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第二百四十三話『突発の読書会』

「何度見ても大きい本よね……こんなの学術書並よ」


 俺が話のとっかかりに悩んでいるところに、ネリンの感嘆の声が聞こえてくる。俺からしたらなじみのある図鑑って感じのサイズだが、確かに本としてはやたらデカいもんな。


「学術書って言っても間違ってるわけじゃないからな……大衆向けでもあるんだけど」


「大衆向けの学術書って矛盾してない……?」


「矛盾してないんだよな、これが。俺の世界の図鑑は同じものが何千冊と作られるんだぜ?」


 これの場合世界に一冊だけだからその例とは少し違うのかもしれないが、こんなに大きな本は確かにこの世界で見たことがなかった。それを思えば、確かに図鑑って文化は定着していないのかもしれないな……。


「こんだけの大きさの本は作るのも一苦労でしょうに……この世界で同じことをやろうとしたら年単位の時間がかかるわよ?」


 これを一般に流通させられるってどんだけ高い技術なのよ……と、ネリンは首をひねって見せる。そう考えると、異世界物で図鑑が一般的なものが見つからないのも納得できる話だった。


「ほら、とりあえずここが目次だ。ネリンの気になる項目を選んでいいぞ」


「モクジ……?ここに書いてある情報が全部この中にあるの?」


 ずらりと並んでいる項目に目をやりながら、ネリンは戸惑ったように呟く。俺からした慣れた操作なだけに、それに戸惑っている様子を見るのはなんだかおもしろかった。


「……あ、ここら辺の地域の記述があるじゃない。その情報は興味あるかも」


「おっけ、じゃあそこ開くわ」


 ページ数を確認して、ぱっとこの地域に関するページを開く。開きなれたページなのもあって、一度も間違えることなく該当ページを探し当てることが出来た。


「……いつ見ても思うけどとんでもないスピードよね……なんでそんなに早く見つけ出せるわけ?」


「そればっかは慣れだよ。このページは何回も開いてるしな」


 マジックかなんかでも見せられたかのような表情をしているが、こればっかは何回も開いてきたのが生きたとしか言いようがないんだよな……ま、この図鑑の機能が補助してくれるって側面もあるんだろうけど。今までは俺がいろいろと教えてもらう側だったから、こんなやり取りは珍しい気がした。


「えーと、どこ見せるのがいいかな……あ、キヘイドリのページがあったぞ」


「懐かしいわね……いい思い出って言えるほどほんわかした記憶じゃないけど」


 キヘイドリの群れから逃げながら弱点を探したのももう一か月前のことか……ここまで割ととんとん拍子で来たわけだが、なんだかんだで一番命の危機を感じたのはあそこな気がする。カレスにきてすぐのことだったし、野生の恐ろしさを知らなかったってのもあるんだけどな。


「……ほらここ、キヘイドリの習性のことが書いてある。ここが突破口になったんだ」


「こんなとこまで書いてあるのね……。この配置は見たことないかも」


 下の方に小さく書き添えられたコラムをネリンは興味深そうに見つめている。確かに今まで見てきた本は縦書きか横書きかで統一されていたし、図鑑のような凝ったレイアウトのそれは珍しい――というか、印刷の都合上で難しいのかもな。


 そんなギャップに感慨を覚えている俺をよそに、ネリンはまじまじと図鑑を見つめている。今までコピーしてきたものを渡したことはあったけど、図鑑本体を見せることは今まであまりなかったっけな。


「今度他の奴にも説明しないとだな……ほかの奴らにも図鑑のことは把握しておいてほしいし」


「使い時とかも分かってくれるかもしれないしね……アリシアに見せる時は細心の注意を払わないといけない気がするけど」


「図鑑目の前にして大興奮するのは目に見えてるもんな……いい感じに制止しないと危ないだろ」


 この世界のことなら大体載ってる本だもんな……知識の宝庫と言い換えてもいいそれを前にした時、アリシアがどうなるかがあまりにもはっきり想像できた。


 だからこそ、キャンバリーの前では図鑑の話をしてはいけないだろう。アリシア並み……いや、それ以上の知識欲と行動力があるアイツがこのことを知ったら最後、『その図鑑自体を研究させてくれ!』とか言いかねないからな。


「ま、それはとりあえず後回しだ。このページは読み終われたか?」


「大体は読めたわよ。一ページの情報量が多くてパンクしそうだけど」


「いつも読んでるやつとはサイズが違うもんな……字の大きさとかもかなり違うんじゃねえか?」


「そうね。そういうところも面白いかも」


 自分でめくっていい?と言いたげにネリンの姿勢がこちらに寄ってきていたため、図鑑をずいっと押し出してやると満足げな頷きが返って来る。完全に図鑑を預けるのは初めてだが、ネリン相手になら不安はなかった。


「確かにこれはすごいわ……これ一冊でエルフの森も遺跡も、おまけにこの家の謎に対しても突破口を開いてきたんでしょ?」


「確かにそうだな。役に立たない時もあったけど、重要な局面ではこいつがいつも決め手だったかもな」


 図鑑が無ければもっと苦労していた――というか、ミズネの助けになる事すら不可能だっただろう。そう考えると、図鑑の存在は俺たちの生活に一番貢献してくれていると言っても過言ではなかった。


「しばらく借りていい?……この項目だけ読み切っちゃいたいわ」


「ああ、ゆっくりしていいぞ。俺ものんびりしてるから」


 そう言ってソファーにもたれかかったのを合図に、俺たちの間に沈黙が落ちる。その合間合間に挟まるページをめくる音が、なぜだか妙に心地よかった。

図鑑の知識を共有した時、パーティがどんな形に変わっていくのか。どんどん関係性が深まっていく彼らの生活をこれからも楽しみにしていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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