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第二百十話『幕開けは号令とともに』

「…………え、知らなかったのかい?」


 ネリンの説明を受けてから二時間ほど後。すっかり満足した様子で起きてきたアリシアに事情を説明すると、返ってきたのがこの反応である。呆れているというより、本当に驚いているというほうがしっくりくるような感じだった。


「思った以上に安請け合いだったからもしやと思ってはいたが……まさか本当に何も知らずに受けていたとはね。好奇心が旺盛というか、なんというか」


「少なくとも好奇心はお前に劣るよ……」


 まさかアリシアに好奇心で感心されることになるとは思わなかった。もちろん俺たちが頼まれた仕事に興味があったのも確かだが、こんだけ重大な責務を持っていると知っていたら俺だってもう少しクレンさんに譲歩を促すような形にしていたはずだ。


「好奇心は猫を殺す、か……まさかこの言葉がここにきて身に染みるとは」


 耳が痛い、とミズネは苦笑する。その隣では、ネリンがせっせとミズネの体に服を押し当てては置き、また別の服を押し当てて首をひねっていた。言うまでもなく、ネリンプロデュースによるミズネのおしゃれ化計画真っ最中である。


「私は冒険着でいいと言っているのだがな……アリシアからも何か言ってくれないか?」


 気を許した仲間だとはいえ流石に気になるのか、アリシアに助けを求めるような感じでミズネは微笑む。それに対して、アリシアは軽く首を横に振ると――


「そのまま続けるといいよ、ネリン。見た目も大事な要素の一つだからね」


「そうよね。珍しくアンタと意見があったわ」


 そんなやり取りが交わされて、ネリンはまたミズネに会う服を見繕うのに夢中になり始める。普段の二人からは考え難い程の連係プレーを前にしては、ミズネもとうとうネリンに身を任せる以外の選択肢はなかった。


「二人が声をそろえるなんて、そんなに大事な行事なんだな……気合を入れて望まねば」


「そりゃそうだとも。この街で商売に関わる人間には避けて通れない行事でもあるわけだし。商人は皆どうやって固定客を作ってやろうかを考えてるものだよ」


「ということは、冒険者だけがよくても足りないってことか……難しい話だな」


 目指すはウィンウィンの関係―—というか、そういう形でもなければまずゴーサインを出してもらうことすら難しいだろう。広告塔たる俺らは、きっとそれのすり合わせにも駆り出されることだろう。……思った以上に、この街の中を駆けずり回る事にはなりそうだ。


「そんなわけで、今日は顔合わせの前に服屋によって皆の衣装を見繕おうと思ってるの。当然、アリシアも同伴だからね」


「服屋独特の香りはあまり得意ではないのだけどね。まあ、ネリンの決定ならばそれが一番だろう」


「……自分で言っといてなんだけど、かなり素直なのね。もう少し駄々をこねられるとは思ってたんだけど」


 拍子抜けしたと言いたげな表情で、ネリンはアリシアを見つめている。そう言われてみれば確かに珍しいその光景に俺が驚いていると、アリシアは眠たげに首を横に振った。


「そんなことは無いさ。商人側と冒険者側、両方の景色を身近で見てきた君よりこの祭りに相応しいものも詳しいものもいないだろう?それに抗ったところで、根拠なんて何もないんだからね。


「成程ね……確かに冒険者のパパと宿の運営をするママとに挟まれてるし、一番どっちもの視線で見れてるのは確かかも」


「そうだろう?……ほら、指示をくれ。今回はボクたちが主役だ、楽しんでいこうじゃないか」


「そうね。……とりあえず、宣言だけ景気づけにしちゃいましょうか」


「お、それ俺も載った。一歩目が一番大事っていうからな」


「そういうこと。……それじゃ、皆行くわよ」


 そう言って、ネリンは咳ばらいを一つ。どことなく緊張したような面持ちで瞬きを繰り返して、俺たちをぐるりと見まわすと――


「……あたしたちに回ってきた役割は重大だけど、あたしたちにできないことなんてそんなにないわ。いろんなことを、これまでだって乗り越えてきたんだから」


 力強いその言葉に、俺たちは大きな頷きを一つ。それを見て満足げに笑うと、ネリンはびしっと指を立てて高らかに宣言する。


「あたしたちは、去年までもを超えるような最高の懇親会を作る。まずはその景気づけとして、身だしなみからばっちり決めましょ!」


――俺たちパーティの全く新しいジャンルへの挑戦が今、ネリンの号令とともに幕を開けた。

というわけで、次回から懇親会プロジェクト本格始動です!まずは衣装選びと意気込んだヒロトたちを待つのはいったい何なのか、波乱必至のこれからを楽しみにしていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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