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第二百十四話『期待のキーパーソン』

「……ああ、よくぞいらっしゃいました。顔合わせの準備は着々と進んでいますよ」


 ギルドに足を踏みいれた俺たちを目ざとく見つけて、クレンさんがこちらに歩み寄って来る。普段から結構かっちりとした服装をしているクレンさんだが、今回はそこにアクセサリーまで加わっているのが印象的だった。


「ええ、遅れずつけてよかったわ。他の人たちは?」


「そちらの方も着々とそろってきていますね。時間通りに始めることが出来そうで何よりです」


 ふと周りを見渡せば、普段はのんびりのほほんとしているギルド併設のカフェテリアがずいぶんとあわただしい。やはり懇親会というのは特別なのか、その顔合わせにも並々ならぬ気合が入っているようだった。


「それなら着替えはぎりぎりまで待ってよさそうね。先にある程度の話し合いだけでも済ませちゃいましょ」


 そんな異様な状況に俺は内心緊張しているわけだが、ネリンはというとそんな様子は皆無で話を進めていく。懇親会に触れてきた身からすると慣れた光景なのかもしれないが、理由はどうあれ今はその落ち着きがありがたかった。


「そうですね。……と言っても、今日必要なのは自己紹介ぐらいですが」


「その自己紹介が大事なのよ。あたしたちはかなり曲者ぞろいだから」


「ミズネがエルフなのを言っていいのかどうか、幽霊屋敷の話をどこまでしてもいいのか、そもそもこのパーティがそう言った立場に立つに至った経緯については話していいのかとかね。とかく話題には尽きないパーティというのは自覚しているけど、だからこそちゃんと縛りは入れてほしいのさ」


 ネリンの指摘を援護するように、アリシアも肩を竦めながらそう続ける。改めてそう言われてみると、俺の事情も含めてこのパーティのメンツって一癖も二癖もあるやつらばかりなんだな……


「誇張しすぎなければ特に問題はないですね。ミズネ様がエルフであるというのは着々と知られてきている事実でもありますし、そこに関してはむしろ押し出していってもいいかと」


「……バレていたのか……?」


 クレンさんの言葉に、ミズネはとっさに自分の耳に触れる。本人に隠す気があまりないってのもそうだが、一度ほかの冒険者の前で魔法を使う機会があったってのも大きいだろうな……状況が状況だったから手加減もできなかっただろうし。


「なるほどね。形はどうあれ、信頼と期待を抱いてくれればオッケーって認識でいい?」


「察しが速くて助かります。つまりはそういうことですよ」


 そんなミズネの落胆をとりあえずスルーしたまま、ネリンはすすっと話を前に進めていく。それにクレンさんも感心しながら頷くと、すっと一本人差し指を立てた。


「今回の懇親会、相当不透明な状況から始まっています。だからこそ、必要なのは堂々とした姿勢です。『自分たちが引っ張るんだ』という強い心意気があれば自然と人も集まって来るでしょうね」


「任せて、堂々とするのは得意分野だから」


「堂々としているかはともかく、マイペースには自信がある。大事なところはネリンに任せつつ、ボクはボクなりに頑張ることにするよ」


「そうだな。大事なのは不安を伝染させないことだ」


 クレンさんのアドバイスに、三人が口々に頷く。俺はというとそういうことに自信がある方ではないが、この三人と一緒ならばやれそうな気がしてくるから不思議な話だ。


「なんにしたってつかみが一番大事っていうもんな。俺も足引っ張らないようにしねえと」


「そうね。……でも、アンタはそれじゃ足りないわよ?」


 俺も俺なりに決意を固めようとしたところに、ニヤニヤと笑みを浮かべたネリンがそう言葉を挟んでくる。その目つきは、何か良からぬこと――主に俺が何かを被る形の――を考えているときのそれにとてもよく似ていた。


「……ネリン、何考えてる?」


「いや、大したことじゃないわよ?ただアンタは、期待を抱かせるには一番大事な役回りだなーって思っていただけだから」


「…………俺が……?」


 どう見ても俺が一番失敗しうる役回りだろう。そういう意味では俺が成功のカギを握っていると言えなくもないが、その程度でネリンがこんな表情を浮かべるとも思えない。その真意を測りかねて、俺が首をひねっていると――


「そうですね。シンボルとしての適性は、ヒロト様が一番高いかもしれません」


 クレンさんまでもがネリンの意見に賛同し、話はますます訳が分からなくなる。俺の首が横に九十度傾こうかというところを目前にして、ネリンがずいっとこちらに近づいてきた。


「ヒロト、覚えてる?この街に現れる黒髪黒目の少年は、幸福をもたらす存在とされる、って」


「…………ネリン、嘘だよな?」


 そこまで言われれば、俺にも流石に言いたいことは分かる、そしてそうなれば、一番のキーパーソンは当然俺なわけで――


「信頼はあたしたちに任せて。…………だから頑張って皆を期待させてね、黒髪黒目の少年くん?」


――さっきのネリンの表情にも、完璧な説明がつくのである。

最序盤にちらっと出した設定をようやくストーリーに絡む形で拾うことが出来て個人的には嬉しいです!言い伝えに巻き込まれる形になったヒロトの頑張りも近々書かれることになると思いますので、楽しみにしながらこれからも読んでいただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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