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第二百五話『新しい日常』

「……これは、かなり難しい問題だね」


「そうだな。こればかりは、お前の決断にゆだねるほかないだろう」


「そうだぞ。伸るか反るか、肝心なところは自分の手でやらないと後悔するぞ」


「…………そうよね。あたしも、もう心は決めたわ」


 屋敷の一件が解決してから数週間。なんだかんだ言いながらもパーティとして始動した俺たち四人は、今――


「…………だあああああっ、アンタたち騙したわね⁉」


 ……全力で、遊び倒していた。


「そりゃ騙すだろう、そういうゲームなんだから。まさか騙されないとでも思っていたのかい?」


「いや、そうだろうとは思ってたけどね⁉どーしても一ゲーム前のアンタの立ち回りがちらついて……‼」


 机から身を乗り出すネリンに対して、アリシアは椅子にもたれかかってひらひらと手を振って見せる。歯を食いしばっているネリンだけ見ていると険悪な雰囲気一歩手前にも思えるが、ある意味ではこれも俺たちの日常の一部だった。


「あんた駆け引き強すぎるのよ……あたしいつも手玉に取られてる気がするわ」


「このゲームは不思議とボクになじむようでねえ。これなら世界も目指せそうだ」


 自分の価値を手繰り寄せたカードたちを手でもてあそびながら、アリシアは満足そうな笑みを浮かべている。俺たちも対戦してるからわかるけど、アイツ本当にブラフやらでの揺さぶりがうまいんだよな……何とか予想しようとしているが、何時もその一枚上手を知っている感じだ。


「今回も届かなかったか……このゲーム、やはりアリシアの独壇場だな」


「なんでもできるってネリンの評価、間違ってねえのがすげえところだよな……」


 俺たちのパーティに加わるにあたって、アリシアはやすやすと冒険者試験をクリアして見せた。軽い身のこなしと人並み以上の魔力量は、やはり生まれつきのセンスとキャンバリーの血筋によるものだろう。


「エルフの血が混ざってると思えばまあ納得はできるけど……それにしたって規格外よねえ」


「そんなことは無いさ。なんにでも少しだけ適性があるだけで、そこから突き詰めるには向かない性質だからね」


「回りくどいこと言わないで、飽き性って言えばいいんじゃないの……?」


「飽き性ではないんだな、これが。現に君たちとの生活に飽きる気配はないし」


 ネリンの言葉はのらりくらりと躱され、その片手間にフェアリーカードが片付けられていく。ふわふわとカードがボックスに戻っていく奇妙な光景は、この短い共同生活の中でもはや名物と化していた。


「さて、それじゃああたしはご飯作るわね。今日はスープとパンと……肉はいる?」


「ああ、よろしく。軽くさっと焼いてくれるだけでいいから」


「そうだな、シンプルなのが一番いい。あまり無理をさせるのもよくないからね」


「もともと食にはこだわらない性質だが、ネリンのご飯は口に合う。なんでも歓迎するよ」


 気を取り直してキッチンへと向かうネリンの背中に、俺たちは期待を多分に込めた歓声を飛ばす。それに「はいはい」と軽く返すと、すたすたと鼻歌を歌いながら軽い足取りで奥へと消えていった。


「家事奉行ネリンここにあり、だな。アイツなしじゃこの家回んねえよ」


「それは本当にそうだな。恥ずかしい話、生活力には自信がない……できないわけではないんだがな?」


 ミズネはそう言っているものの、ミズネの生活力の低さはちょっと度を越しているところがある。あの時キッチンで見せた天然っぷりは言わずもがな、まだまだ出てないだけで弱点はありそうなんだよな……。


「その点に関してはボクもミズネと同類だね。できるにはできるんだが、自分よりもやれる人がいるのにでしゃばりに行く必要もないだろう?」


「お前とミズネを同類にするには、本人の腕前に途轍もない差があるんだけどな……」


 悲しいかな、ミズネの生活力のなさは想像を絶している。最早どうやって一人暮らししてるんだと疑いたくなるレベルだが、そこをすべてフォローしきっているのがネリンのとんでもないところだった。


 余談だが、俺とアリシアはネリンを手伝いにちょこちょこキッチンには立っている。調理工程は大体ネリンの役割だが、下準備くらいだったら俺たちにもできるからな。そこは持ちつ持たれつ、だ。


 スープの煮込まれる音を聞きながら、ゆっくりと時間が流れていく。ひょんなことから出会った仲間たちと過ごすこの時間は、間違いなく団らんと呼んでいいものだった。


「……皆、お待たせ。ご飯できたわよ」


「……おお、これは」


「相変わらずのいい出来だな……。レパートリーが豊富なのほんとすげえよ」


 運ばれてきた料理を我先にと覗き込みながら、俺たちは感嘆の声を上げた。今日のスープはキノコらしきものと卵がベースになっていて、シンプルだがおいしそうな香りが俺たちのテンションをこれでもかと駆り立てている。


 共同生活が始まってからしばらく経つが、ネリンのレパートリーはまだまだ底が見えない。長年の積み重ねの成果は、俺たちの生活レベルをはるか高くに引き上げていた。


「そんなにがっつかないの、かなり多めに作ってあるから。ほら、いったん下がる下がる――」


 既に我慢ならなくなりつつある俺たちを押しのけるようにしながら、ネリンが鍋をテーブルに置く。そして、お玉を手にスープを取り分けようとした、その時だった。


「…………夜分にすみません、皆さん居らっしゃいますか?」


――インターフォンの音とともに、聞きなれた声が玄関の方から聞こえてきたのは。

ということで、次回から新展開に突入していきます!果たして四人を待ち受けるものは何か、楽しみにお待ちいただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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