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第百八十話『憂いの行方』

「……久しぶりね、ネリンちゃん。まさかこんな形で再会することになるとは思ってなかったけど。……隣の子は、お友達?」


 ティーカップを机に置きつつ、アリシアのお母さんはにこやかに笑ってみせる。その所作は、どことなく気品を感じさせた。


 俺たちは応接室に通され、アリシアを含めた四人でテーブルを囲んで対面している形だ。お母さんはアリシアを交えたくなかったようだが、そこはアリシアが自分の主張を押し通したようだった。


「はい、あたしの仲間です。これまでに何度も助けられてきたんですよ」


「ボクも少ししか面識はないが、ネリンの言葉に間違いはないだろう。同世代の冒険者仲間がようやくできてネリンがはしゃいでいるというのはもっぱらの噂だったしねぇ」


「え、そうだったの⁉︎」


 そんなの全然知らなかった、と狼狽えるネリンを見て、アリシアはククっと笑ってみせる。……まぁ、あの両親がいる限り噂が広まるのは自然だよな……


「……それなら、信頼に足るわね。なんせアリシアの唯一と言っていい友達の仲間ですもの」


 それを見て、アリシアのお母さんの表情が少し緩む。どうやら、俺たちが聞きたいことは聞けそうだった。


「改めて、私はリリィ。この店の店主で、クォーターエルフ……ということになるわね」


「クォーターエルフ……」


 アリシアのお母さんーーリリィさんは軽くお辞儀をしながらそう名乗ってみせる。俺たちがそれにどう反応していいか分からずにいる中、一番に口を開いたのはアリシアだった。


「と言うことは、ボクは八分の一エルフの血が流れていると言うことになるわけだ。それすら初耳だからね、ボクからしたら実に興味深いことだ」


 朗らかに笑うアリシアに、皮肉の気配は感じない。未知のことに対して純粋に興味を抱く、言ってしまえばいつも通りのアリシアだった。


「そうね。……必要以上に情報を与えてしまえば、お祖母様に似たあなたは答えに辿り着いてしまう気がしたもの」


「あー……確かにそれは納得かも」


「そうだな……」


 リリィさんの評に、俺たちは思わず声をあげる。なんでもできてしまうというアリシアの自己評価はあながち間違ってもないし、なんならキャンバリーにそっくりだったというわけだ。日記の語り口から見るに、言葉遣いも似てるっぽかったしな……


「かく言う私も、お祖母様のことは伝え聞きにしか知らないのだけれどね。私のお母様は、よくお祖母様との日々のことを懐かしんでいたわ」


 リリィさんのお母さん……つまり、あの日記にあったキャンバリーの娘ということだろう。彼女がどうなったかは、あの日記からは知り得ない部分だった。


「お祖母様がカガネを離れた後も、一先ずはお祖父様のことを手伝っていたらしいわ。ーーそうでなければ、ハーフエルフは居場所を得られないから」


「……やっぱり、ハーフに対して世間は厳しいのね……」


 どこにもいられない半端者という、キャンバリーのハーフに対する評価を俺はふと思い出す。それを脱するために取った行動がキャンバリーと同じと言うのは、なんとなく皮肉な話ではあるがーー


「その甲斐もあってか、お母様は街の人々に受け入れられた。お祖父様が亡くなってからはカガネの運営を他の人に譲り渡して、一人の町人としての人生を送ったの。……そこで生まれた一人娘が、私ということになるわね」


「そう、なんですね……」


「普通の生活を送れたのね……それは本当に何よりだわ」


 サラッと告げられた事実に、俺たちは大きく息をつく。最後までキャンバリーが心配していたことは、どうも実現することなく終わってくれたらしい。


「それがきっと、あなたたちの知り得ない情報だったのでしょうけど……あの屋敷に人が入ることになるなんて、時間も経つものなのね」


「幽霊屋敷なんて言われて、みんな避けてたものね……」


 名前の直接的な由来は異音やら結界術のせいで起こる館内のリセットからくるものだろうが、かつてのオーウェンのことを知っている人ならその名前は別の意味にもとれるだろう。理想に辿り着けなかった彼が、幽霊となった今でも研究を続けているのではないかーーとかな。


「まぁ、私たちの事情を知られることもないから好都合ではあったのだけどね。……それを見つけたのが、混血に理解のあるあなた達でよかったわ」


「ボクが避けられてることからも分かる通り、混血に対する偏見は復活してしまったからねぇ。時の流れとは残酷なものだよ」


 正しかったことさえ、それに流されて失われてしまうのだからねーーと、アリシアは呆れたように肩をすくめてみせる。しかし、それに首を振ったのはリリィさんだった。


「いいえ、完全に流されてしまったわけではないわ。……今ここに、ネリンちゃんたちがいるように。……あなた達なら、託してもいいのかもしれないわね」


「託す……?」


 何か意を決したかのようなリリィさんに、俺たちは首を傾げる。それに応えるかのように、リリィさんはゆっくりと頷きを返すとーー


「……オーウェンのそれとは別にお母様が独自に紡いでいた論文があるの。……あなた達なら、正しく使ってくれるわよね」


 そう告げる目に宿っているのは、強くまっすぐな光だった。

皆様、明けましておめでとうございます!今年も去年以上に頑張っていきますので、これからもついてきていただけると嬉しいです!屋敷の謎もついに核心に迫りつつあるので、期待しつつお待ちください!

もし気に入っていただけたらブックマーク登録、評価などなどよろしくお願いします!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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