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第二百十五話『舞台袖の緊張』

 確かに黒髪黒目であることはこの街においてある程度役に立ってくれた。八百屋のおばさんなんかはいつもおまけをつけてくれるし、何より初めて会う人に覚えてもらいやすいというのは慣れないん街になじんでいく上では本当に助かった。困ったことと言えば、時々年配の人たちに手を合わされたり「ご利益のため」とかいってペタペタ触られることくらいだったのだが――


「流石に幸運のシンボルにされるとは思ってなかったな……」


「いいじゃない、かっちり決まってるわよ?」


 さっき買った服に身を包みながらため息をつく俺に、ネリンがにやにやと笑いながら茶々を入れる。そんなネリンもしっかり選び抜いただけあって、黒をベースとしたワンピースがよく似合っていた。


「決まってる決まってないの問題じゃねえんだよな……。俺でも役に立てるってのは嬉しくはあるけど、それがこんな形だとは夢にも思わねえだろ?」


「まあ、そうかもしれないわね。でも大丈夫、そんなに難しい役回りでもないから」


「そうそう。『俺がいるから大丈夫です』って堂々としていればいいのさ。そうすれば、後のところはボク達でカバーできるからね」


「町一番の宿屋の一人娘と、冒険者の支えになっている店の看板娘。それだけで人々の信頼には足りるだろうが、私も微力ながら力添えさせてもらおう。だから、ヒロトは心配しなくていいさ」


 ネリンに続いて着替えを終えたアリシアとミズネも、口々にことらへのフォローを飛ばしてくれる。さっき服屋でさんざん見た姿ではあったが、引き締まった場で見るとまた印象が違って見えるから不思議な話だ。


 ミズネはキャリアウーマンのような感じで仕上がっており、高身長も相まってクールな印象がより際立っている。アリシアも乗り気でなかった割にはしっかり着こなしており、ミズネに比べると少しダボっとした着方がアリシアの性格を体現しているかのようだった。


「こう見ると、ネリンのチョイスは本当にセンスがあったんだな……」


「そうだな……場に映えるというか、しっかり合うものを選択してきているのがよくわかる」


 それでいてしっかり各人の個性も殺さずにいるのだから本当に大したものだ。世が世ならファッションデザイナーとして名をはせてたんじゃねえか……?


「皆様、準備はおすみになったようですね。服装もしっかりしているようで安心しました」


 俺たちが互いの服装をまじまじと観察していると、少し離れたところからクレンさんがとことこと歩み寄って来る。俺たちの服装に満足そうな笑みを浮かべると、それに真っ先に反応したのは当然ネリンだった。


「あたしのコーディネートだもん、間違いはないわよ。そのあたりで失敗することは無いから任せときなさい」


「それは失敬、貴女のコーディネートは筋金入りでしたね」


 えっへんという声が聞こえてきそうなくらいに胸を張っているネリンを、クレンさんがにこにこと柔らかい笑顔を浮かべて見つめている。血が繋がってないとはいえ、やっぱり親戚の叔父さんと姪ッて関係が一番しっくりくるんだよな……。


「そろそろ顔合わせの時間ですが、皆様緊張していないようで安心しました。こういう行事は慣れていないでしょうに、やはり私の眼は間違っていなかったようです」


「俺は割と緊張してますけどね……」


 ネリンやアリシアほど多くしゃべることは無いにせよ、俺に課せられた役割もまあまあ重要だ。俺がポカをすれば、信頼はともかく安心感はないまま企画が始まってしまうことになるだろう。それは避けたいし、どうにか頑張らないと――


「……ヒロト様。緊張してるというのは、それだけ真剣に物事を考えられているということです。他の方の緊張感が薄めなのもありますが、どうか自分を劣っているとは思わないように。それこそが一番失敗を招いてしまいますからね」


 そんな俺の考えを、クレンさんの言葉がやんわりとフォローしてくれる。本人の柔らかい声質もあって、がちがちに凝り固まっていた心が少しはましになってくる気がした。


「いいこと言うじゃない。アンタが仮に失敗してもあたしたちがフォローするから、何も気にせずに堂々としてれば何とかなるわよ」


「こういうのはいかに堂々としているか、だからね。ボクたちはいつも通りやるだけだから、それに集中しておけば少しは楽になるだろうさ」


「これはパーティ四人で取り組む問題だからな。誰が悪いとかはないものなんだ、あまり気負い過ぎなくていいんだぞ」


 口々にかけられる励ましの言葉が、俺の背中をふっと押してくれているような気がする。それを思うと、何とか堂々としていられるような気がした。


「……と、そろそろ時間ですね。私が先導しますので、ゆっくりついてきてください」


 ふと外に気を配れば、外が何やらどよめいているのが聞こえる。俺たちが着替えている裏で、顔合わせ回は既に俺たちの出番直前まで話題が進んでいるのだろう。ある程度ボルテージが上がった状態での登場、当然ハードルもその分上がっているだろうが……


「……さ、行くわよ」


 先陣を切るネリンの後姿を見ていると、その緊張もどうにかなる気がしてくる。その事実に、俺は知らず知らずのうちに笑みをこぼしていた。


「……さあ、今年の懇親会を担当するパーティにご登場いただきましょう!」


 その言葉とともに、歩み出る俺たちを万雷の歓声が出迎えた。

次回、緊張の顔合わせ回当日です!果たして四人は無事つかみを乗り切ることが出来るのか!次回以降もどんどん盛り上げていきますので、どうぞお楽しみに!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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