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第二百六話『夜の来訪者』

「ーー久しぶりね、クレン。代表としてのお仕事は順調?」


「ええ、おかげさまで。……貴方達も、見る限りお元気そうで何よりだ」


 軽く手を挙げながら挨拶するネリンに、クレンさんが丁寧に頭を下げる。そのスーツ姿から見るに、どうやらプライベートの事情で来たわけではなさそうだった。


「アリシアさんも、すっかり馴染まれたようで何よりです。おすすめした武器はいかがでしたか?」


「ああ、想像以上に手に馴染むよ。まるでボクの手と同化しているように振るえるからね」


「アリシアのショートダガー、ほんとに手慣れた動きするもんな……まさに適正って感じだ」


 アリシアが冒険者デビューするにあたって、俺たちはまたもやクレンさんのお世話になっている。そんな事情もあって、俺たちパーティとクレンさんの関係はかなり深いものとなっていた。


「それは良かった。元から冒険者を志していたかと勘違いするような身のこなしでしたので、きっと合うと思ったんですよ」


「それは光栄だね。ネリンのトレーニングに巻き込まれた甲斐もあったというものだよ」


「最後の方はアンタもノリノリだったくせに……」


 茶化して見せるアリシアにネリンがじとーっとした視線を向けているが、そのエピソードが巡り巡ってそれが今こうして活きているのだから不思議なものだ。


 口を開けば言い争いが絶えない腐れ縁コンビだが、その連携は見事という他ない。まるでお互いに次の動きがわかっているかのような連携は、俺たちのみならず試験官であるクレンさんすらも唸らせる出来だった。


「口喧嘩しながら足並みは何一つ狂わないんだもんなぁ……神業としか言いようがねぇよ」


「間違いありませんね。あれはもはや芸術と言ってもいい領域でした」


「はいはい、おだてるのはそこまででいいから。ちょうど料理作ってたとこだし、話は食べながら聞くわ。多めに作ってあるから、クレンも食べてきなさい」


 俺たちとしては本気の賞賛なのだが、それを冗談と受け取ったネリンはくるりとリビングの方へ踵を返す。有無を言わせぬその態度は、クレンさんが遠慮する隙すら与えなかった。


「……それでは、お言葉に甘えるとしましょうか。幽霊屋敷に出たという巨大ネズミの話も気になりますしね」


「その報告はまた今度ね。少なくとも、食事中にする話じゃないから」


「そうだねぇ。せっかくネリンが趣向を凝らして作ったスープなんだ、できる限り美味しくいただこうじゃないか」


 思い出したように出された話題を、ネリンとアリシアがうまい感じに口を回してあしらう。少し残念そうにしているクレンさんには悪いが、その話を俺たちがすることは未来永劫なさそうだった。


 この家のイメージ払拭の一環として、巨大ネズミの話は冒険者ギルドにも話を通してある。もっとも、そっちには『撃退した』ということにしてあるのだが。根絶したのに何も素材になりそうなものが残っていないってのもおかしな話になってしまうからな。


 そんなわけで、どうもクレンさんは巨大ネズミの噂に興味津々らしい。大きな組織の長になってもなお、冒険者としての好奇心は健在のようだった。どこかで俺たちが話したような魔物が出てくることを願うばかりだ。


「ほら、これアンタの分。お替りとかも考えて多めに作ってあるから、遠慮なんてしなくていいわよ」


 リビングに到着するなり、ネリンが手早く皿にスープを取り分ける。念のためということで勝っておいた客人用の皿がまさかこんなに早く出番を迎えることになるとは思わなかったが、備えあれば憂いなし、ってやつだな。


「さて、こんな夜に来たということは、それなりの事情があると思うのだが――うん、今日も美味い」


「それに、君はまだ仕事中、あるいは仕事帰りに直行してきたと見える。それほどの話題であるということは確かだろうね――ああ、流石の出来だよ」


「これまでこんなことなかったもんなあ……うっめ、これ何使ってんだ?」


「そうですね、それなりに複雑な……というより、手のかかる事業がありまして……確かに、これは流石宿屋の娘と言って問題ないですね」


「話題を進めながらも、食べる手を止めないのだけは褒めてあげるわ……」


 食べながら話そうとは言ったけど、とネリンは複雑そうな表情で話を進める俺たちを見つめている。真面目な話なのは間違いないのだが、それはそれとしてネリンの飯がうまいからこれも仕方のない話なのだ。


「手のかかる……というと、冒険にまつわる話ではなさそうだな。そもそも、それならば私たちに持ってくる案件でもないだろう」


「ミズネがいるとはいえ、まだまだ駆け出しのパーティだからねえ。危険はないが時間がかかる、そういう意味でのめんどくさいに該当しそうだ。……クレンさんには恩もあるし、ボクとしては助力するのもやぶさかではないのだが」


「そう言っていただけると助かります。私としても、誰に頼めばいいのか分からないというのが現状でして。……でも、貴方たちならばいい形にしてくれるかもしれません」


 そう言うと、クレンさんは一息でスープを飲み干した。そして、皿を丁寧にテーブルに戻し、座りながら深々と頭を下げると――


「―—近々、年に二度の冒険者懇親会がありまして。それの運営に、力を貸していただきたいのです」

 

クレンたちの提案に、四人はどう対応していくのか!今までよりもスローライフ感が増してくると思いますので、そう言ったところも楽しみにしながら次回をお待ちいただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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