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第百九十九話『天才現る』

「結界の機能が不全になったと思ってきてみれば、今度は研究室に謎の氷壁ときた。流石にボクと言えど、そこまで立て続けに異常が起こるとは想像していなかったな……」


 立ちすくむ俺たちを無視したまま、謎の女性はペタペタと氷壁に触れながら独り言をこぼしている。……この感じだと、俺らのことをそもそも認識してないって可能性すらあるか……?


「……戸惑っているところ、失礼する。ここは、あなたの部屋だと言うことで間違っていないだろうか?」


 マイペースな女性の様子に俺たちが踏み込めずにいる中、ミズネが一歩女性の方へと踏み込んでそう声をかける。それで初めて、女性はこちらを認識したようだった。


「ああ、それ以外にどんな仮説が立つと言うんだい?ボクとしては、君たちの正体をこそ問いたいわけだが」


 無造作に伸び散らかした金髪に、まるで猫のような細長い目。それに加えて無頓着に着崩された白衣が、女性からなんとも言えない狂気を感じさせる。この部屋の雰囲気も相まって、マッドサイエンティストという呼び方がとてもよく似合っていた。


「それは失礼した。私はミズネ。推測が正しければ、あなたと同郷の者だ」


「同郷……⁉︎」


 女性の圧にも負けない堂々としたその名乗りに驚かされたのは、女性ではなく俺たちの方だ。ミズネと同郷ってことは、つまりーー


「……へぇ。エイスの奴、ちゃんと掟を撤廃してくれたのか。その義理堅さだけは、信用してよかったみたいだね」


 どこか興味深そうに笑いながら、女性が一歩こちら側へと踏み込んでくる。それを見たミズネが腕を軽く振ると、氷の壁が消失した。


「ちょっ、大丈夫なの⁉︎ まだ安全だって確定したわけじゃ……」


「いや、大丈夫だよ。……ボクも今しがた、ミズネと同じ結論に至った。到底信じられないことではあるが、これが真実だ」


 無防備になったことに焦るネリンを止めたのはアリシアだった。目の前の状況を理解したというその目は、しかしありえないとでも言いたげに見開かれている。ーー実を言えば、俺の中にも一つの仮説はあった。


「……まさか、嘘でしょ……⁉︎」


 それと同じところにネリンもたどり着いたのか、目をかっと見開いて女性を見つめている。俺としても、自分でたどり着いた答えを否定したい気持ちでいっぱいだった。だが、もう無理なのだ。


 この部屋の持ち主だと名乗る、ミズネと同郷の女性。エイスの存在を認知しており、自分のことを『ボク』と呼ぶその口振り。そこまで手がかりが揃ってしまえば、もはや否定することの方が難しいのだ。たとえそれがどれだけ信じられない答えであっても、そこに横たわっているのは明らかに真実だった。


「危険人物だと思われていたのは少し心外ではあるが……君たちは、ボクの正体を知っているみたいだね。今しがたたどりついた、の方が正確かい?」


「正確だな。ここにきて対面するまで、その可能性は考えてもいなかった」


 こちらを値踏みするかのような視線にも動じず、ミズネは苦笑しながらも堂々と返す。同郷の仲間だとは言え、初対面であろう彼女にそこまでいけるのはさすがミズネだとしかいいようが無かった。


「日記から推察する限り、あそこで貴女の物語は終わった者だと思っていたからな。無意識に排除していた可能性がいきなり目の前に飛び出してきたとあれば、そりゃ驚くってものだろう」


「ダメダメ、先入観は排除しなくちゃ。それが研究の勧めであり、ありとあらゆる調べごとに対する鉄則さ」


「ーー偉大なる先達からの助言とは恐れ多いな。ーーキャンバリー・エルセリア」


 アドバイスを受けたミズネが、ついにその名前を口にした。かつてオーウェンに夢を与え、そして歪んだ彼を止めることができずに屋敷を去ったエルフ随一の天才の名を。


「私含めて誰もが騙されたよ。まさか今でも、貴女がこの屋敷に出入りしているなんて想像もしていなかった」


「オーウェンのことは簡単に諦められても、このラボと結界術式に関しては手放すのが惜しかったからね。……それに、ボクにしかできない仕事も残ってたし」


 ミズネの指摘に悪びれることもなく、戯けたようにキャンバリーは笑っている。俺たちの十倍は歳をとっているというのに、その仕草はひどく子供っぽかった。


「オーウェンにバレないような仕掛けを用意するのにこれでも苦労したんだよ?出来る限り彼の心に傷を残して去って、その足で地下のラボに魔力計測器とテレポートアンカーを設置して、後はいつでも屋敷の異変が判別できるように腕時計型の魔力端末を前もって準備しておく。それくらいやらないと、手遅れになりかねない状況だったからね」


 少しげんなりした顔をしながら、キャンバリーは足元の球体を拾い上げてそう説明する。表情がコロコロと変わっていくのは、基本的に飄々としているアリシアとは少し違うところだった。


「それじゃあ、地下の異音ってのは……」


「おおかたボクの作業音だろうね。ここは落ち着くし、結界のメンテも兼ねてよく来るんだ」


 俺の質問に呆気なく肯定が返され、屋敷の謎はこれで全て解決した。俺たちの想像より、ずっとずっと呆気なく。


「それで人が去ってくれるなら好都合だった。ボクとしても、研究の邪魔になられるのは嫌だったからね。……だけど、君たちは別だ」


 少し拍子抜けしている俺たちをよそに、キャンバリーは一人でテンションを上げている。そして、猫のような目をキラキラと輝かせながら俺たちを見つめるとーー


「百五十年解けなかった屋敷の謎を見事解き明かして見せた賢人達……君たちは、いったい何者なんだい?」


 俺たちにそう問いかけるその姿は、まるで大好物を目の前にした子供のようだった。

ということで、ついに屋敷の謎は全て解決いたしました!そして現れたキャンバリーとヒロト達がどんな関係性になっていくのか、次回以降も楽しみにしていただければなと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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