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第百八十二話『孤独じゃない』

「キミがいるから――って」


「お前、それは少しうぬぼれすぎじゃねえの……?」


 元からネリンは自分の積み上げてきたことに誇りを持っているタイプではあるが、まさかそこまで自分を高く見ているタイプだとは思わなかった。これからは少し付き合い方を変えなきゃな――


「話を最後まで聞いて!あたしだって恥ずかしいの我慢していってるんだからね⁉」


――とおもいきや、これは一種のパフォーマンスだったらしい。その言葉に偽りがないのは、かなり紅潮しているネリンの表情からも明らかだった。


「……となると、キミにはキミなりの狙いがあると。……じゃあ、それを聞かせてもらおうかな?」


「そうよ、よく聞いてなさい。……一応、これはアンタのためなんだからね、アリシア」


「ボクの……?」


「ええ。……リリィさん、キャンバリーとオーウェンがどうして間違えたか、分かりますか?」


「どうして……って、それがどう関係するの?」


 いきなりの問いに、リリィさんはきょとんとした様子を見せる。かなり唐突な質問だし、戸惑っているのは俺も同感だった。だが、そこに応えることは無くネリンは続ける。


「あたしはリリィさんよりあの屋敷の二人のことを知らないし、これはあたしの勝手な想像かもしれない。けどね、あたしは――あの二人が、孤独だったのが良くないと思うのよね」


「孤独……?」


「そう、孤独。オーウェンにしてもキャンバリーにしても、人を頼るってことを知らなすぎなのよ。だから失敗した……なんて、あの人たちの功績を失敗ってひとくくりにするのも違う気がするけど」


 カガネの街を作り上げた功績は偉大だし、とネリンは苦笑して見せる。それをみて、リリィさんの戸惑いはさらに増しているようだった。


「……それが、アリシアの違いとどう関係があるというの……?」


「簡単なことよ。……キャンバリーとオーウェンだって、誰か協力者がいれば、心の内を明かせる人がいれば話は変わっていたかも知れない。……アリシアには、あたしがいるから大丈夫よ」


「あなたが、アリシアの理解者になるってこと……?」


「そういうこと。なんだかんだ十年近く一緒にいるんだし、考えてることくらいは分かってやれるわよ」


 呆気に取られた様子のリリィさんに、自信満々にネリンは断言してみせる。そこまで聞けば、俺にもさっきの発言の意図は汲み取れた。


「理解者であるネリンがいれば、アリシアが知識欲で道を踏み外すこともない。だから記録を見ても大丈夫……そういうことだな?」


「そういうことよ。……あんな一芝居打たなくても、最初から筋道立てて話せばよかったかも」


 遠回りしちゃったわ、とネリンは頭を掻く。その行動が誰のためかは、聞くまでもなく明らかだった。


「……相変わらず素直じゃないね、キミは」


「そっちこそ、ここまで聞いて最初に出る感想がそれなわけ……?」


 その意図は無事通じたらしく、アリシアは呆れたように笑って見せる。お返しと言わんばかりにネリンから鋭い視線が飛んでくるが、そんなことはお構いなしだった。


 そんな感じでいつも通りの二人の構図だったが、おもむろにアリシアの視線がネリンに向けられる。そして、はにかむようにふっと笑うとーー


「……ありがとう、ネリン。ボクの近くにキミがいてくれてよかった」


「……どーいたしまして。それ、知識が得られるからって言う理由での感謝じゃないわよね?」


「もちろんだとも。一人の人間として、一人の友人に対する感謝の意を示しているだけさ」


「……そ。こちらこそ、ありがとね」


 珍しくまっすぐな感謝の意に面食らったのか、今度はネリンがそっぽを向く番だった。素直になった上でも、やはり二人の会話の主導権はアリシアにあるようだった。


「……確かに、あなたたちはお祖母様とは違うのかも知れないわね……ネリンちゃんの言っていたこと、理解できた気がするわ」


 そのやりとりを見ていたリリィさんが、愛おしいものを見るように目を細める。二人の間にあるものは、友情と断言してなんら問題はないだろう。……アリシアはともかく、ネリンは素直に認めないだろうけどな。


「とにかく、あたしがいるからアンタは先人と同じ失敗をすることはないわ。……だからリリィさん、アリシアにも資料を見せてあげられない?」


 空気をリセットするかのように、ネリンがキッパリとそう断言する。それに対して、もうリリィさんの答えは決まっているようだった。


「……ええ、いいわよ。ネリンちゃんの思いは、存分に伝わったから」


「……ありがとう。アリシアが間違えかけたら、あたしが全力で引き止めるから」


「……そう言われると、何をされるか逆に興味が湧いてくるけどね」


 力づくでもね、と言うネリンの宣言に、隣でアリシアが苦笑を浮かべた。


 その好奇心は痛いほどわかるが、アリシアにはどうか道を間違えないでほしい。どうせ……いやほぼ確実に俺も巻き込まれるだろうからな。


「それじゃあ、案内するわね。……お母様の資料が、役に立ってくれることを祈っているわ」


 そう言って、ゆっくりとリリィさんは立ち上がる。部屋の奥へゆっくりと進むその影を見失わないように、俺たちはその後を追って歩き出した。


――唐突に巻き込まれた、屋敷にまつわる予想以上に大きな謎。……その真相まで、どうやらもう少しの様だった。

次回、屋敷の謎はどんどんと解明に近づいていきます!三人が何を見つけ出すのか、期待してお待ちいただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、評価など気軽にしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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