第二百三十一話『異世界の頼り方』
「エルフの里に情報収集に行く、か……悪くない手ではあるな」
「でしょ?あたしたちにしか行けない場所だし、『今までとは一味違う懇親会』を作るならこれ以上ない参考知識が手に入ると思うの」
感心したようにうなずくミズネに、ネリンは胸を張りながら嬉しそうにそう答える。自分のアイデアが認められたことがよほどうれしいのだろう。
このアイデアに関してネリンがどれだけガチだったかは、この会話がエントランスで行われていることからも分かるだろう。元からエルフの里には憧れていたっていうくらいだし、ことあるごとに選択肢に入って来るのも分からない話ではないんだけどな……
「俺たちの方は良いかもしれないけどさ、エルフ的には大丈夫なのか……?あんまりお客さんが頻繁に来るのもよくないだろ」
「長老はそういったことは気にしないだろうさ。里の皆もなんだかんだ私たちのことに興味を持ってるエルフも多いし、私たちのことを歓迎こそすれよく思わない者は少ないんじゃないか?」
「そういうことらしいわよ。だから、ヒロトは無駄な心配なんてしなくていいの。『遠慮なく頼れ』って言われたらお言葉に甘えるのも一つの礼儀よ?」
ミズネの返事を聞いて、ネリンはふふんと笑って見せる。俺の心配は、どうやら杞憂に終わる類のものの様だった。
日本に比べて危険が多いのは確かだし、助け合いというか、持ちつ持たれつの関係性が強いのかもな……初めてこの街に来た時だって、見ず知らずの人たちが俺のことを助けてくれたからスムーズに冒険者になれたわけだし。
そんな感じで俺はある程度の納得をしているのだが、一人だけまだ状況を掴めてない――というか、予想外の出来事に呆然としているやつがいる。まあ、誰なのかは言わずともわかると思うが――
「……本当に、エルフの里に行けるのかい?ボクの提案にうんざりしたネリンがだしたハッタリとかではなく、本当に?」
「ちゃっかり人聞きの悪い事言わないでくれる……? たとえうんざりしてたって嘘はつかないわよ」
どうやらアリシアはまだエルフの里行きを信じ切れていないらしく、珍しく目をぱちくりとさせながら俺たちのやり取りを聞いている。知識欲旺盛なアリシアからしたら、あそこは確かに夢のような場所なのだろう。
「アリシアの原点ともいえる場所だもんね……ついでにキャンバリーのことも報告しておく?」
「そうだな。あれ以来いけていないし、事の顛末を伝えるついでに知識を付けに行くのもいいだろう。もっとも、今すぐにという訳にはいかないだろうがな」
「明日から本格始動だもんな……どうなる事やら」
いい懇親会にするためにいろいろと考えてはいたものの、実際にやれたことは数少ない。俺たちとしてもエルフの里から帰ってきてすぐにフル回転とかいう鬼畜スケジュールは流石に避けたいところだった。どうにかして一日かけた取材プランを立てたいところだ。
「ま、そこはなるようになるわよ。準備は毎年共通のところから始まるわけだし、アイデアが固まるのは後でも全然遅くないわ」
「そうだね。今はそれに関するヒントのめどが立ったことを喜びたいくらいだ」
しかし、そんな俺の心配を経験者組が払拭してくれる。主催側は初めてだとは言え、懇親会の何たるかを知る人がいるのはやっぱり心強かった。
「それでは、長老には近いうちに訪問する旨を伝えておこう。……今日は早めに休んで、明日からの英気を養わないとな」
「そうね。何をするにも体力は資本だし、特に序盤は力仕事も多いし……二人は覚悟しておいてよ?」
「うげ、わざわざこっちに話を振るなよ……」
「ボクからも抗議させてもらうよ。せっかく少しは気合いを入れようと思っていたところなのにさ」
宿題をやろうとしているときに『宿題をやれ』って言われるとやる気が失せるようなものだ。その心理は異世界でも共通のようで、アリシアも俺と同じようにぶーたれていた。
「はいはい、今日は昨日よりも品目多めにするから……それで手打ちにする気はない?」
「それを出されちゃもう何も言えねえな。期待してるぞ?」
「同意見だね。君の料理はおいしいし、それがいつもより堪能できるというなら願ったりかなったりだ。
俺たちの動かし方を熟知しているのか、ネリンが提示してきた条件に俺たちは無条件で食いついて交渉が成立する。なんというか、ここまでが様式美のような、最早鉄板の流れと化したかのような雰囲気すらあった。
「そうと決まれば移動しないとだな。いつまでも立ち話というのも疲れるだろう?」
それに続いて出てきたミズネの提案に全員が賛同し、俺たちは居間へと向かっていく。なんだかんだで、俺たちは良好な雰囲気で懇親会の準備を迎えることが出来そうだった。
ということで、物語はついに懇親会準備当日へと向かっていきます!果たして彼らにはどんな仕事が言い渡されるのか、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!