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第百八十六話『ウィンウィンな提案』

「裏切り者……って、どういうことよ⁉」


 いきなり飛び出してきた穏やかじゃない言葉に、ネリンは一歩アリシアに向かって詰め寄る。その瞳はまっすぐアリシアの瞳を捉えていたが、当のアリシアはあくまで冷静だった。


「裏切り者というのはあくまでオーウェンにとっての、だ。ボクたちにとって有益な存在であることは間違いないとも」


「オーウェンにとっての、裏切り……。この術式はお祖父さまを裏切るための研究だって、アリシアはそういうの?」


「残念ながら……いや、そう残念でもないのかな?お母さんがどっちに肩入れしているかは分からないが、少なくともオーウェンに協力するための術式じゃないことは確かだろうね。ここで研究されているのは、すでに完成された後の結界術式をいかにして崩すのかということにスポットライトが当てられた術式なんだから」


 なんでもない事のように言いながら、アリシアはパラパラとノートをめくっていく。しばらくそうしていると、ぱっとこちらにあるページを広げて見せた。


「ここが一番わかりやすいと思うんだけどね。『結界術式を崩すのは、私の予想よりもはるかに難しい』――このノートは研究の結晶であり、彼女自身の苦闘を記した日記でもあったんだ」


「……確かに、そう読めるな」


 研究用語ばかりで諦めたノートだったが、その部分だけはしっかりと読み取ることができた。その隣や上下はまた難しい用語がずらりと並んでいる中、そこだけは研究者の本音が吐露されている。


「ということは、最初から結界を崩すことが目的だった……何のために、そんなことを?」


「そこまでは分からないさ。ボクが見抜けたのは、ここにある事実をもとに推測された真実だけだからね」


 そこにどんな理由があるかは、探偵が語る事でもないだろう?


 そんな風に言い切り、アリシアはノートを机に戻す。言うべきことは言えたと、そう言いたげな満足感がアリシアからは漂っていた。


 アリシアの言う通り、結界術の破り方を示したノートがどうして生まれたかは分からない。裏切りを起こした理由なんて書いてない限りは永遠に謎のままだし、便宜上裏切りと言ったもののそれが行われたかだって謎のままだ。


「そこが不確定なままなのは、正直申し訳なくもあるけどな……」


 このノートの内容がわかってから、しなければならないと思ったことが一つあった。キャンバリーの娘の意図に沿っているかは分からないが、今の俺たちの目的のためには、絶対に必要なことが。


「……リリィさん。このノート、一回俺たちで持ち帰っても構いませんか?これをよく見せてやらなきゃいけないやつがいるんです」


 遠回しな表現だが、リリィさんを除く二人にはその情報だけで十分だろう。とはいえ、唐突にそんな頼みをされたリリィさんは戸惑っているようだった。


「結界の作り上、持ち出すことは不可能ではないのだけれど……それも、あなたたちの目的に必要なことなの?」


「はい。……生憎、俺とネリンじゃ魔術の方面にはからっきしなんで」


 勝手に一括りにしてしまったが、魔法などの面においてミズネの存在が必要不可欠なのは言わずもがなだろう。このノートにだって、ミズネだから読み取れる情報がきっとあるはずなのだ。


「それを知らなきゃ、俺たちはきっと納得して目的を果たせない、……そう思うんです」


「あたしからも、お願いします。この書庫がお母さんから伝わったもので、おいそれと外に出していい情報じゃないのは十分わかってるけど、それでも必要なの」


 いつの間にやら隣に並んでいたネリンが、俺の後に続くように頭を下げる。リリィさんと俺が初対面であることもあって、古くから顔馴染みであるそのネリンの援軍はあまりにもありがたかった。


「そうね……あなたたちなら、軽率な扱いをしないのはわかっているわ。そこを疑うわけでは、無いのだけれど……」


 しかし、リリィさんは中々首を縦に振ってくれない。一族にまつわる問題だし、軽々しく頷ける問題でもないのだろう。どうにかリリィさんの背中を押す一言はないかと、俺が思考を巡らせているとーー


「お母さん、ボクから少し提案があるんだ。聞いてもらってもいいかい?」


「アリシア……?」


「お母さんが悩んでいるのは、まだ拭いきれない不安があるからなのだろうとボクは思っている。責任感の強いお母さんのことだ、変なことはされないと分かっていてもその考えを捨て切れないんだろう?……だからね、ボクから提案がある」


 推理の後は沈黙を貫いていたアリシアが、リリィさんに歩み寄って人差し指を立てる。唐突な行動に首を傾げる俺たちに、アリシアはふっと笑って見せると、


「ボクが、ネリンたちの屋敷に同行しよう。お母さんからすれば抑止力がいてくれて安心、ネリンたちからしたらより集められる知識が少しでも増えてハッピー。……これこそ、商売人が求めるウィンウィンな関係ってやつじゃないか?」


 いつものようにーーなんでもないことかのように、またとんでもない提案をぶっ込んできたのだった。

一仕事終えたようなアリシアでしたが、まだまだ活躍は終わりません!この提案がどんな展開をもたらすのか、是非是非楽しみにしていただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、評価など気軽にしていってください!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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