第二百二十四話『お話の時間』
「やあやあ、久しぶりだねキミたち!なんだかんだで二週間くらいは経っているかい?」
「そうね。その間何をしてたか……は、聞かずにおくわ」
ろくでもない事しかしてないでしょうからね、とネリンが先んじてキャンバリーの会話デッキを一枚削る。こうして一緒にテーブルを囲むのは四度目くらいだが、俺たちは既にキャンバリーの扱い方を心得つつあった。
「つれないなあ、キミたちの頼れる隣人の帰還だぞ? 本来なら茶の一つでも出すのが相場というものだよ」
「そこにポットあるから自分で注いで飲んどけよ、そうする分には誰も文句言わねえから」
「とことん冷たい隣人たちだ……まあ、茶自体はありがたく頂くけどね」
「あ、少し待ってくれ、それなら――」
俺が顎でポットを示すと、キャンバリーは大げさに悲しむような表情を見せながらも茶を注ぐべく立ち上が――ろうとしたところを、アリシアの声が引き留める。まさか代わりに注いで来るのかと、期待したキャンバリーのもとにコップが差し出された。
「ついでにボクの分も注いできてくれ。二度手間にはならない方がいいだろう?」
「…………ボクをここまでぞんざいに扱えるのは、後にも先にもキミたちだけだと思うよ……」
グジグジ言いながらもひ孫の言うことをむげにはできないのか、二人分のカップを持ってキャンバリーはとことことポットまで向かっていく。本当は俺も二杯目が欲しかったのだが、流石にカップを三つ持たせるのはかわいそうなのでやめておいた。
「ふう、本当にキミたちは適応が速いというか……毎度毎度驚かされるばかりだよ。普段驚かせるのはボクの側だというのに、ここだと力関係が逆転していて困る」
紅茶をすすりながら、キャンバリーはしみじみとそうつぶやく。貴族の妻だったこともあってか、その所作はよく決まっているように見えた。
「あたしたちからしたらただの同居人……いや、同居人ってのもおかしいわね。ちょっと奇妙な知り合いくらいの認識だからじゃない?もっとも、そういう認識にさせたのはアンタの側だけど」
「ボクが少々変わり者なのは認めるけど、そこまでストレートに言われるのは新鮮だな……」
「それに、このパーティはエルフへの慣れが強い。他の人間たちと接するときよりも、貴方への慣れが強いというのが原因としてはあるだろうな。……まあ、一番は貴方の行動だろうが」
パーティの中で一番敬意が残っているのはミズネだが、それでも指摘は鋭く厳しい。キャンバリーに対してどう接していくか問題は、俺たちの中で共通の答えに行き着いていた。
とはいえ、もう二度と顔を合わせることは無いと思っていたキャンバリーがもう一度コンタクトを取ってきたときはパーティ揃ってビビり散らかしたものだ。怖いというよりは、『さてどうしたものか』という難題が現れた時のような感覚ではあったが。
だがキャンバリーの目的は本当に俺たちと交流を持つことだけにあるらしく、時たま地下の研究室に帰ってきては俺たちと交流してまたどこかへと去っていくのだ。俺たちの反応がこんなふうになっていくのも自然な事だった。
「……まあ、ボクがキミたちにどうみられているかの話は置いておいて、だ。キミたちの身の回りで面白いことは何かあったかい?」
「おあいにく様、アンタが楽しめそうなことはないわよ……って、言いたいところなんだけどね」
咳ばらいを一つして、キャンバリーはすっかりお決まりになった質問を放つ。それに関しての答えも基本的には決まっていたが、今回ばかりは少し事情が違った。その返答に、キャンバリーの目がきらりと輝く。
「……ほう?ということは、何か変わったことがあったんだね」
「ああ。ちょうどさっきまで、私たちはそれについて話し合っていたところでな」
その言葉を聞いて、キャンバリーの目がさらにキラキラと輝く。それは、さっきまでのアリシアの表情にもよく似ていた。やっぱり、血は争えないんだな……。
「俺たちでこの街の冒険者懇親会の音頭を取ることになったんだよ。とりあえず割り振られる仕事の担当訳はできたんだけど、いまいちどういうふうになるのか分からなくてな……」
「…………へえ?あの行事、今でも続いてたんだね」
「…………え?」
興奮から落胆までいろいろな反応を予想していたが、そうなるのは予想外だった。まるで、懇親会という行事に深くかかわっているかのような口ぶりで――
「懐かしいな。まさかボクたちが始めた小さな催しが君たちの手に委ねられるとは、流石に想像できなかった事態だ」
「「「「………………えっ?」」」」
あまりに重大な事実をさらっとそのまま続けてみせたキャンバリーを前に、俺たちは揃って目を丸くした。
キャンバリーもこの先の物語ちょくちょく顔を出してくると思いますので、パーティと彼女がどんな形で絡んでいくのか楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!




