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第二百話『賢人たる俺たち』

「賢人……か。自分たちで言うのもお門違いな気はするが、私たちはそれほど大層なものではないぞ?」


「そんなわけがあるか。ボクが綿密に練り上げたいくつもの仕掛けを突破してここまで来たこと、そして不可解な現象におじけづくことなくここまで進んできた胆力。間違いなく、この百五十年間の中で一人もいなかった存在だよ」


 ミズネの控えめな反論を受けても、キャンバリーの興奮は止まらない。というか、むしろヒートアップしているかのように感じた。


「勿論謎なんか解かれない方がいいに決まっているさ。そもそもオーウェンに解かれたくないからいろいろと仕組んだわけだからね。……だが、せっかくの仕掛けが目的を果たした後も解かれないままというのも寂しい話だろう?」


「セリフが完全に黒幕のそれだ……」


 一時は悲劇の存在かもしれないとみていたキャンバリーの評価が、直接対面することでまたしてもひっくり返る。エイスさんが見ていたキャンバリー・エルセリアというエルフ像も、どうやら全く間違いではなかったらしかった。


「黒幕……まあ、間違ってはいないだろうね。この屋敷を実質的にコントロールしていたのはボクだ。一度たりとも、オーウェンに譲り渡すようなことはしなかったからね」


「それは、オーウェンを止めるために……?」


「当然さ。あの子に少しでもこの屋敷の権利を委譲したら、この屋敷を覆う結界を徹底的に分析されて再現されてしまう。それだけは、防がなければならなかったからね」


――まあ、あの子がいなくなった後に関しては完全に惰性だったんだけどね。


 そんな風に笑って見せるキャンバリーからは、やはり一切の衰えを感じない。百五十年という時間は、天才にとってそう長い時間でもないようだった。


「だからこそ、君たちがどうボクの仕掛けた謎を解き明かしたのかが気になるんだ。オーウェンだって、バカだけど頭が悪いわけではなかったからね」


「どう謎を解き明かしたか……と言われると、運頼りになってしまった部分が多いのは否めないな。そもそも、この屋敷の結界が引き起こす現象を把握していたのはヒロト……そこに立っている彼のおかげなんだ」


 キャンバリーの疑問に、ミズネは腕で軽く俺の方を指し示して見せる。突然水を向けられて焦る俺をよそに、キャンバリーの視線がずいっとこちらに向けられた。


「なるほど、君が最初の鍵を握っているのか。てっきり、ミズネと名乗る彼女がエースとなってこの屋敷の謎を解き明かしたのだとばかり思っていたよ」


「……その認識でも間違いはねえよ。ミズネの力と人脈が無きゃ、俺たちは絶対に真実にたどり着けなかったんだから」


 エイスさんに会ったからこそ、図鑑に載っていただけの情報が結界術式という情報にアップデートされたわけで。それが無ければ、きっと同じように真実にたどり着くことはできなかっただろう。


「いいや、私がしたことなど微力なものさ。ヒロトがくれた情報にネリンの行動力、そしてアリシアの知識が無ければここにはたどり着けていない。私の力が主力というのは、恐れ多い過大評価というものだよ」


「……責任のたらい回しは今までいやというほど見てきたが、功績のたらいまわしとはこれまた珍しいな……つくづく面白いよ」


 突然話を振られて驚いたような顔をしているネリンとアリシアを見つめて、キャンバリーは楽しそうに笑う。経緯はどうあれ、俺たちのことをとりあえずは好意的に認識してくれているようだった。


「何はともあれ、君たちはボクの仕掛けた謎を見事に制圧して見せた。それに関しては、しかるべき褒美が与えられるべきだ。今まで誰もなしえなかったことをしてみせたたわけだからね」


「褒美……?」


 いきなり飛び出した単語に、俺たちは揃って怪訝そうな表情を浮かべる。褒美と言われると悪い気はしないが、問題は何が飛び出してくるのかが全く分からないところだった。


「そう疑いの目を向けないでおくれよ。ボクは正当に君たちの努力を評価したいと思っているんだから」


「そうは言っても、その提案がいきなりすぎるのよね……疑うなって方が無理な話よ」


 肩を竦めて見せるキャンバリーに対して、ネリンがため息をつきながらそう返す。さっきまであった委縮は、最早すっかり消え失せているようだった。


「それは失礼した。それならば、褒美の提示をする方が先だったかもしれないね。……安心してくれたまえよ、しっかりと実りのある物だ」


 そう言うと、キャンバリーはガサゴソとアイテムボックスの中を探し始める。どうも長年しまい込んできたものなのか探索はしばらく難航していたが、やがて一枚の紙きれをその中から引っ張り出してきた。


「……それは……?」


 何事か書き込みがしてあるのは分かるが、ぱっと見ではその中身を読み取ることはできない。俺たちが目を細めてそれを読もうとしていると、


「ボクはオーウェンの一件があってからも旅を続けていた。人間たちの知識を得て、またエルフの技術を人間たちに布教するというのがボクの望みだったからね。……そのおかげか、いろいろと人脈も増えたんだ」


「……まさか……‼」


 そこまで言ったところで、ミズネは何かを察したように唸りを上げる。それに対して、キャンバリーは軽く頷くと――


「ああ、そのまさかでおそらく正しいよ。この紙―—ボクの署名があれば、大体の街や学術機関にはすんなりと入れるだろうさ」

通算二百話突破&九万PV突破、本当にありがとうございます!嬉しい節目を二つ同時に達成できたのも、皆様の応援のおかげです!これからも精進していきますので、応援していただからと幸いです!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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