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第二百十三話『ギルドを前にして』

「あー、楽しかった! こんなにたくさんコーディネートしたのは久しぶりだし、あたしも思わず張り切っちゃったわ!」


「ああ、張り切ってたな……やりすぎなくらい」


 服屋に入ってから約一時間半。その間ネリンのコーディネートはほぼ休むことなく続き、ネリンは心底楽しそうな表情を浮かべて服屋を後にしていた。その後ろを歩く俺たちはと言えば、まるで一つ大きな冒険を乗り越えた後かのような重い足取りでとぼとぼとその背中を追っている。


「こうなるから乗り気じゃなかったんだよなあ……楽しそうなネリンが見れるのは良いとしても、ボクまでコーディネートの対象になるのはまた別の気だるさがあって好きじゃないんだ」


「……こうなるって分かってたなら、事前に何かしら言ってくれるとありがたかったなあ……」


 たとえこうなることは避けられなかったとしても、多少なりとも心構えができていればもう少し楽だっただろう。そういう意味ではアリシアも中々やらかしているわけだが、大活躍を見せたネリンの前ではみんな等しく巻き込まれた側に過ぎなかった。


 というか俺なんかはまだましな方で、二人は俺の何倍もの服を着させられていたからな。見てるだけでも目まぐるしく手疲れるくらいだったのだから、二人の疲労はとんでもないものだろう。当然、俺たちのアイテムボックスにはネリンが見繕った服がフルセットで格納されている。


「まあ、本来の目的が達成されたことは喜ぶべきだろう。……それにたどり着くまでに、まさかここまで体力を使う羽目になるとは思っていなかったが」


「それくらいで割り切るのがちょうどいいだろうね……。それに、似合いの服が見つかったのは確かだろうし」


「そうだな……あんだけノリノリでやってるだけはある」


 終始ネリンに振り回される形ではあったが、最終的な服装は二人ともとてもよく似合っていた。派手過ぎず、しかしきっちりと二人の雰囲気を引き立てる服を選んで見せたのはお見事としか言いようがないだろう。


「……ま、切り替えてしっかりやるだけだな」


「そうだな。前準備として申し分ないものが手に入ったのは確かだ」


「ガラじゃない服なのはあるけれどね。……それでも、ボクなりにやってみるよ」


 三人で顔を見合わせ、とりあえず気持ちを顔合わせ回へと向ける。そんな俺たちの二歩ほど先を歩いていたネリンがくるりと振り返り、不思議そうな目でこちらを見てきた。


「……三人とも、さっきから何をこそこそ話してるの?」


「あいや、なんでも。いい服見つかってよかったなって話だよ」


「そうだな。時間をかけた甲斐はあった。……いや、それ以上の結果ともいえるだろうな」


「でしょでしょ? あたし、ファッションセンスは昔からあるって言われてたんだから」


 嘘かそうじゃないかぎりぎりのラインの俺たちの弁明だったが、どうやら上機嫌なネリンには問題なく通じたようだ。時間がかかったことはともかく、ネリンのセンスが良かったことは確かだしな。


「後ろの予定が詰まってなくちゃもう少し見たかったくらいだけど……ま、それはまたのお楽しみね。今度は私服も見繕わなきゃいけないだろうし」


「「えっ」」


 ネリンの爆弾発言に、安堵しかけていた俺とミズネは弾かれたように顔を上げた。


「……いや、私服に関しては俺別に困ってねえし……」


「んなこと言っても、あたしアンタの着てる服二着しか見たことないんだけど」


 どうにか遠慮しようとする俺に、ネリンの鋭い指摘が飛んでくる。……そう、実を言えば俺はいまだに服を二着で着まわしているのだ。なんもかんもギルド装備が普段使いできるようなデザインなのが悪かった。


「私も遠慮しておこう。ネリンに時間を使わせるのは惜しいからな」


「遠慮なんていいわよ、あたしも服選ぶの楽しいし。せっかくミズネは美人さんなんだから、しっかりかわいい服も持っとかなくちゃ勿体ないわよ」


 俺に続いてミズネもどうにかその提案を辞退しようとするも、そんな控えめな断り文句が通用するはずもない。当然のごとく俺たちは撃沈し、アリシアへと助けを求める視線を送った。それを受け取ったアリシアは、少し考え込むように目を伏せると――


「……まあ、そういうのもありなんじゃないか? ボクは過去に見繕ってもらったものがあるから別にいいけど」


「アンタは確かにそうかもね。でも、せっかく見繕うならアンタも意見頂戴よ?」


「まあ、それくらいはね」


 見るも鮮やかな裏切りによって、アリシアは俺たちをコーディネートする側に立って見せた。残された俺たちを見つめるその瞳は、楽しそうな光に満ち溢れていた。


「それじゃあ決まりね。懇親会が終わってからにはなると思うけど、どっかで予定会わせましょ」


「…………ああ、そうだな……」


 ここまで鮮やかに意見がまとまってしまえば、とても俺たちに拒否権はない。もう目の前にギルドが見えてきていることがせめてもの救いだった。……もっとも、そっちの方が今日の本題なわけだが。


「……さて、顔合わせまであと少しね。……こういうのは最初が大事だし、気張っていくわよ」


「……そう、だな」


 真剣な表情に切り替わったネリンを見て、俺も気持ちを強引に入れ替える。……見慣れているはずのギルドが、今日はなぜかいつもと違うように見えた。

ということで、ついに懇親会に近づいてきています!果たして無事に顔合わせを終えることはできるのか、そして服選びは功を奏するのか!楽しみにしていただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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