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第二百四十四話『知らないことはなお多く』

「…………はっ」


 意識が覚醒していくその感覚で、俺ははじめて自分が寝ていたらしいことに気が付いた。読書会の空気があんまりにのんびりしていたのもあってか、いつの間にか気が緩んでしまっていたようだ。


「そうだ。図鑑は……」


 ネリンは無事読み切れただろうか。少しだけ心配しながら図鑑の姿を探すと、それは俺のすぐ近く……正確に言うと腹の上に鎮座していた。見つけやすい場所においてくれたのはありがたいが、もう少し寝てるやつに優しい場所でも良かったんじゃないだろうか。


「……おお、起きたか。三時間も昼寝するとは、よほど疲れていたんだな」


 寝ぼけながらも図鑑を収納していると、ミズネが居間に入って来る。その口ぶりを見るに、俺が寝ていたのは周知されているようだ。


「おはよ……ネリンは?」


「ネリンなら買い物の真っ最中だ。図鑑を読んでいたらどうしても作りたい料理が出来てしまったらしい」


「あー……」


 そう言えば周辺の名物料理についても図鑑には記述があったっけ。俺からすると旨そうという感想しかわかなかったが、ネリンの手に渡れば作りたい料理がたくさん載ったレシピ本に早変わりするってわけだな……。


「受け取り手によって価値が変わる。それもまた、図鑑の魅力だよなあ」


「そうかもしれないな。私も少し読ませてもらったが、少し見るだけで価値がある文献だというのは十分に理解できた」


「魔術のこととかも触れられてるもんな……今までお前たちに見せてこなかったのが申し訳ねえよ」


 見せたくないという訳ではなかったのだが、いかんせんコピーだけで事足りる場面が多すぎて機会を見失ってしまったというのが正直なところだ。そういう意味では、クエストなどを受けずにのんびりできる時間ができたというのは良い機会なのかもしれない。


「そういう事柄にはタイミングというものがあるからな。私たちも忙しく生活してきていたし、そうなるのもまあ仕方ないさ」


「そう言ってくれると気が楽になるよ……ここの情報はいずれ共有できるようにしないとだな」


「全ての情報をとまではいかなくて良い気はするけどな。冒険に有用そうな情報は何らかの形で複製して共有するのがいいだろう」


 気の長い作業にはなるだろうけど、まあそれしか方法がないんだよな……。コピーすればある程度は楽になるだろうが、まずそもそも俺にだってこの図鑑を読了できていないのだ。


「しかし、これはどういう仕組みなのだろうな……明らかに厚さと情報量が釣り合っていないのだが」


「それは……俺にも分からん」


 というか、そればかりは神のみぞ知ると言うものだろう。図鑑が欲しいと言う俺のリクエストに応じて出されたものだから、ある程度神の力が入ってはいるのだろうが……


「そう言えば……この世界での神様の扱いってどうなってるんだ?」


 ずっと気になってきたことではあるが、なんだかんだ今まで聞いたことがないような気がする。教会みたいなものも見当たらないし、信仰が廃れてるって可能性も捨てきれないのだが――


「『神は祀り上げられることを嫌う。神に感謝したいのであれば、今目の前にある日々を懸命に生きよ』……というのが、神の矜持の様でな。その言い伝えに従って、この世界には神をまつるような神殿の類はないんだ」


「なるほどな……必要以上に騒がれたくないってことか」


 神とのつながりは今でも切れていないが、そう言えば初日以来一度も使ったことがないな。まあ、神様に頼らずに生きていけるならそれが一番いい事だからそれでいい気もするのだが。


「神は過度な介入を好まない。神が私たちに与えるのは、穏やかな生活ができるような環境だけだからな」


「へえ……そうなると、少しはっきりすることがあるな」


 四百年前に英雄が呼ばれたのも、おそらく異種族同士を結び付けたいという願いがあったのだろう。英雄の頑張りがあってこそ、今の平和な環境があるわけだからな。


 もっとも、今この時代に俺が転生してきたのは気まぐれによるものだろうが――


「好きな物への執着を買われた、って話だったしなあ……そんな奴に重大なミッションは与えねえだろ」


「……ヒロト、何か言ったか?」


「ああいや、なんでもない。少し考え事というか、思い出すことがあったんだ」


 隠し事はできるだけしたくないが、神様がらみの話はまた少しデリケートな問題になっていく気もするからな。それを踏まえると、詳細を明かすのはもう少し後の方がよさそうに思えた。


「まあ、とりあえず神への信仰はしっかりと残っているさ。神の願いもあって、それを前面に出さないだけでな」


「そういうことなんだな……悪いな、いきなり変なこと聞いて」


「構わないぞ。この世界にきてまだ短いし、知らないことは多いだろうからな」


 ミズネはそう言って、一冊の本を取り出してくる。表紙をちらりと見るに、それは異世界の雑誌に当たるもののように見えた。


「図鑑では得られない情報もあるだろうからな。たまにはこういうのをのんびりと読んでみるのもいいだろう」


「それならありがたく読ませてもらうよ。まだ夕飯まで時間もあるだろうしな」


 好奇心につられて、俺は表紙をめくる。なんの記事から読んだものかと、俺が視線を滑らせていると――


「…………お?」


『近年流行のドワーフ魔術』という記事に、俺の目は吸い寄せられる。遺跡でその名を見たきり詳細が分からなくなっていたその存在が、記事の中に躍っていた。

この世界の事情に関してもまだまだ掘り下げていきたいですね……。ここからもどんどん世界を広げていけたらいいなと思いますので、楽しみにしていただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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