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第二百三十八話『疲れ切った三人目』

「もうやだあ……肉体労働はこりごりだよ……」


「お前も体力はない側だもんな……その気持ちは痛いほどわかるよ」


 エントランスに向かうと、そこにはすっかり脱力しきったアリシアがドアにもたれかかるようにして座っていた。手を貸してどうにか立ち上がらせようとするが、どうも家に帰り着くまでに全ての体力を使い切っているようだった。


「……しばらく動けなさそうか?」


「とうぜんだよ……ここまで帰ってこれたこと自体、ボクの体力からみたら奇跡的なんだからね……?」


 そう言いながら、よたよたとアリシアは俺に一枚の地図を差し出す。どうやら今日の仕事場所が書かれたものらしきそれに示されていた場所は、この家からほぼほぼ真反対にある区画だった。『どうせ仕事内容は同じだから』と適当に決めた振り分けが、ここに一つの悲劇を生んでいたらしい。


「明日からはちゃんと場所も加味して決めるように進言しなくちゃだな……」


「まったくだよ……行き来でも体力は持っていかれるんだからね?」


 バイタリティお化けのネリンやミズネに引っ張られて自然に決定されていたが、この悲劇が今度は俺に降りかかってくる可能性だってある。この一ヶ月で少しは――いやかなり体力はついてきた気がするが、それでもまだまだそこら辺の高校生に毛が生えたレベルの体力である。トレーニングの結果が出てくるにはもう少しかかりそうだった。


「さ、肩かしてやるから歩くぞ。今頃ネリンが飯を作ってくれてる頃だろうからな」


 ネリンにしても疲れてはいたから、そんなに豪華な料理を期待するのも気の毒ではあるけどな。疲労回復にはいい食事がきっと待っている事だろう。


 そんなことを考えながら、俺は身をかがめて肩を貸そうとするが――


「……んぶ」


「ん?アリシア、今なんて――」


「おんぶ。それくらいしてくれないとボクは動けないぞ?」


 突然飛び出してきた要求に、俺の思考が一瞬フリーズする。冒険途中で肩を貸したことなら何度となくあるが、おんぶの要求は初めてだ。居間までの数メートルすら歩きたくないほどに疲れているのはなんとなく分かるが、まさかここまで要求してくるとは……


 もちろんいやかと言われるとそうではないのだが、いかんせん俺も疲れているのが気がかりなのだ。今おぶったりなんかして転んでしまったらシャレにならない。……だが、今の俺だと十中八九そうなる。というか、おんぶの姿勢を作るところから立ち上がるところまで多分今の俺には難関な気がする。


「おんぶは遠慮しとくよ……それならここで一緒に飯ができるのを待ってる方が有意義だ」


「……ご飯は、君かネリンが持ってきておくれよ?」


 動けるようになるまで様子見という落としどころを作って、俺はアリシアの隣に腰かける。それに対して少し不満気ではあったが、アリシアもどうやら納得してくれたようだった。


「まったく、アイテムボックスに入れることすら許してくれないとはとんだ重労働だったよ。ボックスが使えれば入れる時と出す時の負担だけで済むだろうに」


「アイテムボックスから狙ったものを取り出すのって慣れてないと難しいらしいからな……すり替えとか取り違えとかの可能性を考えると妥当な判断だろ」


 その実情を知った後だと、いつでも言葉一つで図鑑が呼び出せるししまえることというのはかなりの便利機能だ。ごちゃごちゃといろんなものを取り出してまで探す必要がないし、そのおかげで冒険にもかなり使える。『どういう原理なんだ……?』と、アリシアもミズネも揃って首をひねっていたのが印象的だったが。


「そんなもんなのかな……人それぞれにアイテムボックスのものを全部出す用の箱を支給すればどうにでもなる問題だと思うけどね」


「ドデカいもの持ってる人が居たらシャレにならなくね……?」


 中々画期的な案には思えるが、それでも問題点がなくなるわけではない。初めてアイテムボックスという文化に触れた時は中々にめちゃくちゃな代物だと思ったものだが、実際に使ってみるとなかなかどうして融通の利かないものというのがリアルなところだった。


「万能な一手なんてないもんな……あればとっくに誰かが考え出してるわけで」


「ヒロトの世界の知識を使えば変えられるものもありそうだけどね……そこらへんは検討の余地がありそうだけど」


 何か見つかったらあの店でサンプルデータを取ればいいか、とアリシアは呟く。他の街にもチェーン店を展開する大商店でサンプリングするのは中々に恐れ多い事だが、アリシアはそれなりに前向きなようだった。


「そこらへん、アリシアは割と柔軟だよな……驚いたりしなかったのか?」


「そりゃ驚きはしたさ。ただ、そこにある物なら全て平等に検討しなくてはならないだけだよ。たとえ一人しか知らないようなものでも、この世界に活かせる要素があるなら十分検討の余地はある」


 体勢を一切変えないまま、アリシアはそう言い切って見せる。その横顔はとても真剣で、その独特の雰囲気に俺は思わず背筋を伸ばしそうになって――


「二人ともー、ご飯できたわよーー?」


「お、いいタイミングだね……ヒロト、取ってきてくれー」


「……りょーかい。ちょっと待ってろ」


 飯の気配にその雰囲気を霧散させたアリシアに苦笑して、俺はゆっくりと立ち上がって居間へと向かう。俺も疲れてる中で中々に理不尽な要求にも思えたが、なぜか少しも不愉快な気分は起きなかった。

懇親会の準備を巡るバタバタがテーマの一つではありますが、合間合間にこういうやり取りも絶えず挟んでいきたいなーと思います。もちろん懇親会の方もどんどん盛り上がっていきますので、楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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