていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!