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第二百二話『結果報告』

「巨大ネズミの群れ…………?」


「ああ。世代すら超えて長年繁殖してきたらしい。どこで学んだんだか人間の追い払い方も学んでいて、ネズミにしてはかなりてこずる羽目になったよ」


 ミズネの報告に、バゼルさんは驚いたような表情を見せる。そんな噂を聞いたことがなかったからなのか、とても戸惑っているように俺たちの目には映った。


 ……そりゃそうだろう。もちろん、この報告に関しては嘘なのだから。


「かなり苦戦したよな……こちらの存在に気づくや否や、ゲリラ的に突っ込んでくる戦術に切り替えてくるんだから。思い切って勝負に出なきゃ延々といたちごっこだったぜ」


 大げさに肩を竦めて、ミズネの感想に同意する。嘘をつくのは心苦しいが、事情が事情だから仕方のない話だった。それもアドリブでの嘘だから、現実感が全くと言っていいほどないのはどうか許してほしい。


 当然、俺たちだって何の罪悪感もなく嘘をつくことを決めたわけじゃない。あとから話して分かったことなのだが、俺たちが懸念していたのはほぼ同じことだったらしい。


「追い払うだけにするっていう手段も考えたんだけど、どっかにまた居つかれるのも面倒ごとになりそうだから時間かけて全部駆除しちゃった。その素材もすでに売っちゃったから、もう何も残ってないわよ」


 ネリンもため息をついて俺たちの嘘に加担する――が、その一部は俺たちの本心だ。キャンバリー・エルセリアを野放しにしてはいけないというのが、アリシアを含めた俺たち四人の結論だった。


 口止め料を受け取れば、キャンバリーは大人しく屋敷の地下を本拠地として実験を続けるだろう。しかし、俺たちがそこで受け取るのを拒み、力づくでも追い出したとしたら? あの天才、もとい研究バカがおとなしく研究を止めることなど想像もつかなかった。


 それならば、多少の物音はすれど大人しく研究室を使ってもらった方がいろいろといいだろう。どうせあの研究室のことはキャンバリーしか分からないんだからな。


 署名だの研究施設への出入りだのというメリットは二の次として、キャンバリーというエルフを野放しにすることのデメリットはとんでもなく大きい。それを考えると、使う予定もないとはいえ署名を受け取らざるを得なかったというのが俺たちの内情だった。


 そんなわけで、俺たちは思いっきり嘘をついているというわけだ。アリシアがいると事態が色々ややこしくなりかねないので、不動産店の近くで待機してもらっている。


「ネズミが住み着くような環境ではなかったと思っていたのですが……周囲は意外と住みやすい環境になっていたんですね」


「それどころか、屋敷の魔力を取り込んで変異していた節すらあったな。ネズミにしては明らかにおかしかったから、一大事になる前に抑えることが出来て何よりだった」


 驚きを隠しきれないバゼルさんに、両手を広げて見せながらミズネはすらすらと続ける。しっかりとした基礎知識があるからなのか、嘘の信憑性が俺たちの比ではなかった。というか、あそこまで根も葉もないことをよどみなく言えるのもある意味才能だよな……


「屋敷の汚れを取る術式ってのもあって、汚染された魔力が放出されてたのかもな。それを含んだものを食べたりしたネズミが元凶だったりして」


「ああ、その可能性も考えられそうだな。何か新しいことが解ったら、そちらにも連絡を入れるとしよう」


「……ええ、それはありがたい。屋敷の問題が解決されたというだけで、私にとっては過ぎた幸運です」


 俺の言葉に乗っかったミズネに、バゼルさんが頭を下げる。……一応正当な理由があるとはいえ、真相をバゼルさんに伝えられないのは予想以上に心苦しかった。


「これで幽霊屋敷の噂に悩まされることもないでしょうし、商売は円滑にいくでしょうね。パパとママにも幽霊屋敷のこと、皆に伝えるように頼んでおくから」


「そうですね。……これで、捌けなかった物件が二つか三つは売れてくれるでしょう」


 それらはあの屋敷の噂が原因でクライアントが渋っていましたから、とバゼルさんは嬉しそうだ。帳簿を手に取るのは少し早い気もするが、今回の一件が新しい潮目となっていくのは間違いないだろう。


 終わってみれば、俺たちは屋敷を手に入れ、バゼルさんは新しい商談への道が明るくなった。キャンバリー・エルセリアという飛び切りの爆弾を見つける羽目にはなったが、それに目を瞑れば誰も損しない一番いい形だと言えそうだ。


「お約束通り、あの屋敷はあなた方にお譲りします。どうせ買い手のいないところでしたしね」


「ありがとう。また困ったことがあれば力にならせてくれ」


「ええ、その際は頼りにさせていただきますね。……確かギルドには、指名依頼というシステムもあった気がしますから」


 にこやかに笑みを交換し合いながら、ミズネの手に人数分の屋敷の鍵が手渡される。これで、あの屋敷は正式に俺たちの家となったのだ。


「それじゃあ、あたしたちはこれで。また近況報告に来るわね」


「ええ、お待ちしていますよ。……本当に、ありがとうございました」


 会釈しながら店を後にする俺たちに、バゼルさんは深々とお辞儀を一つ。……真相を伝えられなかったのは申し訳ないが、俺たちがやったことが間違いじゃないのは、去り際に見えたバゼルさんの晴れやかな表情が証明してくれているかのように思えた。

ということで、次回屋敷探索編エピローグです!ついに屋敷を正式に手に入れたヒロトたちはどこへ向かっていくのか!まだまだ話は続いていきますので、楽しみにしていただければなと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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