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第二百九話『上がり続けるハードル』

 俺が知ってる懇親会と言えば、ゆるーいノリで出し物とか何かして楽しむためのものだ。だからこそクレンさんは俺たちに広告塔―—言ってしまえば賑やかしとしての協力を申し出てきたのだと思ったのだが――


「思った以上にガチの広告塔じゃねえか……‼」


 道理でアリシアとネリンは最初断るような姿勢を見せたわけだ。ネリンはともかく、アリシアは『こんな機会に恵まれるとは幸運だよ』なんて言いながら嬉々として引き受けそうなものなのに、それに対して渋るような姿勢を見せていた。それだけで、少しは違和感を持っておくべきだったのだ。


「それはクレンさんもあんなに深刻な表情をするわけだな……懇親会がうまくいかないのは、文字通り冒険者にとっての死活問題ということになるわけだし」


「そういうこと。だから武器鍛冶連合まで動員されてるってわけよ。武器鍛冶が栄えてるのも冒険者がにぎわってこそだし」


 今更気づいたの?と言いたげな視線が俺の全身にひしひしと突き刺さる。チクショウ、さっきまでと違ってネリンの行動が全部合理的に見えるな!そりゃあんなに服にも気を遣うしこんなに早起きしてくるわけだ!


「ちなみに言っとくと、この街の懇親会は観光客も伴うある種の名物でもあるから。それの後を継ぐ以上、あたしたちも半端な働きはできないからね?」


「ここまで来てまだハードル上げてくるのかよっ⁉」


 なんだろう、危険性はないはずなのに今までのどの冒険よりも緊張してきた!というか、それ最早懇親会っていう枠組み飛び越えてるよな⁉


「懇親会に観光客が来るとか、それはもはや祭りなんだよ……」


 年に二回の行事でしか会わない人とどう懇親しろというのだろう。少なくとも、俺が考えていた懇親会のイメージと実際のそれは全く以て食い違っているのは明らかだった。


「そんなわけで、あたしも眠い目をこすって早起きしてるってわけよ。……ま、アリシアはのんきに寝てるわけだけど」


「その胆力が今は羨ましいよ……」


 呆れたように肩を竦めて、ネリンはまた違う服を手に取りだした。さっきから数種類の服に絞り込めて入るようだったが、どうも決め手には欠けるらしくううむと首をひねっている。


「どうしたもんかしらね……見知った顔はいるだろうし、いつもと雰囲気が違いすぎるってわけではないと思うけど。パパとママも協力してくれるし」


「ほんとにオールスターって感じなのな……」


 宿屋からしたら書き入れ時だろうし、盛り上げるためならば協力も惜しまない体制なのはまあ納得できる話だ。明確に信頼できる人の協力がほぼ確約されているというのは、俺たちにとってもありがたい話だった。


「……しかし、そんなに規模の大きい行事なのに音頭を取るパーティが現れないというのも不思議な話だな。それほどのものとなれば、自分たちの名前を挙げる機会にもなるだろうに」


「それに関してはあたしも同感よ。クレンに言わせればあたしたちが適任だろうけど、それ以外にもできそうな人はいないでもないし。……ま、前年までのことを考えると荷が重いと思ったのかもね」


「荷が重いって思うほどの豪華な祭りって、いったいどんなのだよ……」


 それくらい出来がいいものだったのは間違いないし、とネリンは小さく頷く。ネリンをして素直にそう言わせるほどの出来というのが気になって、俺は思わず図鑑を開いた。


 いくらかページをめくると、祭りの様子を描いた絵はすぐに見つかった。これは二年前のものらしいが、果たしてどんなことが行われているのやら――


「…………って、え?」


 興味本位で見たそのイラストに、俺は思わず目を疑う。こんなのイラストを描いた人の妄想なんじゃないかと疑いたくなるような光景が、図鑑にでかでかと描きだされていた。


「どれどれ、私にも見せてくれ…………っと、これは……」


 そんな俺を見て横から図鑑をのぞき込んだミズネも、同じような声を上げて固まる。だが、それも仕方ない話だった。……そこにあったのは、懇親会なんて言葉が偽りにしか思えないような光景だったのだから。


 街道にずらっと並ぶ出店はもちろんのこと、その奥に見えるギルドはきらびやかな飾り付けが成されている。往来にはあふれんばかりの人がいて、それぞれ思い思いの形で懇親会を全力で満喫しているようだった。


「………俺ら、これを基準にしなくちゃいけないのか……?」


「これ?……ああ、二年前のね。その時は確か準備期間が短い中でだったから、装飾にしか力が入れられなかったらしいわよ」


「……いやちょっと待て、私はこれが一番いいときのものだと思っていたのだが?」


「んなことないわよ。これが最低ライン。これは越えなきゃ、街としての規模は多かれ少なかれ小さくなっちゃうわね」


「「…………………」」


 ネリンが無造作に叩きつけた事実に、俺たちはもはや言葉を失って固まるしかない。俺たちが引き受けた仕事は、想像以上に難易度の高い代物らしかった。


「そんなわけで、最初の顔合わせから油断はできないの。…………服屋にみんなで行く理由、分かってくれたでしょ?」


 一着の服を手にしながら、ネリンは俺たちを見つめてそう問いかける。……それに対して俺たち二人は、壊れた人形のように首をこくこくと縦に振る事しかできなかった。

現状を理解したヒロトたちは、ある意味史上最大の難題にどう立ち向かっていくのか!四人の悪戦苦闘を楽しみにしていただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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