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第二百三十九話『デジャブ』

「見るからに体力ゼロって感じね……筋肉痛とかにならないようにしなさいよ?」


「今のボクに明日のことを意識させないでおくれよ……燃え尽きてる真っ最中なんだからさ」


 ドアにもたれかかったアリシアを見るなり、ネリンの表情が少し厳しくなる。アリシアはそれにげんなりとした表情を返して見せるが、その裏で俺も内心ビビり散らかしていた。


 そういや気づいてなかったけど、期間中はほぼ毎日何らかの形で準備には関わるんだもんな……俺の体、最終日までちゃんと保つのか……?


「後で回復薬ちゃんと飲んどかねえとな……」


「なんでヒロトの方が先に反省するのかは分からないけど……まあいいわ、動けないって言うならここでご飯にしましょ」


 待つ時間ももったいないし、とネリンが俺たちに昼ご飯を差し出す。おにぎりと冷製スープという簡素なものだったが、今の疲れた体にはむしろこれくらいがありがたかった。


「うめえ……沁みるなあこれ……」


「疲れた体に活力が巡っていくようだよ……本当にネリンの料理は一級品だね」


「褒められても何も出ないわよ……これくらいなら十分あれば作れるし」


 ネリンは相変わらず謙遜しているようだが、ネリンの腕は料理店を出せるくらいには優れたものだというのはパーティ全員の共通認識だ。俺たちもネリンに教わりながら料理当番を回してはいるのだが、やはり師匠の腕には誰も到達できていないのが現状だった。


「こればかりは積み重ねしかないと分かってはいるけれどね……ネリンのそれには積み重ね以上の何かを感じてしまうよ」


「やってけば自然にそうなるわよ。基本をマスターすればあとはやりたいようにアレンジできるし、そこからはあっという間だから」


 いずれアンタたちも追いつけるわ、とネリンは何でもないように言ってのけるが、俺には全然そうは思えなかった。俺の手先が不器用なのもあるかもしれないが、俺の料理道は三歩進んで二歩下がるを繰り返しているようなものなのだから。料理人の修業に何年もかかる理由を、俺は異世界に来て少しだけ理解しつつあった。


「ふう……これでようやく疲れが少し抜けた気がするよ。それくらいにはきつかった」


「どこも強度は変わらないわよ。……にしては、ミズネの帰りが遅いのが気になるけど」


 スープを飲み干してよたよたと立ち上がるアリシアを支えながら、ネリンは怪訝そうな表情でドアの方を見やる。ミズネのことだから危険が及んでいる可能性は低いだろうが、それはそれとして気がかりな事ではあった。


「エルフに対しての差別とかはないはずだもんな……顔合わせ会では珍しがられてたけど」


「嫌われている、なんてことはないだろうね。どちらかと言えば、中々会えない存在という認識の方が強いんじゃないかな」


「どちらにせよ、ちやほやされてる可能性はありそうね……ミズネは優しいし、、それに一つずつ対応しているのかも」


 年齢だけで言えば商店街の面々よりも年上なわけだが、その見た目はせいぜいニ十歳前後だ。そのギャップも相まって、手伝い先の人は相当戸惑っているかもしれない。


「なじめない、なんてことはないでしょうけどね……コミュ力ならこのパーティの中でも一番だし」


「この街限定で話すならネリンがトップだろうけど、知らない人になじむ能力なら彼女の右に出るものは少ないだろうね……ボクにはない能力だから羨ましいよ」


「アンタの場合、問題が少し他とは違う気がするけどね……」


 ジト目で見つめるネリンに、アリシアはそうかい?ととぼけた様子で返す。確かにアリシアの場合は事情が事情な気もするが、対人能力が一番高いのがミズネだというのは明らかな事実に思えた。そんなわけで、特にトラブルを心配する必要はなさそうだが……


「帰って来るのが遅いと心配になるのも事実なんだよな……」


「そうなのよね……三人で迎えに行く?」


「いいアイデアだね。……それの提案があと三十分遅かったら一も二もなく賛成してたよ」


 要はあと三十分は休ませてくれ、ということだ。俺とネリンは視線だけでその認識を共有し、そこが妥協点だと判断する。


「ま、そうしましょうか。三十分もすれば帰って来るだろうし」


「そうだな。それまでは情報交換でもしつつ帰りを待とうぜ」


「そうしてくれるとありがたいよ。三十分もあればボクも外を出歩けるくらいにはなるだろうからね」


 まるで溶けたかのようにふにゃふにゃとした体勢だったアリシアも少しはしゃきっとしてきたようだし、この調子なら午後は別のことに時間を割けそうだ。もっとも、準備期間中はクエストなんて受けている暇はないだろうが。


「それじゃ、とりあえず居間に戻りましょうか。三十分待ちつつ、明日に向けての調整を――」


 ネリンの言葉を、がちゃり、とドアが開く音がまたしても遮る。どこかで見たことあるような展開。そのデジャブに従うなら、次の瞬間には次の瞬間にはパーティメンバーが入ってきて――


「……ただいま。……途轍もなく、疲れる現場だったぞ……」


「おかえり。……今おにぎりとスープを持ってくるから、ちょっと待ってて」


 今までにないぐらいげんなりとしたミズネが帰って来るのを見て、俺とネリンはまたしても苦笑するしかないのだった。

ということで、次回からはそれぞれの一日目を振り返る形になると思います!果たして四人は仕事先で何を見たのか、どうぞお楽しみにしていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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