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第二十三話『意地の張り合い』

「実践って……いくらなんでもそれはいきなりがすぎませんかクレンさん!?」


「そうよクレン、私たち冒険者になったとはいえまだまだ駆け出しなのよ!?」


にこやかに剣を差し出してくるクレンさんに、俺達ふたりは手をブンブンと振りながら後ずさる。そりゃそうだろ、あんな勢いで突っ込んでくる人形の姿を見たあとに『はい行きます』なんて言えるわけが無い!


「誰でも最初はそう言うものです。私だってそうでしたし。しかし、実践が人を成長させるというのもまた事実でして」


しかし、そんな俺たちに構わずにクレンさんはずんずんと前身してくる。……なんだろう、その目に宿る光が今は怖い!どうしよう、何とかしてもう少しだけでも講義の時間を……


「……って、壁ぇ!?」


しまった、もう後ずされない!


退路を失った俺たちに、クレンさんが満面の笑みでジリジリと近寄ってくる。そして、丁寧に両手で直剣を差し出すとーー


「さて、では実践のお時間ですね。さすがに訓練人形のレベルは下げるのでご安心を。……それで、どちらから検査なさいますか?」


ええい、もう覚悟を決めて……って、どちらから?


「あの、両方いっぺんにってわけじゃないんですか?」


「そりゃもちろん。私もすべてにおいて万能ってわけじゃないですし、適性を見るのは一人の方がより精度が高まりますからね。……それで、どちらからにするんです?」


至極真っ当な意見を述べて、クレンさんは俺たちにそう投げかけてきた。……そして、俺たちは顔を見合わせてーー


「ネリンが先にーー」


「アンタが先にーー」



俺たちの声が、綺麗にシンクロした。



「……おや、おふたりとも消極的なようで」


向き合ったまま固まる俺たちに、興味深そうにクレンさんが茶々を入れた。……互いに瞬きすらせず、表情ひとつ動かさずに睨み合う俺たち。傍から見ればド下手なにらめっこな訳だが、俺たちの間には『先に動いた方が負け』という共通認識が奇跡的に合致していた。


 簡単に言えば、意地の張り合いだ。「最初に行くの怖いからちょっと様子見してきてよ」と言い出せない俺たちの、な。


「……強情だな?」

「アンタこそ……ね!」


視線を1ミリたりともそらすことなく、至近距離で俺たちは言葉を交わす。酒場の時の口論は半ば勢いだったが、今この瞬間はまた違う。互いに譲れない、退けない戦いだった。


「直剣の知識があるのに、ずいぶんとビビるんだな……!」


「そっちこそ、ワクワクしてたくせにずいぶんと腰が引けてるのね?」


お互いに煽り文句を垂れるも、俺たちの表情がピキつくだけで何も変わりはしない。「先にあの人形と向き合うのはキツい」という考えが一致している以上、俺たちの方針は一緒なのだ。


なんだかんだ、昨日言われた「似たもの同士」って言葉が実証されつつあるのが複雑というか少しむず痒いというか……しかし、それを感じたとてポンと仲間意識が湧いてくる訳でもない。だからこそ、俺はネリンが折れるまで我慢比べをーー


などと、持久戦の覚悟をしていたのだが。


「埒が開きませんね……ならば」


俺たちの熱戦を傍で見ていたクレンさんが、やれやれとため息をついた。そして、指を構えると……


「実力行使、と行きましょう」


パチン、と指を鳴らした。


「「ちょっ!?」」


戸惑う俺たちをよそに、コロッセオの壁がまた開く。そこから、先程のよりは小さいもののそれでも大きな人形が結構な勢いで迫ってきた。


「大丈夫です、失敗しても痛いだけですので。……さぁ、どっちが行くんです?」


その問いかけに、俺たちは互いに視線を交換する。もちろん、先に行きたくなんてない。痛いなんて嫌だからな、できるだけ危険は避けたい。……だけど、だけど……


「ここは、あたしが……」


数秒の交錯の後、ネリンが1歩を踏み出そうとする。……だが、俺はそれを遮るようにして、


「ええええい、こうなったらやってやるよ!!」

直剣を、手に取った。


だって、だってーーそんな不安そうな目で見られて、それでも「先にいけ」なんて言えるはずないだろうが!

次回、ついに武器適性検査開始!たくさんの人に作品が届いているようで嬉しい限りです!これからも頑張って書いていきますので、良ければこれからも着いてきていただけると幸いです!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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