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第二百二十八話『好奇心の結実』

「…………ねえヒロト、アリシアと何を話してきたの?」


 ネリンからそんな風に聞かれたのは、俺の相談事から一夜が明けた後のことだった。


 アリシアは朝ご飯を食べるなり自室にこもり、ミズネは魔術研究のために外に出向いている。そのタイミングを見計らったかのように切り出された話題は、どこか意味深に聞こえた。


「何を……っても、俺の生まれ育った世界についての質問に答えてただけだけど」


「あー……道理であんなに上機嫌なわけね」


 俺の解答を聞くなり、ネリンは納得したようなうなり声をあげる。俺自身は起きるのが遅かったのもあってまだアリシアと顔を合わせていなかったのだが、ネリンが言うなら多分上機嫌だったのだろう。


「上機嫌なのはいい事だと思うけどな。それとも何か気になる事でもあるのか?」


「……いや、アリシアに関してはそうじゃないのよ。アイツが上機嫌な時は、大体なにかロクでもないことを思いついた時だったから」


 具体的に思いあたる節でもあるのか、ネリンは少しげっそりとした表情をしながら俺にそう教えてくれる。


 好奇心旺盛なアリシアのことだし、小さいころからいろいろなことを見つけてきたんだろうな……話を聞く限り二人は一緒に行動することも多かったみたいだし、発見したことを検証するためにいろんなことに突き合わされたりしたのかもしれないな。


「……そういや、小さいころにこの屋敷にも来たことがあるんだっけか」


「そうそう、肝試しの一環でね。……まさか、数年越しにここに住むことになるとは想像してなかったけど」


「そりゃそうだよな……いろいろなことが起きすぎてる」


 事実は小説より奇なりとはよく言うが、それでも俺たちを取り巻いてきた環境は奇妙だと言わざるを得ないだろう。俺たち二人が知り合ったのだって、元をたどればかなり奇妙な縁から始まってるわけだからな。


「どれか一つでも違えば今がないって思うととんでもない話よね……。こういう話をするのはあまり好きじゃないんだけど、何か導きのような何かを感じざるを得ないわ」


「そんなことを言うと、また新しい何かが訪れそうなのが怖いけどな……」


 言霊なんて考え方もあるくらいだしな。あの神様に限って俺たちに特別な干渉をしているわけはないだろうが、もう少しだけ穏やかな生活をしていたいというのが本音だった。


「怖いこと言わないでよね……。大冒険はしばらくたくさんよ」


「そうだな。もう腹いっぱいだ」


 いつかあれらを超えるような大冒険をするんだとしても、その時は俺たちから選んで出向きたいものだ。俺たち、他のパーティに比べて巻き込まれるように冒険に望むことになった回数が圧倒的に多いだろうからな……。


「もっとも、アリシア的にはどれだけの冒険も歓迎するでしょうけどね。あたしたちが拒むのを押し通してまでやることは無いと思うし、その点だけは安心だけど」


 パーティのスローガンが『自主性』になりそうな考察が終わったところで、ネリンが息をつきながらそんな風に言って見せる。そう言えば、このパーティで一番自主性が高そうなやつが好奇心の塊みたいなやつだったな……


「アイツ、とことん学者気質でしょ?それが影響してるのか、いろんな知識をかき集めては研究できそうなテーマをまとめてるの。今日部屋から出てこないのも、その一環でしょうね」


「へえ……例えばどんなテーマで書いてるんだ?」


「聞いても理解できなかったから、詳しい内容は知らないけど。ここら辺の地域の文化から考古学に当たるような分野まで広くやってることは確かよ。バロメルの遺跡に行ったことを話したら、かなり食いついてきてたし」


「バロメルの遺跡か……そう言えば、俺の世界の文字にかなり強めの関心を持ってたっけか」


 一番形として分かりやすいものとして文字を選んでいたのだと思っていたのだが、そこにはしっかりと理由があったらしい。もっとも、バロメルに残されていた記号が日本語であることに気づくのは難しいとは思うけどな……


「……俺からの知識だけで全部解き明かしたんだとしたら、俺たちはひっくり返るしかないな」


「ありえない話じゃないのが怖いわね。今日の朝ちらっと見た感じ、何か閃いたようにも見えたし――」


 そんな風に言ったのが、いわゆる『フラグ』というものになったのだろうか。遠くから扉が勢い良く開けられる音が響き、どたどたと急ぐような足音が聞こえてくる。そして、それはこちらに全速力で向かってくると――


「……皆、バロメルに行こう‼ ……って、ここにいるのは二人だけかい?」


 頬を上気させたアリシアが、そんな言葉とともに居間に飛び込んできた。


「ミズネなら外に出てるわよ。今日は日が暮れるまで戻らないかもって」


「うわあ、なんて運の悪い……。せっかく大発見かもしれないというのに、それの答え合わせが一日遅れてしまうかもしれないなんて」


「大発見……?それ、聞かせてもらっていいか?」


 できる限り知らないふりをして、俺はアリシアにそう問いかける。すると、アリシアの視線が勢い良くこちらに向けられた。


「よくぞ聞いてくれたね!これは君のおかげで完成し、君に深くかかわる仮説なんだよ!すなわち――」


 その後に続く言葉は大体想像できるが、それでも俺はごくりと息を呑む。なんだかんだで数週間一緒に過ごしてきたわけだが、俺はまだ――


「かつて世界を変えたといわれる英雄の正体は君と同じ世界から来た異邦人ではないかと、ボクは考えたんだよ!ああ、今すぐ検証したくて仕方がない……‼」


――アリシアの情熱を、見誤っていたようだった。

ヒロトたちの日常は騒がしくものんびりと展開されていきます!果たしてヒロトたちはアリシアの発見にどんな反応を示すのか、どうぞお楽しみに!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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