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第二百一話『黒幕の誠意』

「……そんなもの、ホイホイと出していいものには思えないんだけど……。それ、本当に効力あるやつなの?」


 ミズネは驚きを隠しきれていない様子だったが、突然出てきた予想外の報酬にネリンは疑いの目を向けている。まぁ、突然出てきて署名渡してやろうって言っても「はいそうですか」とはならないよな……。どちらかと言えば俺もその立場だ。


「ボクとしては喉から手が出るほど欲しいものではあるがね。その信頼性はーーまぁ、いささか疑わしくはあるかもしれないが」


 意外なことに、アリシアもその署名に対して厳しめな姿勢だ。発言に対して一番驚いているのがミズネという、なんとも珍しい状況が完成していた。


「君たちは疑り深いんだね……まぁ、そうでもなきゃこの屋敷の謎は解けないし、それでこそと言った感じではあるけどさ」


 受け取りようによっては失礼に当たる俺たちの態度にも、キャンバリーは朗らかな態度を崩さない。それが自分の署名に対する自信なのかハッタリなのかはわからないが、ともかくキャンバリーはひたすら堂々としていた。


「キャンバリー・エルセリアの署名……。私はその効力を信じているぞ。これほどの腕を持ったエルフが各地に影響を残していないというのは考えとして甘すぎる気がするからな」


「まぁ、確かにそれはそうかもしれねぇけど……」


 そもそも各地で影響を与えるようなことをしたのかがそもそも怪しいのだが、ミズネからするとそこは問題ないらしい。まぁ、やる気さえあれば確実に影響を与えられる存在ではあるもんな……同族だからこそ信じたいという心理もある程度働いているのだろう。


「疑い深くて結構結構。同族であるミズネはともかく、ボクの名をよく知らない人からすればボクは黒幕側の存在に当たるだろうしね。実際それで正解だし」


 この屋敷の実権は結局ボクが握ってたんだからさ、とキャンバリーは悪びれもせず笑っている。それが結果的にカガネのためだったとは言え、ここまで開き直られるとなんだか複雑な感じがするな……


「ーーつまり、あなたの署名は受け取らない方がいいということでいいかな?夫を目的のためとは言え欺き続けた自分のことを信じるなと、そう言っているように見えるんだけど」


「そうじゃないさ。むしろ逆だよ。そんなボクだからこそ、今から渡すものを信じて欲しいんだ」


 疑わしげな視線を強めるアリシアに対して、戯けたようにキャンバリーは肩をすくめて見せる。口調のよく似た二人だが、並ぶとアリシアの方が大人っぽく感じる。……いや、これキャンバリーが子供っぽいだけか……?


「あなたが、黒幕だからこそ……?何言ってるか自分でわかってる?」


「ああ、分かっているとも。ボクはこれでも反省して、オーウェンから離れた後は自己理解に努めたんだよ?」


「自己理解ねぇ……」


 それをした結果こんな感じならその結果すらも疑わしいが、とりあえずキャンバリーは信じて欲しいらしい。ただ、問題は信じるための要素がキャンバリーに皆無と言っていいほどなところだった。


「……仕方ないなぁ。それならば、君たちにとっておきの証拠と信頼要素を提供しようじゃないか。それを聞けば、君たちもボクのプレゼントを信じざるを得ないだろうしね」


 証拠ときたか……。最初は軽いノリの贈り物だと思っていたが、どうもキャンバリーはどうしても署名を受け取って欲しいらしい。そこまで躍起になる理由も、俺としては特に見つからないのだがーー


 そんなふうに俺が内心で首を捻るなか、キャンバリーは咳払いを一つ。そして、自分自身を指差してみせた。


「まず、ボクは黒幕的立場だろう?オーウェンの暴走があったとは言え、この屋敷の仕掛けに関してはだいたいボクの仕業だ」


「……まぁ、そうだな」


 一概にキャンバリーが悪いとはできないが、不動産屋が悪影響を受けているのは間違いなくコイツが原因だ。そう言った点では、キャンバリーはこの案件の黒幕と言って何も問題はない。


「ただ、ボクとしてはそれがバレるのはよろしくない。責められることはないかもしれないが、気ままに研究するのに邪魔が入りかねないからね。……だから、その署名は口止め料なのさ」


「口止め料……?」


「そう。『君たちにボクの権力の一端を上げるから、どうかこの件の真実は伏せておいてくれよ』ってことだ。ここで重要なのは君たちがその力を使うかではなく、それを受け取ったという事実の方だからね」


 分かるだろう?と言いたげな視線が、俺たち四人に向かって飛ばされている。客観的に見ればなかなかにゲスい思考ではあるが、だからこそ信頼できるのは事実だ。あとは、それを俺たちがどう受け取るかにかかっているわけだがーー


「……交渉成立、だね?」


 一歩踏み込んで署名を受け取ったミズネに、キャンバリーが不敵に笑いかけてみせる。一見勝手な行動に見えるそれを止める人が誰もいないことが、キャンバリーの提案をみんなが飲んだことを示す一番の証拠だった。

ということで、屋敷編も次回か次々回でひと段落するかと思われます!キャンバリーの提案を飲んだ四人が果たしてどうなるのか、楽しみにしていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価など是非是非していってください!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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