第二十二話『武器選びのすゝめ』
「……着きました。ここが武器適正の判断スペースです」
……クレンさんに連れられるまま歩くこと少し。俺たちが案内されたのは、小さめの闘技場のようなスペースだった。観客席こそないが、円形のフィールドは図鑑で読んだローマのコロッセオを思い起こさせた。写真で見る分にはわからなかったけど、実際立ってみるとかなり広く見えるんだな……
「へぇ……ここ、こんなふうになってたのね。クレンにいくら言ってもここだけは見せてくれなかったから」
俺がそんな感慨にひたっていると、その隣でネリンも興味深そうに声を上げていた。それに反応して、クレンさんはくるりと振り返ると、
「一応、冒険者のための設備ですからね。安全にみまもれる場所もありませんし、バルレの娘さんに万が一があってはいけませんから」
「パパったら過保護なんだから……でも、今日からはもう違うでしょ?」
優しい目をしてそう言ったクレンさんにネリンは苦笑したあと、自信ありげに指を1本立ててみせる。それに対して、クレンさんは大きな頷きを返した。
「そうですとも。貴女が立派に育ったからこそ、私も丁重に『お客様として』誠意を尽くさせていただきます」
そう言ったのを最後に、またクレンさんの目が変わる。鋭い光をたたえた、仕事人の目だった。
「ではお二人とも、本日は武器適性検査を受けていただきありがとうございます。……まずは、お二人の希望の武器種等はありますか?」
優雅にお辞儀をしながら挨拶するクレンさんに、俺も思わず小さくお辞儀を返した。隣をちらりと見ると、ネリンもかしこまった様子でお辞儀をしている。もしかしたら、ネリンでも……いや、ネリンだからこそクレンさんのこのギャップにびっくりしてるのかもな。かなり雰囲気変わったし。
……しっかし、使いたい武器か……そう言われると思いつかないな。短剣が使いやすくもあるんだろうけど、これからずっとそれを使うのかって聞かれると微妙だし……
と俺が悩んでいると、隣でネリンがビシッと手を上げた。
「あたし、直剣使ってみたい!パパも使ってたし、それを隣で見てきたから短剣よりも上手く扱えると思うの!」
「バルレは私と真逆のスタイルでしたからね……貴女がそう考えるのも納得です。……いいでしょう、冒険者の基本となる武器ですし、まずはそれからお見せします」
勢いのいいネリンにクレンさんはどこか嬉しそうに笑うと、パチンと指を鳴らす。すると、どこからともなく一振りの直剣がクレンさんの足元に出現した。
「先程も少し触れましたが、直剣はあらゆる武具の基礎となる優秀な武具です。かくいう私も、初めて触れた武具は直剣でしたからね」
懐かしげに語りながら、クレンさんは直剣を拾い上げる。
訓練用の剣なのか装飾はされていないが、刀身は光を反射してキラキラと輝いていた。それを軽くブンブンと左右に振ると、クレンさんは軽く腰を落として構えをとる。
「百聞は一見にしかず、と言います。バルレの受け売りですがね。……ということで、まずは見ていただきましょう」
そう言うと、クレンさんはもう一度指を鳴らした。……すると今度は、コロッセオの壁の一部がせり上がってくる。
その時点で、クレンさんが何をしようとしているかの想像はついた。……そんなデモンストレーションあってたまるかと、内心悲鳴を上げずにはいられないが。
「あ、下がっていてくださいね。私が相手をするとはいえ、万が一がないとも限りませんので」
「「万が一っ!?」」
思い出したかのように付け加えられた言葉に、俺たちふたりは思いっきり後ずさりする。それを見計らったかのように、暗闇の中でなにかが動き出してーー
『戦闘訓練用魔法人形、起動します』
少しくぐもった音声とともに、俺たちより一回りは大きい人型の人形がこちらに突進してきた!
「「ひぃっ!?」」
そのあまりの勢いの良さに、俺たちは悲鳴を上げながらもう一歩大きく飛び退った。なんだアレ、絶対に訓練用のスケールを越えてる!
「……まぁ、怖がる気持ちもわからないでもないですが。……よく見ててくださいね?」
ーーしかし、クレンさんの口調は平静のままだ。突っ込んでくる人形に対して、軽く剣をグッと握り込むと……
「……ふっ!」
剣を使って突進を受け止めると、そのまま体を滑らせるようにしてその勢いを受け流す。勢いを流された人形はつんのめるように体勢を崩し、クレンさんに対して無防備な背中をあらわにした。
「……んじゃ、これでおしまいですね」
のんきにそう言うと、クレンさんは反転しながら人形の背中に強烈な一撃を叩き込んだ。それをもろに食らった人形は地面を滑るように転がると……
『規定以上の損傷を確認。機能停止』
と言う音声を残して、それ以降動かなくなった。
「す、げぇ……」
その一瞬の出来事に、俺はそう言葉を漏らすので精一杯だった。……冒険者って、すごい職業なんだな……バルレさんのパーティメンバーだったってことは、バルレさんもこれくらいの力量だったりするんだろうか……?
「ま、こんな感じでですね、直剣は攻めも受けも強い優等生な武器なわけです。駆け出しの冒険者にはピッタリ、と言われるのはそのためです」
呆然としている俺らの方に歩み寄りながら、クレンさんはそう講釈をつけ加えてくれる。そのまま、こちらに剣を差し出して……
「……さぁ、次はあなたたちの番ですよ?習うより慣れろ、です」
……と、満面の笑みでそう言って見せたのだった。
「……って、はい?」
いや、急展開にも程があるだろそれは!?
ということで、どうなる次回!ヒロトの武器は何になるのか、そこら辺も予想しながらお待ちいただけると幸いです!
ーーでは、また次回の午後六時にお会いしましょう!