第二百三十話『定番の選択肢』
「アンタねえ……そこまでしてバロメルに行きたいの?」
「そりゃもちろん。インドア派という自覚はあれど、興味がない街がないわけじゃないからね。パーティという頼れる仲間を手にした今、一緒に回ってみたい場所はたくさんあるとも」
「んで、その一環がバロメルの街、と……」
もともとはコンビニの店員だったわけだし、確かに外の街に観光に行くのは難しいのかもしれない。テレポート屋を使えば一人でも行けるだろうが、一人で払うとなるとあそこはかなりいい値段がついてしまうからな。
それにしても、まさかここまでアリシアがバロメルにこだわって来るとは思わなかった。ネリンとしても予想外なのか、視線が宙をさまよっている。懇親会の参考にって言われると、そうむげに断るわけにもいかないのが俺たちにとっては苦しいところだった。
別に時間を割いてバロメルに向かってもいいのだろうが、問題はそこでどこを回るかだ。聞き込みのためにギルドに向かわれでもしたらぽろっと遺跡に関する俺たちの動きがばれたっておかしくない。そうなれば、アリシアの研究熱が燃え上がってしまうだろう。そんなわけで、『今すぐ』バロメルに向かうのは少し避けたいというのが俺の本音ではあった。
「バロメルに向かうこと自体は反対しねえけど、懇親会の参考になるかって言われるとな……それなら王都とかにでも向かった方がいいんじゃないか? あっちならきっといろんなイベントが計画されてるだろうし」
「それいいかも。あっちならいろんなアイデアが出てきてるだろうし、その中からなら参考にできるのもあるかもしれないわね」
少し考えた末の俺の提案に、ネリンは食い気味な賛成を示す。『懇親会の参考になる知識を探しに行きたい』という提案を否定しないようにしつつ、違う旅先を提案すればアリシアもちょっとは譲歩してくれるのではないかと、そんな風な思惑を孕んだ提案なわけだが――
「王都かあ……そこの規模は大きすぎてきっとボクたちには劣化コピーすることしかできなくなってしまうだろうね。それに、そういうのこそ文献だけで情報は揃ってしまうだろう?行くとしたら取り寄せでもしない限り文献が出回らないバロメルのような少し辺境の地、かつそれなりに栄えているところでないと」
どうやら王都ではアリシアの求めている条件には沿わないらしく、俺たちの提案はあえなく却下されてしまった。それもただの感情論じゃなく、それなりに筋が通っているのがまた厳しいところだ。さて、どうやって反論するのが正しいのやら……
「となると、なかなか行けないような地に行くのがいいってことよね。それなら、あたしたちにしか行けない場所があるじゃない。それでいて、いろんな知識も同時にあるようなところが」
「……そんな都合のいいところ、本当にあるのかい?」
思い悩む俺の隣で、何かを思いついたらしきなネリンがパンと手を叩く。アリシアは怪訝そうな目を向けているが、それにかまわずネリンは続けた。
「あるわよ。あたしたちにしか行けなくて、その上独自の知識が得られるところ。……それでいて、アリシアにも関係があるところよ」
「……へえ、それは是非とも行ってみたいね。有意義な知識が得られそうだ」
あまりの都合のよさに、流石のアリシアも喰いつかざるを得なかったようだ。それを見て、ネリンはニヤリと笑った。
「そう?じゃあそこに行きましょっか。……まあ、ミズネの確認はとらないといけないけどね」
「それはもちろんそうだね。パーティメンバーの意向はちゃんと確認しないとだ」
「いや、そうじゃないのよ。あたしたちがいくら行きたいって言っても、ミズネの協力がなくちゃそこには絶対に行けないんだから」
「……ネリン、お前まさか……」
そう言われたら、俺にも流石に理解できた。確かにあそこは俺たちにしか行けない場所だし、知識もたくさんある。だけど、俺的には少し問題があるというか、気になるところがあるというか――
「そのまさかよ、ヒロト。まさに今あたしたちに必要な場所でしょ?」
「まあ、そうではあるんだけどな……」
別にその判断自体が間違っているという訳ではない。ただ、俺の中で引っかかっているのは申し訳なさとかの方だ。
確かにあの時手厚くサポートしてくれるとは言っていた、言っていたのだが――
「……驚かないでよ、アリシア。あたしが提案する行き先はエルフの里。……四百年前すらも知る、古くからの土地なんだから!」
――俺たち、ことあるごとにエルフの里に頼りすぎじゃねえか……?
だんだんと恒例になりつつあるエルフの里行きですが、果たして今回もそうなるのか!始まる前から波乱だらけの懇親会、ここからもお楽しみいただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!