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第二十一話『武器選びのお供』

「……あなたが、武器斡旋所の……」


 俺はクレンさんの優雅な名乗りにあっけにとられ、口をあんぐりと開けながらそうつぶやくのがやっとだった。……ダンさんの時も驚きはあったが、クレンさんの場合は見た目のイメージに反しているからその驚きの質は似ているようで違うものだ。


 武器鍛冶というからには武器には精通しているはずで、その代表というのだからクレンさんはほとんどの武器に精通しているということになるわけで。


――なんだろう、クレンさんが近距離で使う武器を扱う姿が想像できねえ……特に大剣とか、担ぐだけで体の方が折れてしまいそうだ。


「そうよ。こいつがここの元締め。と言ってもそんな大した奴じゃないから、さん付けなんてかしこまったことしなくてもいいわよ」


 そんな俺をよそに、ネリンはクレンさんの肩をぺちぺちと叩きながらあっけらかんとした様子だ。クレンさんもそれを咎める様子はなく、少し目を細めてネリンの方を見つめている。


「敬称はいらないというところには同感ですが、『大した奴じゃない』はいろいろ誤解を招くかと。まあ、私も今はそれなりに名の付く役職でございますし」


「そう、じゃあ訂正してやるわよ。ヒロト、いい?こいつって『人間』は大した奴じゃないわよ。……なんでか知らないけど、変に大きな役職がくっついてるだけで」


「……なんでか分からないなら、お父様に武勇伝をうかがうのをお勧めいたしますよ」


「そういう返しを今求めてるわけじゃないんだけど⁉」


 抗議を受けてネリンが微妙にニュアンスを変えると、それにまたクレンさんが茶々を入れた。顔を真っ赤にして反論するネリンの顔からは、『またしてやられた』という悔し気な気配がひしひしと感じられる。……今まで俺が押し切られてきたからか、ネリンが手玉に取られる光景ってのはなかなか新鮮だな……


「……その言い方だと、クレンさんはもともと冒険者だったんですか?」


 もう少しその光景を見ていたい気もしたが、なにぶんネリンのプランには時間がない。俺が会話に割り込んでそう尋ねると、クレンさんはパッと目を輝かせた。


「ええ、ご明察で。現役時代は『オールラウンダー』と呼ばれて名をはせたものです。一線を退いてから時間は経っていますが、武具の取り回しについてはさび付いていないと自負していますよ」


「コイツ、器用さならほんとにずば抜けてたって話だからね……パパに何回も聞かされたわ」


「おや、覚えていらっしゃるんじゃないですか」


「『なんでか』って言ったのが最大級の皮肉ってわかんないのかしらねえ⁉」


 いかにもわざとらしく目を丸くして見せたクレンさんに、あきれ気味に肩を竦めていたネリンの顔がまた赤くなる。……これ、クレンさんも楽しんでやってるんだろうなあ……


「まあネリン様の言う通り、現役時代はバルレとよくパーティを組んでいたもので。口下手なあの方がいきなり結婚と言い出した時にはそりゃあ驚かされましたとも」


「そうなんですね……確かにあの感じだとびっくりするかも」


 いじり倒して満足したのか、クレンさんは俺の方に向き直ってそう続ける。昔を懐かしむように時折上を向くその視線は優しくて、その頃の思い出がどれほど大事かうかがい知れた。


「口下手なうえに照れ屋なもので、私としては毎度毎度ハラハラさせられていたものですよ。『結婚したい人ができた』なんて報告しておきながらアドバイスを少しも求めないから私たちもよく心配になっていたもので――」


「あーもう、うちのパパのなれそめ話はまた今度でいいから!……私たちがここに来た理由、分からないとは言わせないからね?」


 思い出話に熱が入り徐々に早口になっていくクレンさんを、ネリンが強引に制止する。首がいたくなるほどの身長差であろう所にある目をきっと見つめてネリンが問うと、クレンさんも神妙に頷き返す。そこに、ネリンをおちょくっていた時の緩さはない。ダンさんの時にも感じた、『仕事人』としてのクレンさんの姿がそこにはあった。


「……もちろん。バルレからネリン様の様子は逐一聞かされていましたからね。……今日こうして冒険者として私のもとを訪れてくれたこと、とても嬉しく思いますとも」


 いつくしむような目でネリンを見つめ、クレンさんはそう言って笑った。それにネリンも頷き返す。それはさっきの血縁のような関係性というよりは、師弟というのがしっくりくるのかもしれない。


「……ヒロト様、あなた様も冒険者としての一歩を踏み出したこと、誠に喜ばしく思います。……長年仲間候補がいないと嘆いたネリン様と一緒に訪れてくれたこと、とても安心いたしました」


 優しく告げられた俺への言葉に「……余計なお世話よ……」とネリンが小さな声でつぶやくが、その目じりは緩んでいる。なんだかんだ、この二人の間にある信頼関係は特別なものなのだろう。


「私も多忙な身でありますが、ほかならぬネリン様の門出です。バルレからも『娘を頼む』と言い含められていますのでね、手厚く対応させていただきますとも。……もちろん、ヒロト様もね」


 そう言って俺たち二人を見回すと、クレンさんはすっと身をひるがえす。ついて来いと、そう告げるかのように。――そしてその先の看板にあったのは、『武技試験室』の文字。


「私が、お二人の武具コンシェルジュとなりましょう。必ず、あなたたちにあった逸品を見つけ出してご覧に入れます」

クレン、書いていてもなかなかクセの強いキャラでした……ネリンとの掛け合い、楽しんでいただけたでしょうか。二人の会話劇は注意しないといくらでも続いてしまいそうなのが恐ろしいところです。いつか二人がやり取りするだけの番外編とか書いてみたいものですね、需要があるかは分かりませんが……次回、武器選びついにスタートです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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