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第十九話『カガネの街は画期的』

「……五店周る?……冗談だよ、な?」


 軽く後退りしながら俺はそう聞くも、本気なんだろうなぁ…とどこかで直感していた。ネリンはこうと決めたら一直線なところあるからな…それを止めるのが難しいのは昨日の夜に体験済みだ。


「冗談なわけないでしょ……冒険者の必需品はたくさんあるんだからね?一店や二店じゃ足りないわよ」


 呆れたように肩をすくめながら、ネリンはやれやれとため息をつく。……なんだろう、分かっていたことではあるけどちょっとイラッとくるな……


「いや、それはそうなんだろうけどさ…わざわざ今日全部行く必要なんてあるのか…?」


 俺はダンさんともう少し会話してたいのだ。異世界で見つけた貴重なオタク仲間と親睦を深めない手などない。オタクの仲間意識の強さを甘く見てはいけない、と言ったところか。まぁ親睦深めようとした結果反発することも多々あるのだが、それはそれとして。


「別に俺たちに急ぎの依頼があるわけじゃなし、今日だけで用事を済ませる理由もないだろ。もう少し、のんびり準備したって…」


「……いや、明日も明日で行くところたくさんあるけど?」


 ……はい?


「冒険者としての準備が一日で終わるわけないじゃない。防具と武具だけじゃない、魔道具を見て回ったり野営の用具を揃えたり、なんなら二日でも短いくらいよ。ね、マスター?」


「そうだな。冒険者稼業を始める上での準備は多い。ここに来る駆け出しの冒険者達は大体急ぎ足だな」


 ネリンがダンさんに水を向けると、ダンさんは大きく頷きを返す。それにネリンは満足そうに目を細めると、


「そういうこと。ほらヒロト、さっさと行くわよ」


 なんて言いながら、俺の襟首をがっしりと掴んで歩き出した。ずんずん歩いていくネリンに釣られ、俺はズルズルと床を引きずられていく形だ。


「おい、もう少し配慮した運び方を……いや力強いな⁉︎」


 昨日も思ったことだけども!


「はぁ……次はどこにいくんだ?」


 じたばたしても意味がないと学習した俺は、大人しく引きずられるに任せることにする。もがけばもがくだけ体力を浪費するだけだからな。


「次は武器を見にいくわよ。……てか、諦めたんなら普通に歩きなさい」


「うわっち⁉︎」


 ため息をつきながら、ネリンは唐突に俺から手を離す。それを予期していなかった俺は、咄嗟に対応できずに派手に音を立てて地面に尻餅をついた。


「いっつつ……離すなら一言声かけてからにしろよな…?」


 血が出てる感じはないが、なにせ尻餅つくことなんてあまりなかったから普通に痛い。ジンジンするというか、尻が熱を持ったみたいな感じで痛いというか。


「そもそもアンタが渋るからこうするしかなかったんでしょ…?それが嫌だったら最初から歩きなさいな」


「正論だけども……」


 それにしたってやりようはあっただろうと言いたくはあるが、それを言い出すとどこまでも不毛な議論になりそうなのでやめておく。五店舗回ろうと思ったら急がなきゃ行けないのも事実だしな。


 尻をさすりながら俺は立ち上がり、スタスタと歩くネリンの隣に並んだ。ありがとうございましたー、と見送ってくれる店員さんの声を聞きながら、入ってきた扉を押し開ける。ネリンがくるりと向きを変えて歩き出したので、俺も慌ててその後を追った。


「ほら、次はこっち。武器屋は数多いけど、マスターみたいなプロフェッショナルはいないのよね…」


 足を止めないまま、ネリンは俺にそう講釈してくれた。こういうところはちゃんと教えてくれるあたり憎めないやつなんだよな……ネリンの人柄がそうさせているところもあるのだろうが、意地っ張りだけどしっかり思いやりもあるのが伝わってくるからっていうのもあるんだろうな。


「なるほどな……ここ行きゃ正解って店はないのか」


「そうね。あまりにも武器は種類ごとに規格が違いすぎて、一人の鍛冶屋が極めるには難しいのよねぇ……」


 なるほど……防具は服っていう基礎の形があるだけに似通った要素はあるが、武器なんて種類それぞれだもんな。同じ剣を作ろうったって長刀から短刀、あるいは曲刀まで様々だ。それを一人で極める……そういうことに詳しくない俺でも、それが無理そうだというのは容易に想像できた。


「んじゃあ、どうやって冒険者は自分に合った武器を見つけるんだ?まさかいろんな店を回って一つ一つ試しに振ってみるってわけでもないだろうし」


「昔はそうだったらしいけどね。カガネの街には、革命的な仕組みがあるのよ」


 俺の問いにそう答えると、ネリンはくるりと振り返る。それに釣られて足を止めると、とある大きな看板が目に入った。


「……『カガネ武具鍛冶連合斡旋所』……?」


「そう。それこそがこの街の良いところなの。この街が駆け出し冒険者にうってつけの街って言われるのも半分くらいはこれのおかげね」


 凄い仕組みなのよ?と、ネリンは胸を張って見せる。それに呼応するかのように、金属でできた看板が陽光を反射してきらりと輝いた。


「……ここに来れば、カガネで買えるあらゆる武具のお試しができるの。それに専門家に武具の適性を見てもらって、そこからぴったりのお店を斡旋してもらうこともできる。……どう、画期的でしょ?」


「……そりゃすっげぇな」


「そう、すっげぇのよ」


 俺が口を開けてそう呟くと、ネリンは笑ってそう混ぜっ返した。


ーーカガネの街でのお買い物、本番はまだまだここかららしい。

今回少し短めでごめんなさい!期末課題に追われる身分ゆえ、七月末までは短めになる回もちょこちょこ出ることが予想されます…八月からは文量増やす予定なのでお楽しみに!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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