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第十八話『ショッピング・マスト・ゴー・オン』

「……へえ、こっちもいいわね。でも、もう少し軽い方がいいかも」


「そうかもしれないな。よし、もう少し軽めのモデルを持ってこよう」


 鎧を着て軽く肩を回したりしながら、ネリンがダンさんにオーダーを伝える。それに軽く頷きを返してダンさんが棚を探しているさまを、俺は図鑑を抱えながらどこか呆然と見つめていた。


「その……なんだ、そう気を落とすもんでもねえかもしれねえぞ?どうなるか分かんねえってことは、これからどうにでもなれるってこった」


「いやー……それはないと思うんですよねー……」


 冒険者の人がポンポンと肩を叩いてくれるも、俺は力なく首を振るばかりだ。そんな都合のいい展開がない事は、なんとなくだけど分かっていた。


「今までなかったってことは、これからもないってことですし。仮に変化したとしても、身体能力の低い今の状態じゃお察しですよ……」


「……随分卑屈なんだな……?」


 そりゃチート分を図鑑に回したんだからな。やっぱり心配だからもう一個おまけしとこう、なんていう人情があることはまああり得ないだろう。


 だって神だし。


 とまあそんなことは口が裂けても言えないので、俺は適当に誤魔化しておくことにする。この世界の神様の扱いっていまだに謎だからな……後で図鑑で調べることがまた増えてしまった。


「まあ、どんな冒険者にもあった防具を作れるのがマスターだ。坊主にも合ったものをきっと作り出してくれるだろうよ」


「……ま、そうかもしれませんね」


 棚を見れば、右にも左にも鎧がずらりと並んでいる。そのどれもが一見すればサイズ以外は違わないように見えるが、そのどれもがよく見れば腰回りや首回り、鎧の金属部分の厚さも微妙に違っているのが興味深いところだ。それがダンさんのこだわりであり、冒険者も追及するところなのだろう。


 素人目ではあまり細かな違いは分からないが、それでも一つ一つの鎧のクオリティが高いことははっきりと分かった。冒険者がこの店をひいきにしているのも、この力の入れようを見れば納得の話だな。


「……待たせた。これなんかはどうだ?軽量化魔法を刻印しているから、この見た目でもそこそこ軽いぞ」


「へえ、鎧に魔術を……結構高級品じゃない?」


「そうでもないさ。研究されたての時はそこそこ高価だったんだけどな、刻印の簡単なやり方が普及してからは普通の鎧とそう変わらない」


 戻ってきたダンさんが持ってきたのは、胸元に青白い魔法陣が書かれた鎧だった。ぱっと見重装備にも見えるが、ダンさんが軽々と持てているあたり軽量化しているというのは本当の話なのだろう。軽量化魔法に刻印……知らない単語がまだまだいっぱいだ。


「……いいじゃない。さっきのより装備が厚くて、それなのに軽い」


「そうだろう?魔力の充填が必要なのは玉に瑕だが、それでも十分使う価値はあると思うぞ」


 服の上からかぶるようにして鎧を装備したネリンが、軽く飛び跳ねてみたりしながら満足げな声を上げる。それを見つめるダンさんは、とても嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「……いい笑顔するよなあ。防具のことを愛してやまねえってよくわかる」


 思わず見つめていたのか、隣からしみじみとした声が聞こえる。それに俺は頷きを返して、


「そうですね……好きを仕事にできて、本当に幸せって感じだ」


 好きを仕事にするな、なんて日本でよく言われてるけど、ダンさんの笑顔を見ているとどうもそれは間違いなんじゃないかと思ってしまう。好きなことでここまで大きなお店を開けるんだ、そりゃやりがいも実益もある幸せな仕事だろうなあ……


「……よし、これにするわ。マスター、支払いしていい?」


「毎度あり。駆け出しからベテランまで長く使える代物だ、大事にしてくれよ?」


「当然よ。メンテもここでいいのよね?」


 財布を探りながらのネリンの問いかけに、ダンさんはもちろんと言わんばかりに大きく頷きを返す。それに対してネリンもふっと笑うと、金貨をダンさんの手に握りこませた。


「……うん、ぴったりだ。お買い上げありがとう、これからもごひいきにな」


「ええ、何かあったら頼りにさせてもらうわ。……ヒロト、いいわよー」


 お互いに笑みを交換して、ネリンが俺を呼ぶ。それに手を上げながら歩み寄ると、ダンさんがこちらを向き直った。


「ヒロト、君の防具は時間をかけてゼロから作ることになる。すまないな、それまでは今までの防具で我慢してもらうことになるが……」


「全然大丈夫ですよ。ダンさんがどんなものを作るのか、期待してます」


 これはお世辞でも社交辞令でもなく、俺の単純な本心だ。今まで真摯に防具と向き合ってきた人が、新しい課題を前にどんな成果を出してくるのか、めちゃくちゃ楽しみだ。


 それに、ダンさんには共感できるところがたくさんあるからな。カレスにそういう概念があるかは知らないが、ダンさんは間違いなくオタクの部類に入る。きっと日本にいた時にあっても、ダンさんは俺のよき理解者になってくれてたんだろうな……


「一日で作れるとは言わないが、一週間はかけないように努力する。でき次第微調整して受け取ってほしいから、こまめに俺の店に立ち寄ってくれ」


「はい、一日一回は顔出すようにしますね」


 俺が頭を下げると、ダンさんも頭を下げ返す。いい話だなあ……とここで終われそうな雰囲気だが、俺の背中をネリンがポンポンと叩いた。


「親睦を深めてるとこ悪いけどそろそろ行くわよ。今日は予定いっぱいなんだから」


「……お前には情緒の心ってやつはないのか……?」


 雰囲気ブレイカーも甚だしいネリンの発言に、俺は肩を竦めて見せる。心の底に同じオタク心を持つ者同士の会話を邪魔するなど、あまりに無粋というか、なんというか――


「そりゃ新しい交流が生まれるのは大事だけどね?……あと五店回るんだもの、時間を削れるところは削っていかないと」



「――え?」



――今、こいつなんつった?

またしてもネリンの爆弾発言が飛び出し、ヒロトの異世界生活は二日目も長くなりそうですね!ネリンというキャラクター、本当によく動いてくれるので僕としては助かるんですがいつか暴走しそうで怖い……これことあるごとに言ってる気がしますね。それに振り回されるヒロトは果たしてどうなるのか、次回の更新をお待ちください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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